※2024年9月13日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
※紙面抜粋
※2024年9月13日 日刊ゲンダイ2面
まるで「ひな壇芸人」/(C)J MPA
唐突で奇抜な思い付きをよくもまあ、これだけ並べたものだ。国民騙し、国民愚弄、言いっ放しの無責任。裏を返せば、9人乱立の目くらまし選挙こそが、自民党政治の限界と終焉の象徴なのではないか。それを国民は肌で感じ取っている。
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事実上「日本の首相」を選ぶ大事な選挙だというのに、これほど高揚感のない総裁選も珍しい。
12日告示された自民党総裁選。抽選で決まった届け出順に高市早苗経済安保相(63)、小林鷹之前経済安保相(49)、林芳正官房長官(63)、小泉進次郎元環境相(43)、上川陽子外相(71)、加藤勝信元官房長官(68)、河野太郎デジタル相(61)、石破茂元幹事長(67)、茂木敏充幹事長(68)の9人が出馬して、「刷新感劇場」の幕が開いたが、岸田首相が8月14日に不出馬を表明してから約1カ月間、候補者の顔をテレビで見ない日はない。ようやく告示されて本格スタートした時点で、すでにすっかり食傷気味だ。
しかも、今回の総裁選は告示から投票日までの期間も長い。現在の規定が設けられた1995年以降、最長だ。12日の立会演説会を皮切りに、13日は共同記者会見、14日は日本記者クラブ主催の討論会、その後も全国8カ所で9人がガンクビ並べた演説会や討論会が行われる。それ以外にも、連日のテレビ出演が予定されている。
これから27日の投開票まで15日間、このバカバカしい三文芝居を見せつけられるのかと思うとウンザリしてしまう。
だいたい、討論会といったって、候補者が9人もいたら議論が深まることはない。順番に一言、二言しゃべって終わりだ。どうしたって言いっ放しになる。
「無難なことを言っておけばいいのだから、議論が不得手な候補者にとっては、ボロを出さずに済むというメリットはあるかもしれない。石破氏や小泉氏が人気先行で逃げ切る展開が考えられます」(政治評論家・本澤二郎氏)
口先だけの大風呂敷にウンザリ
12日、党本部8階のホールで行われた演説会では9人の候補者が持ち時間10分で所見発表を行ったが、会場で演説を聞いた中堅議員はこう言っていた。
「自分はどの陣営にも属していないので、全員の演説や論戦を聞いて誰に投票するか決めるつもりだけど、9人の演説をじっと聞くのは正直言って疲れる。みんなアレもコレもと並べ立てるから、争点がバラけて、結果的に差異が分かりづらくなってしまう。ふだんから候補者たちと接している自分でもそうなのだから、国民にはまったく響かないんじゃないか」
話が面白ければまだいいが、そろいもそろって上っ面だけで、「所得倍増」だとか大風呂敷を広げ、思い付きみたいな政策を並べ立てるばかり。それでいて、裏金事件の解明や裏金議員の処遇には極力、触れないようにする。あまりに無責任で、国民を愚弄していると言わざるを得ない。
唐突に政策活動費を廃止すると言い出した茂木なんか典型例だ。「次の総理にふさわしい人」の世論調査などでは、五十音順で最後の方になることが不利だからといって、「『アライ』とかに生まれれば良かった」とボヤいていたが、届け出順でも最後になった。「分校出身」をウリにして、総裁選では「結果にコミット」が決めゼリフ。3年近くも与党幹事長をやっているのだから、政策活動費の廃止が持論なら、さっさとやって結果にコミットすればよかったのではないか。
茂木だけではない。裏金事件に翻弄された通常国会で野党と公明党が政策活動費の廃止や使途公開を要求した際、あーだこーだ言って突っぱねたのが自民党だ。その時は口をつぐんでいた小林や小泉も、今になって政策活動費の廃止を言い出した。こんな茶番には辟易する。
物価高に苦しむ国民生活を顧みず夢物語の政治家たち
夢物語。古い景色のまま生まれ変われず(上川陽子外相、小林鷹之前経済安保相=上)/(C)日刊ゲンダイ
米大統領選では、国民生活を脅かすインフレ対策が大きな争点になっている。日本でも国民の関心事は足元の物価高や経済政策だ。ところが、自民党総裁選では物価高対策は置き去りにされている。経済対策にしても、候補者の口から出てくるのは、解雇規制の緩和だのスタートアップ支援だの国民の実情からかけ離れた話ばかりだ。
「自民党のボンボンやエリート政治家たちには、物価高に苦しむ国民生活が見えていないかのようです。物価高の大きな要因になっている円安を引き起こしたアベノミクスの総括に言及する候補者もいない。それどころか、そろいもそろって改憲を語り、緊急事態条項や9条への自衛隊明記を訴えている。これでは、誰が新総裁になっても、安倍政権から菅政権、岸田政権に引き継がれてきた安倍軍拡路線の継承になりそうです。自民党の刷新なんて、期待するだけ無駄ということが国民にもハッキリ分かったのではないでしょうか」(本澤二郎氏=前出)
そう言われてみれば、各候補者の所見演説には安倍元首相を彷彿とさせるフレーズが散見された。
「わが国の伝統と文化と歴史にまっすぐな思いを持って、誇りを持つ自民党」(高市)
「世界をリードする日本に」「もう一度日本を世界の真ん中に」(小林)
「日本総活躍プランを実行」(加藤)
「必要に応じて世界の平和、地域の安定を守るために行動する」(河野)──。
人数だけは多い旧安倍派の議員票欲しさに、色目を使っているように見える。だからアベノミクスの評価に誰も言及しないし、裏金事件の実態解明にも後ろ向き。本来は「政治とカネ」問題が最大の争点になるはずなのに、腫れ物にさわるような、なんとも薄気味悪い総裁選なのである。
自民党全体がダメなことを証明
政治評論家の野上忠興氏は「こんな総裁選では、自民党にとってプラス効果はない」と手厳しい。こう続ける。
「9人も立候補したのに、みな当たり障りのないことばかり言っていて、新鮮味がない。捨て身の覚悟で裏金事件の解明に切り込む候補者がいれば、新たなスターが誕生したかもしれませんが、党内向けのアピールに終始している印象で、刷新感とは程遠い。この9人の中から次の総理が選ばれると思うと、見ている国民もゲンナリじゃないですか。総裁選のお祭り騒ぎで注目を集め、新総裁で支持率アップしたところで解散・総選挙というのが自民党のシナリオでしたが、この調子では、新総裁が選ばれても、たいして上積みは望めないかもしれない。この総裁選は、自民党全体がやはりダメなのだというイメージを国民に与えるだけでしょう」
政府・与党は次の首相を選出する臨時国会を10月1日に召集する方針だ。自民党総裁選で27日に選ばれた新総裁が首相に指名され、すぐさま新内閣が発足。考えうる最短のスケジュールである。
新たな首相のご祝儀相場で解散・総選挙になだれ込む算段だから、この総裁選は、誰が表紙なら裏金事件に幕引きして総選挙に勝てるかが最優先。9人による論戦は単なる演出でしかなく、自民党議員の大半が、実は政策論争なんて気にしちゃいないのだ。
そういう姑息と不誠実を国民が肌で感じ取っているから総裁選は盛り上がらず、早くもシラケたムードが漂っている。
候補者乱立の目くらまし選挙は、自民党政治の限界と終焉を象徴しているとしか言いようがない。
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