※2024年9月9日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
※紙面抜粋
※2024年9月9日 日刊ゲンダイ2面
誰一人、裏金問題に切り込もうとしない総裁選は裏金幕引きセレモニー(小泉進次郎元環境相と応援演説をする菅元首相=左)/(C)日刊ゲンダイ
自民党総裁選は案の定、どの候補も裏金には切り込まず、付け焼き刃の政策論争で電波ジャック、それに加担の大マスコミ。裏金幕引きセレモニーと化しているが、それに騙されたらオシマイだ。中でも看過できないのが首切り進次郎の新自由主義、「庶民切り捨て改革」だ。
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予想通りだ。“本命視”される小泉進次郎元環境相(43)が総裁選への出馬を正式表明した途端、大手メディアの報道がヒートアップしている。
さっそく、進次郎が銀座で街頭演説する姿を追いかけ、「5000人の聴衆が集まりました」と大々的に伝え、地元・横浜で演説した8日も「菅義偉前首相、進次郎支援を明言」と、ビッグニュースかのように報じている。
民放のニュース番組は、銀座で演説を終えた進次郎を直撃。進次郎本人に「いまもあれだけね、本当に多くの方が暑い中、集まっていただいて……もう感謝感謝です」と語らせ、「やっぱり、いままでの自民党にない雰囲気を感じましたね」と聴衆の声も伝えていた。ほとんど、進次郎のPR役のようになっている。
自民党総裁選は、まだ告示(12日)もされていないのに、大手メディアはこの騒ぎである。27日の投開票日が近づいたら、いったい、どうなるのだろうか。
驚いたのは、出馬会見で進次郎に厳しい質問をした記者をバッシングする報道まであることだ。
フリーの記者が、進次郎に「首相になってG7に出席したら、知的レベルの低さで恥をかくのではないか。それでも総理を目指すのか」と質問したことに対し、テレビのコメンテーターなどが「失礼だ」などと批判している。
たしかに、失礼な質問だろうが、進次郎に一国のトップが務まるのか、国民が不安を抱いているのも事実なのではないか。なにしろ進次郎は、同僚だった金子恵美元議員から「地頭が悪い」と、致命的な評価を下されている男だ。国民に代わって記者が聞くのは、当然なのではないか。
実際、「地頭が悪い」のかどうか、6日の出馬会見は原稿を読んでいたから論旨が明解だったが、普段はなにを言いたいのか、意味不明のことも多い。環境相時代の2020年、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部を欠席し、野党に追及された時、こう弁解している。
「私としては真摯に受け止めて反省している。『反省しているとは言っているけれど、反省の色が見えない』というのは、まさに私の問題。なかなか反省が伝わらない自分に対しても反省したい」
いったい、なにを言いたかったのか。
「下馬評では、進次郎は次期総理の最右翼です。本来、メディアは、進次郎に一国の総理を担うだけの教養、経験、哲学が備わっているのか、世界のリーダーと渡り合えるのか、徹底的に分析するのが役割のはずです。ところが、進次郎の資質に踏み込む報道はほとんどない。恐らく、総裁選の投開票日までこうした報道がつづくはずです」(政治評論家・本澤二郎氏)
「政治とカネ」が最大の焦点だ
禊は済ませたとして、復権してしまう(C)日刊ゲンダイ
いま頃、自民党議員はニンマリしているに違いない。まんまとメディアジャックに成功し、計算通りに総裁選が進んでいるからだ。
もともと、この総裁選は「政治とカネ」で失墜した自民党への支持を回復させるために、自民党が仕掛けた国民騙しの壮大なイベントである。総裁選レースの取材に追われているためだろうか、自民党の思惑通り「政治とカネ」に関する報道も一気に少なくなっている。
候補者が乱立していることも、自民党には好都合だという。8人以上の候補者が、それぞれ自分の政策を訴えることで、総裁選の争点が拡散され、その結果「政治とカネ」の問題も目立たなくなるからだ。
事実、河野太郎デジタル相(61)が掲げた「年末調整を廃止し、全納税者による確定申告」や、茂木敏充幹事長(68)の「防衛費増税ゼロ」、石破茂元幹事長(67)が訴えている「富裕層への課税強化」など、メディアが飛びつきやすい政策が次々に打ち出され、「政治とカネ」は、数ある争点のワンオブゼムになりつつある状況だ。
「総裁選への出馬を表明している候補者は、全員『自分が総理になったらこれをやる』と、未来を語っています。たとえば、進次郎さんは『総理になって、答えを出していない課題に決着をつけたい』と、ライドシェアの完全解禁や、選択的夫婦別姓制度の導入法案の提出を掲げています。しかし、総裁候補が語るべきは、自民党の『政治とカネ』のはずです。この総裁選は、岸田首相が『政治とカネ』で国民の信頼を失い、立候補を断念した総裁選ですからね。ところが、候補者は誰一人、裏金問題に切り込もうとしない。進次郎さんも、裏金議員の公認について『新執行部で厳正に判断する』と歯切れが悪い。最大の問題は、大手メディアです。総裁選レースの行方に目を奪われ、『政治とカネ』はアリバイ程度にしか報じなくなっている。このままでは、自民党の総裁選も、次の衆院選も、『政治とカネ』は数ある争点の一つになってしまう恐れがあります」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
党が危機に陥るたびに、大々的に総裁選を実施し、「場面転換」を図るのは、自民党の常套手段である。
裏金議員も大手を振って復権
自民党は、新総裁を選出したら、一気に解散総選挙になだれ込むつもりだ。現時点では、進次郎が新総裁に選ばれる可能性が高い。ある中堅議員は、すでに進次郎との2連ポスターを作成しているという。
これまでも自民党は、新しい総裁を選んだ直後、衆院を解散して大勝してきた。あの地味な岸田首相でさえ、首相就任後、すぐに解散に踏み切り、261議席と単独過半数を確保している。
しかし、有権者は絶対に自民党に騙されてはダメだ。
もし、次の衆院選で自民党を勝利させてしまったら、「政治とカネ」は完全に幕引きにされてしまうだろう。裏金議員たちも「禊は済んだ」と大手を振って復権してくるに違いない。
そもそも、進次郎が新総裁に選ばれるのは、労働者にとっては悪夢でしかない。公然と「首切り法案」の成立を掲げているからだ。
銀座で行った街頭演説でも「私が総理になったら」と連呼しながら、出馬会見で打ち出した「政治改革」「聖域なき規制改革」「人生の選択肢拡大」──の3つの改革を「1年以内にやります」と強調していた。
このうち「聖域なき規制改革」の本丸が、解雇規制の見直しである。6日の出馬会見でも「労働市場改革の本丸、解雇規制を見直す」と明言していた。
労働問題に詳しい法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「解雇規制の見直しとは、要するに、金銭を払えば労働者を解雇できるようにするということです。現行制度は、整理解雇するには、人員削減の必要性など4条件を満たす必要があります。企業は簡単に社員をクビにできない。労働者にとっては、雇用を守ってくれる生命線ともいえます。解雇規制を見直そうというのは、まさに新自由主義の考え方です。ただでさえ日本の雇用は、小泉純一郎政権が進めた『聖域なき構造改革』によって大きく揺らぎ、いまや労働者の4割が非正規社員という状況です。もし、解雇規制を見直したら、日本の雇用制度は崩壊しかねない。貧富の格差も拡大してしまうでしょう」
本当に進次郎が新総裁に選ばれてしまうのだろうか。大手メディアは、どこまで分かって、自民党と一緒になってお祭り騒ぎをしているのか。
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