※2024年9月27日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字お越し
※紙面抜粋
※2024年9月27日 日刊ゲンダイ2面
三つ巴の総裁選は醜い“権力闘争”そのもの(C)日刊ゲンダイ
裏金、統一教会ケジメの総裁選だったはずが、案の定の変容ぶり。「政治とカネ」を語らず、突飛で生煮えの政策論争のバカバカしさ。その票読みは派閥のボスが出てくる国民愚弄。
◇ ◇ ◇
岸田首相が8月14日に退陣表明してから、1カ月半にわたった自民党の総裁選も、ようやく、27日終わる。石破茂・元幹事長(67)、高市早苗・経済安保相(63)、小泉進次郎・元環境相(43)の三つ巴となった選挙戦は、土壇場まで国会議員票の争奪戦が繰り広げられる、醜い“権力闘争”そのものだった。
「三つ巴の戦いになったことで、選挙戦は“仁義なき戦い”に突入してしまった。決選投票に進むためには、上位2人に入らなければならないため、進次郎、石破、高市の3陣営が生き残りをかけ、他陣営にも手を突っ込む、なんでもありの戦いとなった。悲惨だったのが4位以下の陣営です。『死に票になるだけだぞ』と引き抜きのターゲットになり、陣営からは『支援を約束してくれていた議員が他陣営に引きはがされた』と悲鳴が上がっていました」(自民党事情通)
露骨だったのが、高市陣営だ。24日の選対会議で、わざわざ加藤勝信・元官房長官(68)らの陣営から支援議員の取り込みを目指すことを確認している。
序盤、先行していた進次郎陣営も、当初は、ライバル陣営についた国会議員に対して「決選投票ではよろしく」と声をかけていたが、途中から余裕がなくなり「1回目から進次郎だ」と迫っていたという。
「3陣営に手を突っ込まれ、他陣営には『このままでは推薦人の20票に届かなくなってしまう』と、悲壮感さえ漂っていました」(前出の自民党事情通)
3陣営から働きかけられた自民党議員も「勝ち馬は誰なのか」をギリギリまで見定めようとしていた。最後まで国民を度外視した選挙戦だったということだ。
安倍派が暗躍の末期
この総裁選が、いかに国民世論とかけ離れていたか、象徴するのが安倍派議員の跳梁跋扈だ。
自民党が国民の信頼を失った大きな原因は「裏金事件」と「統一教会問題」だった。安倍派は「裏金事件の震源地」「統一教会汚染の総本山」なのに、平然と暗躍していた。総勢約100人という数の力をバックに、なかばキャスチングボートを握っていた。
25日は、数の力を見せつけるように、安倍派議員30人が都内に集結。26日も安倍派の参院議員15人が国会内で会合を開いている。
さすがに国民も、1542万円の「裏金」をつくり、離党勧告処分を受け、自民党を離れた世耕弘成・前参院幹事長までが、総裁選に介入していた事実には仰天したのではないか。
朝日新聞によると、9月中旬、自民党議員らと一緒に東京ドームで野球観戦していた世耕は、おもむろに総裁選の話題を切り出し、「国会を乗り切れる候補でないと駄目だ」と口にしたという。周囲は、答弁に不安のある進次郎の否定と受け取ったそうだ。
自民党から追放され、投票権もない男が総裁選に口を挟むとは、常識では考えられないことだ。
政治評論家の本澤二郎氏がこう言う。
「呆れたのは、進次郎が24日、世耕議員の事務所を訪ねたことです。票欲しさがミエミエでした。『安倍派5人衆』のひとりだった世耕議員は、いまだに参院安倍派に影響力を持っていますからね。この総裁選の“裏テーマ”は、安倍派の復権です。安倍派議員は、勝ち馬に乗ることで復権をはかるつもりでしょう」
国民の信頼を失う原因をつくった安倍派議員が蠢いていたのだから、あまりにもグロテスクだ。
政策論争が起きない異常
暗躍、復権…とどのつまりは自民党は裏金事件を問題だとも思っていない(C)日刊ゲンダイ
本来、この総裁選の最大のテーマは「裏金事件」と「統一教会問題」だったはずである。自民党が国民の信頼を回復したいのなら、この2つにケジメをつけるしかないからだ。国民の多くも、2大テーマが争点になるはずだと思っていたのではないか。
ところが、9人の総裁候補は、誰ひとり、この問題に切り込もうとしなかったのだから、どうしようもない。
9候補が揃った13日の共同記者会見。裏金事件の「再調査」に前向きな候補は皆無だった。
統一教会問題に対する対応も同じだ。17日のTBS系のニュース番組で、司会者から「総裁になった場合、再調査を行う方は挙手を」と求められたが、手を挙げた候補はひとりもいなかった。
「9人の総裁候補は、『新しい事実が出てきたら、再調査をしなきゃいけない』などと、もっともらしいことを口にしていましたが、新しい事実を見つけるためにも『再調査』が必要なことは分かっていたはず。再調査を拒否した総裁候補9人は、どうかしています」(本澤二郎氏=前出)
そのうえ、事実上、一国のトップを選ぶ選挙だったというのに、聞き応えのある「政策論争」も起きなかった。
「物価高」「少子高齢化」「格差拡大」──と難問が山積している日本は、選挙となったら、候補者の間で激しい論争が繰り広げられるのが当たり前なのではないか。
なのに、それぞれの候補が「アメリカ本土に自衛隊の基地をつくる」「紙の保険証の廃止時期を延期する」「防衛増税をやめる」──など、思いつきの政策を打ち上げただけだった。
肝心の「裏金事件」と「統一教会問題」に切り込まず、政策も戦わせないのでは、一体なんのための総裁選だったのか、という話だ。
「古い自民党」そのものだった
この総裁選でわかったことは、もはや自民党が生まれ変わることは、あり得ないということだ。
「刷新感」を演出するための総裁選だったのだろうが、やっていたことは、「古い自民党政治」そのものだった。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)がこう言う。
「候補者9人の戦いも、一皮めくると、派閥ボス、キングメーカーの争いだった。数を持っている麻生太郎副総裁、菅義偉前首相、そして岸田文雄首相の3人が、影響力を見せつけた形です。出馬会見で『古い自民党を終わらせる』と豪語していた進次郎候補も、終盤になって麻生副総裁と面会し、支援を要請する始末だった。今回の総裁選のポイントは“脱派閥”だったのではないか。もし、自民党に本気で生まれ変わる気持ちがあったのなら、この総裁選で“裏金事件”と“統一教会問題”にケジメをつけようとしたはずです。ところが、候補者9人は、誰もこの問題に決着をつけようとせず、安倍派議員の跋扈を許す状況だった。要するに、ホンネでは、派閥政治を悪いとも思っていないし、裏金事件と統一教会問題についても、反省していないということでしょう」
一票を持っていた自民党の国会議員も、“選挙の顔”になるなら、新総裁は進次郎候補でも、石破候補でも、高市候補でも、誰でもよかった、というのはホンネなのではないか。
1カ月半という長丁場だったが、これほどワクワク感に乏しい総裁選も珍しいのではないか。
選出された新総裁は、「ご祝儀相場」がつづいている間に解散・総選挙に踏み切るつもりだ。グロテスクな「刷新芝居」を見せられた有権者は、近いうちに行われる総選挙で思い知らせるしかない。
http://www.asyura2.com/24/senkyo295/msg/591.html