※2024年8月5日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大 文字起こし
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※2024年8月5日 日刊ゲンダイ2面
世論の8割から「退陣勧告」/(C)共同通信社
株価の暴落に庶民は慌てているが、円安・張りぼてバブルだっ たことは周知の通り。それなのに、「物価と景気の好循環」などと戯言を流し、その裏で姑息なバラマキでゴマカそうとして きた経済オンチのトンチンカンはまだ、総裁選に出る気なのか
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世論の7、8割から「早く辞めて」と退陣勧告を突きつけられている岸田首相が、9月の自民党総裁選での再選に向け、ヤル気満々だ。
商店街に出向いたり、幼稚園児と戯れたりと、「視察」という名の“選挙運動”に精を出し、永田町では、党や派閥の幹部と連日の密談。2日金曜は午後に麻生副総裁と党本部で1時間、夜は森山総務会長と首相公邸で1時間、3日土曜も公邸に林官房長官を呼んで1時間半。いずれも総裁選の情勢分析とみられる。
林は岸田派(宏池会)でナンバー2の座長だった。解散したはずの岸田派は先月30日の夜、所属議員20人ほどが集まって総裁選での首相再選で結束することを確認したという。
だが、岸田は総裁選に本当に出られるのか。これ以上、首相を続けられたら、国民生活はますますメタメタになってしまう。
日銀が先月31日の金融政策決定会合で0.25%への追加利上げを決めた後、円高が急伸。米国の景気後退懸念も乗っかるダブルパンチで、日経平均株価は大暴落となった。
2日の下落幅、2216円は1987年10月の「ブラックマンデー」で記録した3836円に次ぐ、歴代2番目の大きさだった。ショックが駆け巡ったのも束の間、5日の月曜日の前場は一時2500円以上も値下がりし、「ブラックマンデー」が本物になった。市場はパニックになる中、午後になると、さらに下落が加速し、ついに4251円という過去最大の下落となった。年初以降の株高で、2月にはバブル期以来34年ぶりに史上最高値を更新、7月11日に4万2000円台をつけたところから3週間で3万1000円台まで真っ逆さまである。
マーケットには怒号が飛び交い、個人投資家は右往左往。今年1月からの新NISA(少額投資非課税制度)に踊らされた投資初心者に動揺が広がり、証券会社のコールセンターには問い合わせ電話が殺到。証券会社は「長期投資を忘れず」と冷静になるよう呼び掛けているという。
新NISA煽った政府の罪深さ
新NISAの旗振り役は、まさに岸田首相だった。「貯蓄から投資へ」と称し、非課税枠を拡充して煽りに煽ったくせに、慌てる個人投資家を尻目に「デフレ型経済から新しい成長型経済への30年ぶりの移行を成し遂げることが肝要だ」とか言ってるのだからのんきなものだ。
日銀が利上げして円高になれば、日米金利差の縮小が意識され、株価が下落するのは、ある程度、想定されたことだ。アベノミクスの円安誘導で海外投資家にとって日本株は長年、割安に置かれ、輸出大企業はたいした努力もせずに為替差益でガッポリ稼いできた。4万円突破に沸いた株価は、実態の伴わない張りぼてバブルでしかなく、これからアベノミクスの壮絶な巻き戻しが始まることになるのだ。
異次元緩和の反動が塗炭の苦しみとなって国民を直撃する。利上げで住宅ローン金利が上がる。投資どころか貯蓄もできなくなる。
経済ジャーナリストの荻原博子氏がこう言う。
「2%の物価上昇を目指すとして、2年限定で始めた大規模金融緩和です。2年間のはずのモルヒネを10年も打ち続けて、日本経済はボロボロ。『緩和やめます』となれば大騒ぎになるのは当然で、特に個人投資家は真っ青です。政府が罪深いのは、本来、相場は上がったり、下がったりが当たり前なのに、『NISAに乗り遅れるな』と、右肩上がりで儲かるような幻想を振りまいてきたこと。金融庁のNISA特設ページには、1%や2%の利回りで増えるシミュレーションはあるのに、マイナスのシミュレーションはなかった。このミスリードはあまりにも酷い」
国民生活よりメンツ、総理のイス死守
張りぼて株価が一気に萎んだ(C)共同通信社
2021年10月の政権発足からの3年間を振り返れば、岸田の経済政策は嘘ばっかりだ。
自民党総裁選で掲げた「新自由主義からの転換」も「令和の所得倍増計画」も「分厚い中間層の復活」もすぐに引っ込め、日本経済をズタボロにしたアベノミクスを堂々と継承した。金持ち優遇と批判の高い「金融所得課税の強化」も封印。「脱炭素社会」の実現に向け、二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて課税する炭素税の本格導入も、負担増を警戒する産業界の顔色をうかがって見送った。
「令和の所得倍増」はいつの間にか「資産所得倍増」にすり替わり、庶民の虎の子を賭場に向かわせ、結局、株価大暴落である。
「今春闘で5%超の賃上げが実現」と岸田は胸を張るが、実質賃金は過去最長の26カ月連続マイナス。「物価と景気の好循環」などと戯言を流し続けたものの、「好循環」なんてちっとも起きやしない。
金看板の「新しい資本主義」はいまだ意味不明。むしろ岸田がやってきたことは、5年間で43兆円という防衛費倍増とそれに伴う増税計画。年金の実質支給減。後期高齢者の健康保険料アップ。鳴り物入りの異次元の少子化対策では、健康保険料に上乗せして、2026年度から「支援金」が徴収される。
あれやこれやで、国民負担率(国民全体の所得に占める税金や社会保険料の負担の割合)は、今年度の見込みで45.1%にまで達している。これだけ払っても、老後や将来の不安が払拭できない国。政治に問題があるとしか考えられない。
経済評論家の斎藤満氏が言う。
「そもそも『物価と景気の好循環』というのは企業の発想なんです。個人は物価上昇を望んでいません。個人にとって物価上昇は、景気悪化の悪循環でしかありません。アベノミクス以降、岸田政権が続けている経済政策は、個人の犠牲の下に企業収益を上げる政策です。岸田首相が、いかに国民の方を見ていないかということ。企業が主体だから、株価が大事な要素だったわけですが、株価の大暴落というここ2、3日の現象を見れば、それがいかに上っ面の形だけのものだったかが明確です。少し針を刺されただけでプシューと萎んでしまった」
経団連は支えても国民はついていかない
その通りで、3年前の総裁選で打ち出した金融所得課税の強化を引っ込めた岸田政権は、大企業や富裕層にしか目が向いていない。それを姑息なバラマキでゴマカしてきたのだが、最悪だったのは「増税メガネ」批判をかわすために強行した1人4万円の定額減税だ。無駄な事務経費がかかっただけで、誰からも歓迎されず、悪評ふんぷん。国民生活よりメンツ。総理のイス死守。そんなリーダーは害悪でしかない。
「岸田首相に『国民生活を豊かにしよう』という基本的な考えは見えません。先週金曜(2日)には、金融教育のために資産運用の相談クーポン券を発行するなどと言って個人に媚びる姿を見せていましたが、本質からズレています。世論の願いは、岸田首相の9月の総裁任期満了での退陣。将棋で言えば、『王手』を取られ、『投了』してもおかしくない状況です。経団連や一部の身内に支えられて再選を目指すとしても、もはや国民がついていきません」(斎藤満氏=前出)
新総裁は失敗したアベノミクスを総括して懺悔すべきだし、大企業ではなく国民生活をド真ん中に置いた新たな経済政策が必要だ。インフレ抑制のため、消費税を時限的にでも減税したらどうか。金融所得課税を強化していわゆる「1億円の壁」にメスを入れたらどうなのか。
とにもかくにも、経済オンチのトンチンカン首相の再選だけはあり得ない。
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