※2024年8月29日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
※紙面抜粋
※2024年8月29日 日刊ゲンダイ2面
自民伝統の「密室談合」/(C)日刊ゲンダイ
「派閥の締め付けを排除し、「開かれた総裁選」などと言われているが、その裏側の旧態依然の醜悪がもうアチコチで。こうした体質が変わらない以上、裏金利権政治もそのままだが、いまなお、「裏金じゃない」と言い張る輩にも絶句だ。
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小泉進次郎元環境相が、30日予定していた自民党総裁選への出馬会見を1週間延期すると発表した。理由は台風10号の接近だ。林芳正官房長官も台風への危機管理対応のため、立候補表明を来週に延ばし、来月3日開催で調整中。茂木敏充幹事長も来週前半の出馬会見を検討している。
奇妙なのは、すでに3陣営が会見の日取りが重ならないようスリ合わせを行っていたこと。高市早苗経済安保相も他の陣営とかぶらない日を選び、来週後半にも出馬会見を開く考えだ。
総裁選の告示まで2週間。この調子で五月雨式に出馬表明し、そのつど生中継するNHK以下、メディアは連日、大騒ぎするのだろう。もう辟易だ。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)が言う。
「いつも国政選挙の報道は公平性に縛られ、遠慮しいしい。民放は投開票日の選挙特番までプッツリなのに、総裁選を華々しく報じるのは本末転倒です。次の総理を決める大事な選挙と言い訳するなら、もっと政策論争に時間を費やしてほしい。報じるのは、誰がいつ手を挙げ、誰が選ばれるかの話題ばかり。選出後に次の総理として何をやるのか、この国はどうなるのかという肝心な視点が抜け落ちています」
メディアジャックが総裁選の狙いとはいえ、次の首相の座を競い合うライバル同士が会見の日程調整で歩み寄るとは、驚きだ。「開かれた総裁選」をアピールしても、自民伝統の「密室談合」は相変わらずである。
恩を売れば漏れなくポストにありつける
そりゃあ、お祭り騒ぎの総裁選に手を挙げれば、メディアが勝手に顔と名前を全国的に売り出してくれる。20人の推薦議員を集めれば党内外に存在感を示せる。「次の次のさらに次」くらいを意識し、立候補に意義を見いだす候補にすれば、出馬会見は大事なセレモニー。メディア注目の進次郎の日程と重なれば、晴れ舞台がオジャンだ。一方の進次郎にすれば、会見の日程調整だけで、他の陣営に高く恩を売れる。決選投票を見越し「その時はよろしく」で、他陣営にしても進次郎に乗って損はない。たとえ勝ち目が薄くても進次郎新総裁が主要ポストを回してくれるかもしれない。
なぜ、彼らは負けると分かって出てくるのか――。この辺に1つの椅子に10人以上が群がる異常な椅子取りゲームの謎をひもとくカギがありそうだ。
岸田首相の不出馬表明後、相次いだ主要メディアの世論調査。いずれも「次の総裁」のトップは石破茂元幹事長と進次郎の一騎打ち。3位以下の第2グループも高市、河野太郎デジタル相、上川陽子外相、小林鷹之前経済安保相の4人で固定化され、7位以下は大きく水をあけられた。党ナンバー2の茂木は全ての調査で2%を超えられない。
1回目の投票は世論に左右されやすい党員・党友票のウエートが大きい。決着がつかずとも、茂木たちが決選投票に残るのは、まず無理。恐らく彼らの目線の先には、総裁選の裏で蠢くキングメーカー争いがある。
主役は麻生副総裁と菅前首相の2人。刷新感とは程遠い「古い顔」だ。どちらかの「手札」となって協力すれば、主流派は堅い。重要ポストをゲットすれば「次の次の総裁」の座が近づく。お釣りは十分なわけで、ハナから勝負は度外視。「あわよくば」とチャンスをうかがい、負け覚悟で次々参戦しているのだ。
最後は数の力がモノを言う昔ながらの権力闘争
背後にデンと構える老怪(C)日刊ゲンダイ
主導権を握るのは現状、進次郎を推す菅だ。同じ非主流派の石破とも一定の関係を保つ。下馬評通り、石破と進次郎が決選投票に残れば、菅は万々歳。どちらに転んでも「後見役」になれる。
逆に「石破VS進次郎」の決選投票は麻生には最悪のシナリオだ。首相だった2009年、石破が事実上の退陣を迫って以来、本人を毛嫌いし、ライバル・菅が背後に控える進次郎を選ぶわけにもいかない。下手すると、主流派の座から転落だ。
正念場の麻生は自派閥の「自主投票」を決めた。すでに麻生派の河野が正式に出馬を表明。しかし、派内には甘利明前幹事長を中心に小林を、山東昭子前参院議長らが上川を推す動きがある。表向きは派閥分裂を回避した格好だが、麻生の狙いは透けて見えるかのようだ。
河野が決選投票に進めばベスト。ダメでも初回を自主投票にすることで、石破と進次郎以外に勝ち残れそうな候補に派閥の票を差配し、流すことができる。所属54人は決選投票のキャスチングボートを握れる数字だ。一致団結して勝者を押し上げれば唯一、残る「派閥の力」を誇示できる。
麻生は周囲に「1回目の投票1位が小泉でも反小泉をまとめれば決選投票は分からねえ」と語っているらしい。どうやら「勝ち馬」に、とことん恩を売り、何が何でも次の政権でも「ど真ん中」に居座るつもりだ。
麻生と菅、総理経験者同士の権力闘争に割って入るのが、現職総理の岸田だ。出身派閥の岸田派も実は無傷のまま残る。40人強の勢力を維持し、岸田もキングメーカーの座を狙って虎視眈々だ。
派内では複数のベテランが岸田派ナンバー2の林を支持。同派の上川も仲間集めに必死で、中堅・若手の一部は進次郎陣営に流れているという。最後はどの陣営にも乗れるよう擁立候補を一本化せず、支援先を分散する作戦は麻生派と同じ。勝ち馬を見極め、決選投票は「数の力」で恩を売り、見据える先は人事やポストへの関与という思惑まで麻生と一緒だ。
裏金議員が「選挙の顔」を選ぶ茶番
この醜悪バトルに手を貸すのが、勝ち目の薄い各陣営である。すでに麻生派は決選投票で茂木など他の陣営との合従連衡を模索。曲がりなりにも茂木は50人近い派閥の領袖だ。数を頼りにキングメーカーに恩を売れば主流派の一角を占められる。
どいつもこいつも決選投票を見越し、恩を売っての猟官運動。「派閥解消」「党刷新」なんて口先だけで、最後の最後は「派閥の力学」がモノを言う。それが乱立総裁選の実態である。
「混戦模様で『派閥の締め付け排除』の雰囲気を漂わせながら、裏では派閥が力を誇示する旧態依然の権力闘争に変化なし。トップが交代しても党の体質は絶対に変わりません」(金子勝氏=前出)
その証拠に国民絶句の醜悪がもうアチコチで噴出。河野が出馬会見で、裏金返納に言及するや、当の裏金議員は「蒸し返し」にカンカンだ。裏金1926万円の武田良太元総務相(二階派)は26日配信のオンライン番組で「党紀委員会で決定された処分を再度新しい組織にかけるべきではない」と強調。裏金1070万円の衛藤征士郎元衆院副議長(安倍派)は報道陣に「すべて政治活動に使われている。裏金ではない」と言い張った。
総裁選への投票資格を持つ裏金議員は約70人。議員票の2割を占め、決選投票の行方を左右できる。
有力候補ほど敵に回すわけにはいかず、一度は裏金議員の非公認に踏み込んだ石破も、たった1日で発言をトーンダウンさせた。
今も裏金議員の刑事告発を続ける神戸学院大教授の上脇博之氏はこう言った。
「世論とかけ離れた自民党内の空気にア然とします。世論の大半は党の処分に納得せず、少なくとも裏金議員の辞職を求めています。河野氏の返還ウンヌンも具体的な手続きはチンプンカンプン。まず国庫に返還するなら、血税で賄う政党交付金が先で、国民への反省を示すべき。ケジメのないまま、裏金議員に総裁選の投票権を与えれば、裏金イメージを払拭できるという基準だけで新たな選挙の顔を選ぶに決まっています。国民生活は二の次で、次の選挙に勝てば有権者は裏金を忘れるとナメている。今回の総裁選は裏金利権政治を温存するためだけの茶番に過ぎません」
「数こそ力」で新総裁の決定権を握る裏金議員の背後には、森元首相と二階元幹事長がデンと構える。打算渦巻く総裁選は自民党の醜悪な本性を奇麗に物語る。
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