※2024年9月5日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
※紙面抜粋
※2024年9月5日 日刊ゲンダイ2面
有権者に広がる不安、「ヤバくない?」/(C)日刊ゲンダイ
連日、候補者が名乗りを上げる自民党の総裁選。目下の下馬評はやっぱり進次郎本命らしいが、ポエムで選挙に勝てるのか。マトモな有権者には「茶番」はすべてお見通し。「バカにするな」と怒っている。
◇ ◇ ◇
「進次郎? ヤバくない」
先月下旬、平日の昼下がり。本紙記者が遅めのランチを取っていると、隣席で30代前半とおぼしき若い夫婦が、自民党総裁選(27日投開票)を話題にしていた。
「進次郎、出るらしいよ」と持ちかけた夫に、妻は即座に冒頭の言葉を返した。
若者特有のポジティブな感情を表現する「ヤバい」のニュアンスではない。妻は続けて「この国は大丈夫かしら」と深刻な表情を浮かべた。彼らが国民を代表しているとまでは言わない。だが、有権者にも広がる「不安」は伝わってきた。
総裁選の告示日(12日)が1週間後に迫り、今週は出馬会見ラッシュ。林官房長官、茂木幹事長に続き、小泉進次郎元環境相が6日、出馬表明の会見を開く。新総裁レースの目下の下馬評は、進次郎が本命。さながら「真打ち登場」のごとくメディアも大騒ぎだろうが、進次郎の実績と経験不足はもちろん、自民党内の誰もが知るところだ。
それでも本命視されるのが、自民のおめでたさ。進次郎は「変人宰相」として高支持率を誇った純一郎元首相の次男だ。
父は2001年の総裁選で「自民党をぶっ壊す」と宣言し、地すべり的に圧勝。内閣支持率も森政権終盤のひと桁台から7割強にまで跳ね上がった。
裏金事件や岸田政権の自滅で党存亡の機に直面する今、進次郎本命は四半世紀越しの「小泉旋風」の再来を期待してのこと。開き直った「ご都合主義」には、前出の夫婦ならずとも不安と怒りを感じざるを得ない。
実績ゼロでも「神輿は軽くてパーがいい」
実際、進次郎を支持するのは、次の衆院選で当落線上の若手議員が中心だ。
進次郎なら見栄えも良くて刷新「感」を演出でき、染み付いた裏金のイメージを「ぶっ壊す」。大逆風が予想される「選挙の顔」には最適という身勝手な理由で、持ち上げているにすぎない。
進次郎は、自民が下野した09年に初当選。以来5期15年を重ねたものの、めぼしい実績はゼロだ。
最初に掲げたのは「復興支援」で12年2月、自民党青年局長として東日本大震災の被災地支援活動チーム「TEAM-11」を設置。当初は自ら毎週のように被災地に通ったが、13年9月の復興政務官就任を機に青年局を抜け、活動から離れた。
政務官としても目立った成果は上げられず、結局、復興支援で印象に残るのは昨年、福島第1原発の処理水を放出した際、安全性をアピールするため、福島の海でサーフィンに興じたパフォーマンスぐらいなものだ。
唯一の閣僚経験である環境相時代も記憶に残るのは19年9月、就任直後に出席した気候行動サミットで飛び出した「セクシー」発言のみ。「おぼろげながら浮かんできた」という「46%」の温室効果ガス排出削減目標など、独特の語り口からついた異名は「ポエム大臣」。環境相としての“功績”は、レジ袋の有料化しか思いつかない。
進次郎は遊説先の方言や名産品を話題に取り入れ、聴衆を沸かせる技術には長けているが、選挙演説を聞いても「経済」「外交」など彼の政治観をうかがわせる内容は一切、出ない。弁舌爽やかだが、中身スカスカ。意味不明な発言の数々は「進次郎構文」と呼ばれ、ネット上には数々の「迷言集」が出回っている。
しょせん、進次郎を担ぎ出す連中は「神輿は軽くてパーがいい」ということ。とはいえ、単なる「パー」ならマシで、進次郎は一皮むけば「ヤバい顔」が現れる。「自助」を重んじる新自由主義的思考とオヤジ譲りの対米従属路線だ。
自助重視のネオリベ思考と父譲りの対米従属
2代続けて米国隷従路線(2006年訪米で、ブッシュ大統領の前でロカビリーダンスを披露する小泉純一郎首相)/(C)ロイター
「ヤバさ」が際立つのは、15年10月から約2年間任された自民の農林部会長時代。「農協改革」を訴え、父の二番煎じで農協に「抵抗勢力」のレッテル貼り。
農林中金やJAバンクなど金融部門の切り離しを目指したが、モメにモメた挙げ句、改革は頓挫した。
16年10月には党内の若手議員と共に「人生100年時代の社会保障へ」と題した提言を発表。「健康ゴールド免許」の導入を目玉に掲げ、〈現行制度では、健康管理をしっかりやってきた方も、そうではなく生活習慣病になってしまった方も、同じ自己負担で治療が受けられる。これでは、自助を促すインセンティブが十分とは言えない〉と断じた。
世の中には、生まれつき病を抱えた人が大勢いる。健康にお金をかけられない人たちもいる。そんな弱者を歯牙にもかけず、無事故・無違反の「ゴールド免許」に倣い、健康管理に努めた人々の医療費の自己負担を3割から2割に引き下げるよう求めたのだ。
「ロコツなまでの弱者切り捨て。ネオリベ(新自由主義)の極致です」と言うのは、高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)だ。こう続けた。
「そもそも『交通違反』と『疾病リスク』を同列に扱うこと自体、おぞましい。人工透析患者を『自業自得』と切って捨て、『全員実費負担せよ』と訴えた日本維新の会の炎上アナ候補と発想は変わりません。根底にあるのは、純一郎氏と同じ米国型の弱肉強食路線。カネさえ全てで、裕福な人々をますます富ませるネオリベ的発想です。頓挫したとはいえ、農協マネーの切り離しも、数百兆円規模の資金を虎視眈々と狙う米国の金融機関を喜ばせるだけです。進次郎氏の極端な“米国かぶれ”は非常に危うい」
四半世紀越しに「自民党をぶっ壊す」を実現
進次郎の人格形成は、ご多分に漏れず彼の青年期が多大な影響を及ぼしているとみていい。関東学院六浦小から関東学院大までエスカレーター式に進学。大学卒業直前に突然、米名門校・コロンビア大大学院への留学を志した。
父は当時、現職の首相だ。週刊新潮によると、ブッシュ米政権で要職にあった人物のツテを頼って得たアドバイスは「父の跡を継ぎ、首相になる可能性があること」を強調するように──。“秘策”が奏功したのか、進次郎は超難関大への留学を果たし、06年5月には政治学の修士号を取得。翌月からワシントンにある「戦略国際問題研究所」(CSIS)の非常勤研究員を務めた。
CSISは日本外交に絶大な影響力を持つジャパンハンドラーの巣窟だ。進次郎は米国政府に対し日本が演じるべき振る舞いをみっちり仕込まれたのかもしれない。空疎で薄っぺらな実像ながら、筋金入りの米国至上主義者。こんな危うい人物が、総裁選では「立党からの国民との約束」と思い付きのように改憲を訴えている。ますますヤバい。
「党員・党友の保守票欲しさのサービストークにも聞こえますが、目に余る進次郎氏の米国隷従路線は要警戒です。自公政権が米国の『グローバル・パートナーシップ』を堂々と掲げる中、世界のどこでも米国の戦争に協力するための改憲となりかねません。それにしても定見なき政治家に軽々しく改憲を口にして欲しくはない。国の最高法規である憲法を“おもちゃ”扱いするなと言いたい」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
刷新感を醸し出す進次郎の後ろ盾は「自助」つながりの菅前首相や、父の代から縁のある森元首相ら「古い顔」ばかり。思惑通りポエム進次郎で次の選挙に勝てるのか。
「総裁選の討論会で必ずボロを出し、よしんば決選投票で何とか新総裁に選ばれても、マトモな有権者は総裁選の『茶番』と進次郎氏の底の浅さを見抜いています。いざ解散・総選挙に打って出ても、裏金議員、旧統一教会とズブズブ議員の苦戦を覆すほどの“神通力”が、進次郎氏にあるとは思えません。有権者を『バカにするな』です」(五野井郁夫氏=前出)
おめでたい自民の「進次郎なら勝てる」は、幻想だ。
進次郎は今度こそ、父の果たせなかった「自民党をぶっ壊す」を実現するに違いない。
http://www.asyura2.com/24/senkyo295/msg/457.html