※2024年8月27日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
※紙面抜粋
※2024年8月27日 日刊ゲンダイ2面
24日に鳥取で出馬表明した石破茂元幹事長(C)共同通信社
倒錯した自民党総裁選の矛盾とお笑いを露呈したのが、世論調査を受けた自民党議員の右往左往。
裏金幕引き、ゴマカシ選挙を企んでいたのに、そうは問屋がおろさない世論の動向。だから、裏金議員に投票権を与えてはダメなのだ。
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「まだ石破さんなんですね。自民党支持層でも石破さんは相変わらず人気が高い。国会議員の多くが『石破さんはないよね』という感じなのに、複雑な心境です」
こう話すのは自民党のベテラン秘書だ。党内に石破茂元幹事長を毛嫌いする空気感が漂う一方で、最新の世論調査は自民党議員らにとって悩ましい結果だった。
自民党総裁選(9月12日告示、27日投開票)をめぐり、新聞各社が週末に実施した世論調査で、例によって「次の総裁に誰がふさわしいか」を質問。出馬に意欲を示す11人(石破、小泉進次郎元環境相、小林鷹之前経済安保相、河野太郎デジタル相、高市早苗経済安保相、茂木敏充幹事長、加藤勝信元官房長官、野田聖子元総務相、斎藤健経済産業相、上川陽子外相、林芳正官房長官)の名前を挙げて聞いたところ、いずれも石破がトップだったのだ。2位は小泉、3位が高市と続いた。
各社の数字は、読売新聞が石破22%、小泉20%、高市10%。毎日新聞は石破29%、小泉16%、高市13%。朝日新聞は石破と小泉が21%で並び、高市が8%。毎日では、自民党支持層でも石破25%、小泉24%と石破が上だった。
先週半ばに実施された日経新聞の調査では、小泉23%、石破18%と小泉がトップに躍り出て、石破との差も開いたため、永田町では「これで石破もアウト」なんて声も出ていた。小泉は、菅前首相や森元首相を“後見役”に、党員人気だけでなく議員票も稼げるとして、「進次郎に決まり」みたいなムードにもなっていたが、国民世論は頼りない小泉より、やっぱり石破なのだ。
突きつけられた不都合な現実
石破は自民党にいながら自民党に苦言を吐くため、「身内に後ろから弾を撃つ」とか、「付き合いが悪い」「飲み会でも政策の話ばかり」など、議員仲間からは散々な評判なのだが、この期に及んでも党内一の嫌われ者が、世論調査第1位--。まさに、自民党にとって、不都合な現実を突きつけられた格好だ。
今回の総裁選は「選挙の顔」選びじゃないのか。だからワッショイ盛り上げるのだと党全体が認識しているはずだろう。それなのに、党内世論と国民世論の乖離がクッキリ。選挙は自民党支持層を固めるだけじゃ勝てず、無党派層の票が勝敗を左右するゾ。さあ、どうする自民党、ではないか。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう話す。
「石破氏が嫌われているとか面倒見が悪いと喧伝しているのは、安倍元首相のシンパたちなんです。テレビのコメンテーターなんかもそうですよね。つまり、安倍氏が最も嫌っていたのが石破氏。その最大の理由は、安倍氏にとって石破氏がライバルとして脅威だったからでしょう。国民目線で考えれば、面倒見の悪さは一国のリーダーとしてそこまで問題なのかどうか。面倒を見るとはお金を配ることでもあるんですよ。それより、裏金をつくらず、お金を配ったりしないクリーンな政治家を国民は望んでいるのではないですか。永田町の論理でいつも通りの総裁選をやろうとしている自民党は国民感覚とズレています。いまだそれが分かっていない」
「選挙の顔」が欲しいのに、1番人気は嫌だという倒錯
裏金幕引きは失敗(C)日刊ゲンダイ
岸田首相が総裁選不出馬に追い込まれたのは、内閣支持率どころか自民党支持率まで下落し、「選挙の顔にならない」と党内が騒ぎ立てたからだった。それで「刷新感」をキーワードに総裁選をお祭り騒ぎにして乗り切ろうと画策。そんな自民党に大マスコミも“協力”して壮大な茶番劇が幕を開けた。
岸田が「総裁選に出たい人は気兼ねなく」と促すと、11人もが出馬に意欲を示す大混戦に。小林や小泉ら、党三役も重要閣僚の経験もない40代の若手が参戦することで、「自民党は変わった」「国民の信頼を取り戻す」と、前向きな改革だけをアピール。裏金問題はスルーして幕引きという“偽装刷新”で切り抜け、新首相選出の勢いで、ゴマカシ解散総選挙に突入。そんなシナリオを企んでいたが、そうは問屋がおろさなかった。
世論調査で「次の総裁」に石破がトップの期待を集めたのは、24日に石破が地元・鳥取で行った出馬表明での発言が影響しているだろう。裏金議員について「自民候補として公認するにふさわしいかどうか、選対委員会で徹底的に議論すべきだ」と、非公認にする可能性に踏み込んだあの発言だ。
派閥が組織的に裏金をつくり、政治資金収支報告書の不記載額は、安倍・二階・岸田3派で総額9億6000万円。裏金づくりの理由も実態も解明されぬままで、脱税の疑いもあるのに立件もされず、党内処分も大甘。説明責任を果たさず、のうのうと議員バッジをつけ続けている裏金議員に、多くの国民は不満を抱えているから、石破には「よくぞ言ってくれた」ってなところだ。
もっとも、すぐさま裏金議員の巣窟の安倍派が石破発言に猛反発し、翌日、石破はややトーンダウン。「新体制になってどうするのか決める。(党総裁に)なってもいない者が予断を持っていうべきではない」と言い直してはいるが、週末には野田聖子も「自分の力で(選挙に)勝ってきませんか」と裏金議員の非公認を示唆している。
これに対し、26日出馬会見を開いた河野は、裏金議員の公認について「不記載額の返済でけじめをつければ、自民候補として国民の審判を仰ぐことになる」と「返金」でOKの姿勢。ドロボーもカネを返せば許されるということか。国民感覚では納得できない。
ジャーナリストの山田惠資氏がこう言う。
「石破氏が火を付けた形で、裏金事件に関与した議員の公認問題が争点化する可能性が出てきました。この先、出馬表明する人は必ず、この問題についてのスタンスや対応を問われる。ある候補の周辺からは『裏金を金庫や引き出しに入れていた人は非公認だ』『政倫審に出てきて説明すべし』など厳しい姿勢を見せるべしとの声が聞こえてきます。そうした方が国民世論の支持を得られるからです。注目は小泉氏です。安倍派の支持も得ている中で、踏み込んだ発言をするのか、それとも安倍派に配慮するのか。小泉氏は、派閥の影が見えたら自民党は終わりだと言っているぐらいですから、裏金事件に厳しいスタンスを見せてしかるべきです」
空虚なお祭り騒ぎに世論は冷ややか
とどのつまり、こういうことだ。世論の疑念に応えて「裏金事件の実態を解明する」「裏金議員は非公認」などと旗幟鮮明にすれば、世論人気は高まり、世論の感覚に近い党員票も増えるが、一方で、裏金事件を幕引きしたい議員票は減る。そんな矛盾を抱えているのが今回の自民党総裁選なのだ。
「選挙の顔」として人気者を総裁に据えたいのに、1番人気の石破を総裁にはしたくないという倒錯。総裁選の候補者は党改革を掲げながら、議員票争奪戦を考えれば、裏金議員に厳しく当たることを躊躇する。石破ですら発言をトーンダウンさせたわけで、だから、裏金議員に総裁選の投票権を与えてはダメなのだ。
前出の角谷浩一氏が言う。
「党員票の評価を無視して、永田町の論理が上だという行動を続けていたら痛い目に遭いますよ。世論はそんなに甘くない」
ANNの世論調査が、総裁選は自民党が変わるきっかけになるかどうかを聞いていたが、「きっかけになる」34%に対し、「きっかけにならない」が54%と半数を超えていた。そこに、空虚なお祭り騒ぎを冷ややかに見ている世論の姿がある。多くの国民が、金権政治にどっぷり漬かった自民党が簡単に変わることはないと見抜いている。
石破も野田聖子も、自民党では総裁になれない。離党覚悟で戦った方がいい
http://www.asyura2.com/24/senkyo295/msg/390.html