※2024年8月24日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大 文字起こし
※紙面抜粋
派手なポスターのワケは…(C)共同通信社
ハリス候補の演説に熱狂する民主党支持者たち。それに比べ、乱立総裁候補者たちの人材払底と、それでも強引に盛り上げるために五月雨表明のバカバカしさ。
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11月の米大統領選に向けた民主党の全国大会は22日が4日間の日程のクライマックスだった。大統領候補に指名されたカマラ・ハリス副大統領(59)の登場に合わせ、歌姫ビヨンセの「フリーダム(自由)」が流れると会場は大歓声に包まれ、代議員らは総立ちに。しばらくの間、拍手喝采となった。
指名受諾演説では、「全ての米国人の大統領になると約束する」と表明。「この選挙は(米国の)分断を乗り越え、新しい道を切り開く機会だ」とも強調した。共和党のトランプ前大統領については「ホワイトハウスに返り咲けば、影響は極めて深刻だ」と非難。「我々は後戻りしない」と力を込め、40分間の演説で会場の熱狂は最高潮に達した。
民主党支持者のムードはいい。党大会まで1カ月に迫った土壇場で、支持率低迷と高齢不安のバイデン大統領が撤退に追い込まれ、異例の事態に民主党は大揺れとなったが、ハリスが後継に決まると支持率は上昇。リアル・クリア・ポリティクスの全米支持率(22日時点)は、ハリスが48.4%で、トランプの46.9%をわずかに上回っている。党大会を経て民主党はハリスの下で結束。トランプとの全面対決は終盤戦へ突入する。
「ハリス副大統領は4年前に比べ、演説が抜群にうまくなった。話のスピードや言葉の選び方、凄み。見事だと思いました。党大会は全体の流れを含め、よくできたイベントになっていました。もっとも、昔ならあの演説で支持率が10や20ポイント上がったでしょうが、今は米国が分断しているので、上がっても数ポイント程度でしょう」(上智大教授・前嶋和弘氏=現代米国政治)
全米全体ではなく、いわゆる激戦7州が結果を左右するといわれる。無所属で出馬していた「第3の候補」ロバート・ケネディ・ジュニア氏が撤退したのは、トランプ有利に働くとされる。直接対決となる9月10日の討論会がどう影響するのか──。海の向こうながら、大統領選の熱気に日本国内での関心も高まるが、それに比べて「ポスト岸田」を決める自民党総裁選(9月12日告示、27日投開票)の薄っぺらいこと。前出の前嶋和弘氏はこう言う。
「大統領制の米国と議院内閣制で首相を選ぶ日本では制度が異なるとはいえ、自民党総裁選はコップの中の人気投票になっていて、選挙の体をなしていません。米大統領選に照らし合わせれば、『誰が出るのか、出ないのか』という段階は予備選1年前のような状況なのに、そこから時間をかけず結果はすぐに決まってしまう。政策を競うわけでもなく、中抜きみたいな感じで、なんとももどかしい」
勝ち目がないのに手を挙げる輩が出てくるア然
ハリスの指名受諾演説に大歓声(C)ロイター
本当だ。連日メディアジャックしている自民党総裁選はカラ騒ぎとしか言いようがない。猫も杓子も出馬に意欲を見せ、その数、11人。23日はこれまで、「出馬要請を受けた。私自身が出ると言っているわけではない」と曖昧な態度だった斎藤健経産相(65)が一転、「総裁選を目指す決心をした。ルビコン川を渡る」と言い出した。
さらには、青山繁晴参院議員(72)までもが記者会見を開き、「総裁選で別の選択肢があることを示したい」と立候補に意欲を示したからア然だ。これで12人目。こうなると便乗しない手はないと、勝ち目もないのに手を挙げる輩がまだまだ出てくるんじゃないか。
岸田首相の退陣表明を受けた日経新聞の世論調査(21、22日実施)で「次の総裁にふさわしい人」のトップに躍り出た小泉進次郎元環境相(43)は、若くて「刷新感」はあるものの実力不足。石破茂元幹事長(67)は党員人気や実力はあっても国会議員票が厳しい。本命不在の大乱立は自民党の人材払底を如実に表している。
だからだろう。話題性で耳目を集めようと、自民党が21日に公表した総裁選ポスターは、競争や調和を意味する「THE MATCH」の大きな文字に歴代総裁の白黒写真が並ぶ派手な作り。上段中央でマイクを持って拳を突き上げるのは安倍元首相だ。SNSでは<統一教会の件と裏金事件の件で、諸悪の根源と言える人物が、一番目立つ場所に。なんで?>といった投稿があったが、自民党が反省ゼロの証左だ。
しかし、大メディアはそんなことお構いなしで、総裁選をワッショイワッショイ。自民党の強引な盛り上げに手を貸しているのだから度し難い。
24日は石破が地元の鳥取県で出馬表明。その先も、26日に河野太郎デジタル相(61)、30日に進次郎が出馬会見を予定。林芳正官房長官(63)と高市早苗経済安保相(63)も来週、表明する方向だと報じられている。五月雨式表明は総裁選をお祭り騒ぎにするための一環か。会見日程をいちいちニュースにするのも、一体誰のためかと首をひねりたくなる。
「いま自民党がやっていることは、すべて解散総選挙のための演出ですよ。総裁選から間を置かずに総選挙となる可能性が高い。成功体験があるので、ほとんどの自民党議員は、総裁の顔を替えれば選挙を乗り切れると思っている。ポスターも計算ずくでしょう。メディアも共犯です。若い進次郎や小林鷹之前経済安保相(49)をことさら持ち上げるのは、都知事選で前安芸高田市長の石丸伸二氏(42)が台風の目となった『石丸現象』を思わせます」(政治評論家・野上忠興氏)
自民党を下野させなければ、何も始まらない
米国は「政治が変わるかもしれない」との期待感もあって熱狂している。バイデン後継とはいえ、ハリスは米史上初の黒人・アジア系女性大統領となり、多様性の象徴になる。一方、トランプが勝てば政権交代であり、経済政策も外交もガラリと変わる。
ところが日本の場合、「ポスト岸田」に誰が就こうが、自民党の中から選ばれる限り何も変わらない。
「政治とカネ」の問題に本気でメスを入れる気もなく、ベテランから若手まで金権腐敗政治にどっぷり漬かっているのが自民党の実態だ。裏金のキックバックを懐に入れ、脱税疑惑が指摘されても知らんぷり。企業・団体献金を温存し続けるため、財界と“癒着”して、大企業のための政治に邁進。庶民に増税や負担増のツケを回す。
総裁選は「刷新感」や「改革」がキーワードになっているが、それは選挙が目の前にあるからで、手を挙げている誰ひとり、自民党に染み付いた金権体質を変えようとする者などいない。そんなことを掲げでもしたら、議員票が減ってしまうのは明らかだからだ。邪な思惑がミエミエなのに、選挙目当ての口八丁で国民をだまそうとするから、国民はどんどん政治に対してシラけていく。
「自民党のベテラン議員が、『小泉VS小林で決選投票になったら悪夢だ』と自虐的に嘆いていましたよ。選挙の顔選びが目的でなければ、実績ゼロの進次郎氏が有力候補になることなどあり得ない。米国とは違って、日本の総理・総裁選びに期待感はまったく感じられません」(野上忠興氏=前出)
繰り返すが、総裁選なんて、しょせん自民党のコップの中の争いでしかない。自民党を政権から引きずり降ろさなければ、何も始まらないのだ。いつになったら、この国に本当の熱狂がやってくるのか。
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