※2024年7月13日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大
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ワシントンで取材に応じるも聞き慣れた謝罪の言葉のみ(C)共同通信社
異常事態だ。防衛省は12日、自衛隊員による「特定秘密」の漏洩や、海上自衛隊員による潜水手当の不正受給、不正飲食、内局幹部によるパワハラがあったとして、懲戒免職11人、停職83人を含む計218人(延べ220人)の処分を公表した。
処分対象者には事務次官と統合幕僚長、陸海空の幕僚長が含まれる。200人以上の一斉処分は極めて異例なことだ。潜水手当を巡っては、海自の隊員62人が実際には潜水していないのに潜水したことにするなどして、不正受給していた。2022年10月までの5年半で約4300万円に上る。また、海自の隊員22人が、基地内に住む隊員だけに無償提供される食事を、資格がないのに食べていた。不正飲食の食事代は去年3月までの3年間で計約160万円に上るという。
海自については、潜水艦修理に絡み、川崎重工業が隊員に金品や飲食を不正に提供していた疑惑も浮上。川崎重工が架空取引で捻出した裏金は年間2億円に上り、総額は少なくとも十数億円規模だという。裏金はゲーム機「ニンテンドースイッチ」や釣り道具、家電製品や工具の購入に充てられていたケースもあったという。裏金自民もビックリの中身である。
なぜこのタイミングで不祥事が続々と発覚したのか。海上自衛隊の元3等海佐で軍事研究家の文谷数重氏はこう言う。
「防衛省は、国会が閉じたタイミングを見計らって情報を出してきたのではないかと思います。会期中だと政府追及の的になり、防衛省の担当職員も連日、深夜までの対応に追われる。そうした事態を避ける狙いがあったのでしょう」
ブラックボックスを盾にやりたい放題
防衛省はこの政治的空白を狙ってきたというわけだ。秋の総裁選まで政局が動きづらい「凪」の時期でもある。自民党に忖度してこのタイミングを選んだことも考えられる。しかし、そんな小手先でゴマカし切れるような問題ではない。事は極めて深刻だ。中でも潜水艦修理を巡る川崎重工からの裏金の実態は、とても国民の納得を得られるものではないのだ。
「潜水艦のどこを直すのかについては乗員が決められる部分があります。川崎重工は仕事を取るためにサービスを提供したのではないか。潜水艦は巨大な耐圧タンクで、潜水浮上のたびに伸び縮みします。ついている配管は傷みやすく、交換の工賃は高くなる。また、空調機器も二酸化炭素除去機能や防振対策があるので高単価です。工事箇所が増えるほど川崎重工は儲かるのです」(文谷数重氏=前出)
裏金は、潜水艦の建造費や検査・修理経費などに上乗せされ、防衛省側に請求されることによって、結果的に税金から支払われていた可能性がある。自衛官の私腹を肥やすために税金が使われるなど、決して許されないはずだ。
防衛ジャーナリストの半田滋氏はこう言う。
「防衛費の詳細な中身について、政府は『手の内を明かせない』との理由で説明を避けてきました。もちろん、一定の機密性は保たれなければならない。しかし、ブラックボックスであるのをいいことに、防衛省や自衛隊はやりたい放題が当たり前になっているのではないか。裏金や潜水手当の不正受給などは、その典型です。国民の生命と財産を守るという、自衛隊の原点から著しく外れています」
安倍政権時の特定秘密保護法が現場に混乱を招いた
辞職は否定(木原防衛相)/(C)共同通信社
政治責任も問われるべきだ。特に、今回の一件を機に、やりたい放題を始めた安倍政権の検証が必須である。何しろ、自衛隊員が漏洩させた特定秘密の基準である「特定秘密保護法」が成立したのは、安倍政権時の13年のことだからだ。国民の反対の声を押し切って、強行採決されたのだった。米国の意向に沿ってつくられたこの悪法が、現場の混乱を招いたのは間違いない。前出の半田滋氏はこう言う。
「海自が保有する艦艇54隻のうち38隻で、特定秘密の不適切な扱いが発覚しています。これだけ出てくるということは、特定秘密にすること自体に無理があったと思わざるを得ません。特定秘密に指定する必要のない情報を指定してしまった結果、現場でミスマッチが起きたということです。漏洩が問題視されたのは、船の航行ルートを示すデータ『航跡』ですが、特定秘密保護法の施行前は普通に乗組員が扱っていた情報です。それまで普通に目にしていた情報が突然、特定秘密の指定対象になれば、混乱するのは当然。ある意味、自衛官は被害者と言えます。今からでも法律の妥当性を検証した上で、防衛大臣を含めた政治家の責任を問うべきでしょう」
ところが、岸田首相も木原防衛相も頬かむりである。
木原は12日の閣議後会見で神妙な面持ちで「深くおわび申し上げる」と謝罪したが、辞職は否定。「悪い部分があるとすれば、しっかりと改革していく」と再発防止を誓ってみせた。処分は、たった1カ月分の大臣給与の返納だけだ。
岸田も本来は辞職モノだが、「国民の皆さまにご心配をおかけしていることに、おわびを申し上げなければならない」と聞きなれた謝罪の言葉を発するだけ。NATO(北大西洋条約機構)首脳会議への出席のために訪れていた米国を離れ、12日にドイツに到着。「外交の岸田」アピールしか眼中になく、危機感ゼロである。
防衛費増なのに1300億円が不用のアベコベ
こんな不祥事の原因は、突き詰めればこの政権の無責任体質そのものだ。魚は頭から腐るというが、政権トップが平然とやりたい放題を繰り返しているのだから、防衛省のモラルが崩壊するのも当然といえば当然だ。
国会に諮らず、岸田が勝手に決めた防衛費倍増も「数字ありき」で中身ナシだとハッキリしている。23年度予算に計上した防衛費6.8兆円のうち、約1300億円を使い残して不用額となったのだ。
折しも、防衛省が12日公表した24年版防衛白書は台湾海峡情勢について「中国側の軍事活動活発化により、緊張が高まる可能性も否定できない」と危機感を示し、防衛力強化の必要性を強調。そのために大増税まで予定しているというのに、カネが余るとはどういうことなのか。
防衛費倍増に伴い契約や事業の実施が想定以上に増え、年度内に必要な支出を精査しきれなかったことが原因とされるが、そんないい加減な話があるか。結局、米国に言われるがままに防衛費の倍増を決めただけだから、「数字ありき」で中身を詰めていなかったに違いない。
防衛省は組織管理も金勘定もデタラメの極み。これまでもパワハラやセクハラが発覚してきた。そこへきて、今回のあり得ない不祥事である。ただでさえ、自衛隊は人手が不足しているのに、この体たらくでは、より人材離れが進んでいくだろう。
米国の武器だけは“爆買い”するが、肝心の人がいなくて、この国を守れるわけがない。責任者が大臣席に居座り、政権トップはノンキに外遊では、この国はオシマイだ。
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