※2024年8月23日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
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※2024年8月23日 日刊ゲンダイ2面
中身のない実力と経験不足(C)日刊ゲンダイ
永田町関係者であれば誰もが知っている政治家・小泉進次郎の実力と評価。もちろん、自民党議員もご存じだが、それでも「本命」に祭り上げ、「改革」「刷新」の茶番劇。他にマトモな候補者が誰もいない腐敗政党と国の行く末。
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「反省をしているけど、なかなか反省が伝わらない。そういった自分に対しても、反省をしたいと思います」──この言葉をそっくり今の自民党にぶつけたらどうか。
発言の主は、自民党総裁選に出馬する意向を報じられた小泉進次郎元環境相(43)だ。大臣時代の2020年2月、新型コロナ対策本部の会合を欠席して地元で後援会の新年会に出席。それを国会でとがめられた際の複雑な釈明である。
進次郎は19年に安倍政権の内閣改造で環境相として初入閣。早速訪米し、ニューヨークでの国連気候行動サミット関連会合に臨んだ。外交デビューの場で「気候変動に取り組むには、楽しく、クールに、セクシーであるべき」とご機嫌に語り、真意を問われると「どういう意味かと説明すること自体がセクシーじゃないよね」と説明し、物議を醸した。海外メディアには「(環境対策に)何の具体策もない」と酷評された。
独特の語り口からついた異名は「ポエム大臣」。弁舌爽やかだが、中身スカスカ、意味不明な発言は「進次郎構文」と呼ばれ、ネット上には数々の「迷言」が出回っている。発言の軽さゆえに、党内からも政治指導者としての資質を疑う声は少なくない。大臣経験も、まだ1度きり。かつて田中角栄元首相が「首相の条件」とした「党三役のうち幹事長を含む2つと、蔵相(財務相)や外相、通産相(経産相)のうち2つ」の経験はゼロだ。
茂木幹事長のように「条件」を満たしているとはいえ、首相の器とは程遠い人もいるが、進次郎の経験と実力不足は否めない。その評価は永田町関係者であれば誰もが知っている。もちろん、自民党議員もご存じだろう。
ボロを出すまいとヨコシマな期待に呼応
進次郎は高支持率を誇った小泉純一郎元首相の次男。09年の初当選時から将来の首相候補としてチヤホヤされ、いまだ「天才子役」の域を出ない。ところが、党内の期待感だけはすさまじい。
新総裁に推すのは、同じ神奈川選出で岸田政権下では冷や飯を食わされた菅義偉前首相ら非主流派と、順風下の選挙しか経験のない中堅・若手議員だ。彼らの思惑は分かりやすい。裏金事件のダーティーイメージを払拭するには、「とにかく明るい」人気者を利用するのが得策というわけだ。
進次郎は親の七光どころか、曽祖父の代から政治一家の「二十一光」。兄は俳優の孝太郎、妻はフリーアナの滝川クリステルだ。姉さん女房には完全に尻に敷かれ、何をやるにも意向を伺う必要があるらしいが、おびただしい数の「光」にピカピカと照らされている。
抜群の知名度に加え、総裁選出馬に意欲を示す11人の中で最も若い。次期衆院選に向けて「改革」「刷新」を打ち出すにはうってつけ。「選挙の顔」にはもってこいという算段である。
ヨコシマな期待に呼応し、進次郎は出馬報道後、なかなかメディアに口を開かない。「プラスチックの原料って石油なんですよ! 意外にこれ知られてないんですけど」と環境相時代にラジオ番組で周知の事実を喜々として語ったように、口を開けばボロが出ると自重しているのだろう。
進次郎のダンマリ作戦を知ってか知らずか、TVカメラはこぞって追いかけ回して大ハシャギ。裏では党の重鎮や若手との面会を着々と重ね、「すでに20人の推薦人を確保し、候補を含めれば推薦人は40〜60人に上るのでは」(政界関係者)との情報もある。
これだけの議員票をまとめたと知れば、メディアがまた「大本命」とはやし立てる。総裁選の報道は、誰が推薦人を集めたか否か、立候補表明はいつかという話題ばかり。本来、岸田首相が再選断念に追い込まれた裏金事件の実態解明を問うべきだが、すっかり隅っこに追いやられている。
次の総理に貸しをつくろうと全力アシスト
「もしトラ」を想像するだに恐ろしい(C)ロイター
「『神輿は軽くてパーがいい』。進次郎氏は悪い意味での首相の条件を全て満たしています。軽い神輿を持ち上げる動きをメディアは後押ししているだけです」と指摘するのは、高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)だ。こう続ける。
「総裁選で一気に裏金事件を過去のモノにしたい自民の狙い通り、メディアはお祭り騒ぎ。進次郎氏を『大本命』として祭り上げ、二重の『祭り』で壮大な国民ダマシに加担しています。口を開けば馬脚を現すことは百も承知で、もったいぶる進次郎氏に付きまとう茶番劇。“真打ち”のように名乗りを上げれば、メディアは『待ってました!』と言わんばかりに持ち上げるのでしょう。総裁選後は“ご祝儀相場”のうちに解散・総選挙に一気呵成のシナリオが浮かびますが、メディアは『今から次の総理に貸しをつくっておこう』と全力アシストです」
進次郎の背後に控える「昔の顔」は菅だけではない。森喜朗元首相の存在も見え隠れする。進次郎を支え、バラバラになった安倍派の一部をまとめたいようだが、森にはある意味、成功体験がある。首相時代は内閣支持率ひと桁台に沈み、不人気な自分が退き、新たに小泉内閣が誕生すると自民の支持率はV字回復。直後の参院選で大勝した。あの時も「小泉フィーバー」を散々あおり、自民に手を貸したのが、TVを中心としたメディアだ。
メディアの機運醸成は早くも奏功したようで、日経新聞とテレビ東京が21〜22日に実施した世論調査の「次の自民党総裁にふさわしい人」で、トップ常連の石破茂元幹事長に代わり、進次郎が首位に躍り出た。森たちの「夢よ、再び」は現実に近づいている。
漂う台湾有事と対米従属総仕上げの危うさ
お祭り騒ぎの総裁選で「表紙」だけ変え、ドサクサ紛れに総選挙を仕かけ、雪崩を打って大勝を目指す--。自民の「お家芸」とも言える手法だが、それで裏金体質や進次郎のカラッポな中身は変わりっこない。
次の選挙で苦境に立つ自民の中堅・若手にとっては、選挙に勝ちさえすれば何でもアリ。後は野となれかもしれないが、「進次郎新総理」の誕生なんて、百害あって一利なし。総裁選の投票権を持たない多くの国民にすれば、たまったもんじゃない。
「進次郎氏が経済政策を語った記憶は全くありません。これだけ経済の『ケ』の字も発しないのは、経済学を理解していない証拠でしょう。進次郎氏が『大本命』とは、物価高にあえぎ、景気対策を求める世論と大きくズレています」(経済評論家・斎藤満氏)
進次郎は憲法改正を掲げて総裁選を戦いたいと周囲に話しているそうだが、最近までその口から改憲の2文字もついぞ聞かなかった。東日本大震災から2年後の13年5月には、憲法改正に意欲を示す当時の安倍首相に「早く災害復興住宅に移り住みたいという方が、憲法の問題を考えられるか」と苦言を呈したほど。
外交では、11月の米大統領選で誕生する新政権と対峙することになるが、進次郎は09年の衆院選初出馬の直前まで米国に留学。日本外交に絶大な影響力を持つジャパンハンドラー系のシンクタンク「CSIS」(戦略国際問題研究所)の研究員だった。
「昨年、台湾有事のシミュレーションを公表したのもCSISです。もしもトランプ前大統領が返り咲き、進次郎氏が向き合うことになれば……。想像するだけで不安になります」(五野井郁夫氏=前出)
前出の斎藤満氏も「日本のトップが空疎な人物なら、米国にとっても使い勝手がいい。進次郎政権は、戦後79年に及ぶ対米従属の総仕上げとなりかねない」と危惧する。
他にマトモな候補者が誰もいない腐敗政党は、どうなろうと勝手だ。しかし、ポエム進次郎が総裁選の「大本命」になる日本の行く末は、惨憺たる状況しか思い浮かばない。
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