※2024年8月19日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
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※2024年8月19日 日刊ゲンダイ2面
裏では萩生田だの二階だの麻生派だのと、目をこすりたくなる(C)日刊ゲンダイ
この総裁選の倒錯は脱税疑惑集団が「党刷新」などと言い、国民を騙そうとしていること、そのための乱立の大仕掛け。裏では萩生田と相談、二階が了承などと平然と報じられているが、目をこすりたくなる。裏金議員たちの投票による総裁選は一片の正当性なし。
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自民党総裁選も軽くなったものだ。
あの岸田首相にも務まったのだから自分だってやれるとでも思ったのか。9月に行われる総裁選には、岸田が14日に不出馬宣言をしてからわずか数日間で10人超が出馬の意欲を示す異例の事態になっている。
立候補に必要な推薦人20人をすでに集めたという小林鷹之・前経済安保相(49)は、19日にも記者会見を開いて出馬を表明。同じく推薦人確保のメドが立った林芳正官房長官(63)、河野太郎デジタル担当相(61)、石破茂・元幹事長(67)も週内に立候補を表明する見通しだ。
閣僚では高市早苗経済安保相(63)と斎藤健経産相(65)が出馬に意欲を見せている。上川陽子外相(71)も岸田に出馬の意思を伝えたという。
早い段階から「ポスト岸田」に並々ならぬ野心を見せてきた茂木敏充幹事長(68)に加え、加藤勝信・元官房長官(68)も出馬を検討。野田聖子・元総務相(63)も推薦人集めに奔走している。
本人はまだ対応を明らかにしていないが、“選挙の顔”として小泉進次郎・元環境相(43)に出馬を促す声も党内では根強い。
与党自民党の総裁選は事実上、この国の総理大臣を選ぶ選挙なのに、まるで学級委員に立候補するようなノリで「俺も、私も」と手を挙げているように見える。なんだか、候補者乱立で政策が争点にならなかった7月の東京都知事選を思い出してしまう。
「それが自民党の狙いなのでしょう。総裁選で公開討論会をやるにしても、10人も並んでいたら政策論議が深まるはずがない。質疑応答も一言ずつで終わってしまいます。何人も立候補して、ワイワイにぎやかにやっていれば、『新生自民党』の演出に国民が引っかかってくれると甘く考えているのではないか。この総裁選は国民を騙すための仕掛けでしかありません」(政治評論家・本澤二郎氏)
相も変わらず派閥の論理
もっとも、現時点で名前が挙がっている11人のうち何人が実際に出馬できるかは分からない。
総裁選出馬に前のめりだった茂木は、頼みの綱である麻生副総裁の支持を取り付けられずに意気消沈。総裁選への対応について、「夏の間に考える」と言い出した。今年も残暑は長く、厳しそうだ。考えている間に総裁選が終わっている可能性もある。
また、いくら人望がないとはいえ、派閥領袖を務め幹事長を3年もやった茂木が推薦人を集められないことはないだろうが、他の候補者にとって推薦人20人のハードルは高い。11人も乱立すれば、支持基盤や交友関係が複雑に重なってくる。
前回総裁選で善戦した高市だって、後ろ盾になった安倍元首相を失った今、20人を自力で集められるかは不透明だ。
18日地元の岡山県で改めて立候補の意向を表明した加藤は、同じ岡山選出の衆参国会議員の大半の支持を取り付けたと報じられているが、岡山選出議員は8人しかいない。しかも、岡山1区選出の逢沢一郎・元国対委員長は総裁選選挙管理委員会の委員長だから推薦人にはなれない。20人確保は容易ではないはずだ。
推薦人の争奪戦は熾烈で、総裁選の告示が近づくにつれて切り崩しや引きはがし工作も激しさを増す。そして、それらを伝える新聞テレビの政局報道も過熱していくわけだ。
すでに推薦人確保がどうだとか、誰と誰が会ったとか報じてはしゃいでいるが、気になるのは、大メディアが相も変わらず派閥の論理で総裁選の構図を解説していることだ。
大メディアの政治報道は国民感覚と乖離している
結局は派閥のパワーバランス(C)日刊ゲンダイ
河野は16日に所属する派閥会長の麻生と会って、出馬を了承されたという。ま、麻生派は解散していないから仕方ないのかもしれないが、大メディアはポスト岸田候補の推薦人集めについて、林は岸田派、加藤は茂木派中心などと平然と書いている。どの派閥が誰を推すとか、同じ派閥内から複数が名乗りを上げて推薦人の確保が困難などと書いているが、裏金問題を契機に麻生派以外の派閥は解消したのではないのか?
さらに言えば、この週末の毎日新聞に目をこすりたくなるような記事がいくつも載っていた。
<加藤氏は、15日には萩生田光一前政調会長と国会内で会談。出馬に向けて対応を協議したとみられる。加藤氏は16日夜、BS11の番組で「総裁選に向けて具体的な動きをしていきたい」と述べ、推薦人確保に向けた動きを進める意向を示した>(17日付)
<小林氏は、党の「刷新」を求める安倍派などの当選4回以下の議員に加え、所属する二階派や麻生派の一部から支持される。他候補に先んじての表明について、小林氏支持の議員は「二階俊博元幹事長も了承済みだ」と話す>(18日付)
裏金問題の震源地になった安倍派の幹部でありながら責任逃れに終始した萩生田に相談したり、二階の了承を取り付けたり、そんな総裁候補のどこに正当性があるというのか。これを垂れ流す大メディアの政治部記者は何も疑問に思わないのだろうか。
「自民党は裏金問題の処分を大甘で済ませ、総括もしていない。裏金議員が自分たちのリーダーを選ぶ総裁選に正当性などありません。そもそも、裏金議員に総裁選の投票権があること自体がおかしいでしょう。脱税疑惑集団に日本のトップリーダーを選ぶ資格などないはずなのです。大メディアも、総裁選をもり立てて自民党の延命に加担している場合ではない。総裁選をやる前に下野すべきだと論陣を張るのがメディア本来の役割ではないでしょうか」(本澤二郎氏=前出)
安倍派議員の生き残り戦略
20日、総裁選の選挙管理委員会が開催され、投開票の日程などが決まる。「9月12日告示.27日投開票」の日程が有力だ。それまで1カ月以上も総裁選の狂乱報道に付き合わされる国民はたまったものじゃない。政治部記者が今も派閥単位で取材をしている以上、総裁選も結局は派閥のパワーバランスに収斂されていくのではないか。それは長老たちのキングメーカー争いであり、悪党たちのボス争いでもある。
いま名前が挙がっている11人全員が出馬することはないにしろ、候補者が乱立すれば1回の投票で決まらず決選投票になる可能性が高い。首位と2位による決選投票では地方票や党員票の比重が下がり、国会議員票の勝負になる。派閥や数の力がモノをいう展開になりそうだ。
そういう意味では、小林を推す若手が存在感を示すことも考えられる。今の自民党は「安倍チルドレン」「魔の〇回生」などと呼ばれてきた当選4回以下が半数以上を占める。彼らが小林支持でまとまれば、知名度も経験もない新総裁が誕生するのかもしれない。そうなれば、バックの甘利前幹事長や二階元幹事長がデカい顔をするだけだ。だいたい、裏金問題では上の顔色をうかがってダンマリを決め込んでいた連中が今になって「党刷新」だとか言ってイキってみても鼻白むだけなのだ。
「派閥解消という名目で多くの人が総裁選に立候補できるようになったことはいいとしても、物価高に苦しむ国民の声に耳を傾け、日本を立て直す覚悟がある人がどれだけいるのか。自民党刷新を掲げる安倍派の若手・中堅が小林氏を推しているのも自分たちの生き残り戦略であり、一般有権者はもちろん、地方議員や党員の意識と乖離している。これで最終的に派閥や数の力で新総裁が決まったら、自民党は今度こそ国民から完全に見放されるでしょう」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
この総裁選で裏金議員の復権と派閥の復活が一気に進むのか。新総裁を選んですぐさま解散・総選挙という話があるが、そこで有権者が鉄槌を下さないかぎり、自民党は何も変わらない。
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