※2024年6月25日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※2024年6月25日 日刊ゲンダイ2面
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新旧首相の胸中やいかに(C)日刊ゲンダイ
永田町で世にもつまらない小芝居が繰り広げられている。主題は9月の自民党総裁選での岸田首相の再選阻止だ。「裏金国会」そのものだった通常国会が閉会した23日、菅前首相が文芸春秋のオンライン番組に出演。列島に渦巻く嫌悪感をものともせず続投意欲マンマンの岸田に対し、「不信感を持つ国民は多い」と事実上の退陣要求を突きつけたのである。確かに、岸田政権の延命は日本衰弱とイコール。一刻も早くお引き取りを願いたいのはやまやまではあるが、言うまでもなく、菅の動きは国家国民をおもんぱかったものではない。党利党略に基づいた岸田降ろしだ。3年前に引きずり降ろされた私怨も見え隠れする。
菅の発言は、あらかたこんな感じだった。
自民の裏金事件が引き金となった政治資金規正法改正をめぐる政権の泥縄式対応を「自民党案を何が何でも(先に)出すべきだったが、野党の後になったのはどう考えてもおかしい」と非難し、「総理自身が派閥の問題を抱えているのに、責任を取っていなかった。いつ取るのか。いつ言及するのか。その責任に触れずに今日まできている」と批判。それはその通りで、岸田派の会計責任者は政治資金規正法違反(虚偽記入)の罪で有罪となったのに、領袖の岸田はおとがめなし。大甘裁定にもほどがある。そうして菅は来たる総裁選に言及し、「『自民党が変わった、もう一回期待したい』という雰囲気づくりが大事だ。国民に刷新感を持ってもらえるかが大きな節目になる」と言って岸田にダメ出し、退陣を求めたのである。
保身首相は全方位で用なし
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう指摘する。
「立件を免れた国会議員トップの総額3526万円(2018〜22年)もの裏金をつくっていた二階俊博元幹事長を引退させることで、岸田首相は自分への処分をウヤムヤにしました。政治資金規正法改正をめぐっては、十分な根回しをせずに連立を組む公明党や日本維新の会に妥協。一方で、自民党の金権腐敗の根っこといっていい企業・団体献金、政治資金パーティー、政策活動費は温存した。自民党にとっても国民にとっても不満の残る結果となりました。いよいよ世論に見放された岸田政権に上がり目はなく、延命する限り、裏金問題は決着がつかない。用なしとなった岸田首相を引きずり降ろし、新しい総裁を担ぎ出して禊を演出しなければ一歩も前に進めません。政治の世界では口火を切った人間が主導権を握る。通常国会が閉じ、政局が総裁選へシフトするタイミングを見定め、菅前首相は先制攻撃を加えたのでしょう」
菅発言を新聞各紙が詳細に報じ、テレビなども取り上げている。「このままでは政権交代してしまうと危機感を持っている人がどんどん増えている」という見立てを裏付ける世論調査が続々だ。8〜10月使用分の電気・ガス料金への補助復活をブチ上げた直後なのに、内閣支持率はダダ下がり。早期退陣を求める声も強まっている。断行できなかったものの、解散総選挙をにらんで今月から始めた1人4万円の定額減税も不評だ。バラマキ連発でこれほど嫌われる政権は珍しい。
「自公」「自公維」よりも野党連立政権
麻生副総裁(右)と茂木幹事長による三頭政治は空中分解(C)日刊ゲンダイ
毎日新聞の調査(22、23日実施)によると、支持率は前月比3ポイント減の17%に下落。裏金事件の真相究明や再発防止をめぐる岸田の指導力について「発揮したとは思わない」との回答が79%を占め、規正法改正は裏金事件の再発防止に「つながるとは思わない」は80%に上った。共同通信の調査(22、23日実施)も散々で、支持率は前月比2.0ポイント減の22.2%。岸田に「できるだけ早く辞めてほしい」との回答が36.6%で、「次の総裁選で再選し、続けてほしい」は10.4%しかいなかった。
政権寄りの読売新聞の調査(21〜23日実施)でも、傾向は変わらない。支持率は前月比3ポイント減の23%で、内閣発足以来最低に沈んだ。政治資金をめぐる一連の問題で岸田が自民党総裁として指導力を発揮していると「思わない」と回答したのが78%で、首相を「すぐに交代してほしい」も29%に上った。
この6カ月、ボンクラ首相がやったことは岸田派の唐突な解散、呼ばれていない衆院政治倫理審査会への出席。裏金事件のキーマンとされる安倍派OBの森喜朗元首相への電話聴取は、名ばかりのご機嫌うかがいだった。「火の玉」になってこの体たらくでは、国民からさじを投げられて当然だ。自民の政党支持率も軒並み急降下。毎日の調査では、次期衆院選後の望ましい政権の枠組みは「立憲民主党を中心とする野党連立政権」が最多回答の33%だった。「自民党、公明党の連立政権」は11%にとどまり、「自民党、公明党に日本維新の会を加えた政権」と回答した15%を足しても及ばない。
焦りまくる自民は「ポスト岸田」探しにシャカリキだが、問われているのは自民の体質そのものだ。裏金事件の実態解明から逃げ、安倍元首相銃撃を招いた反日カルト集団の統一教会(現・世界平和統一家庭連合)との癒着についても頬かむりのままなのだ。
日本一の「言うだけ番長」爆誕
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言った。
「岸田降ろしは結構な動きです。自民党の地方組織が公然と批判し、麻生派や茂木派の中堅若手議員も声を上げていますが、前首相の言葉の重みは違う。ただ、表紙を替えようというだけでは無責任が過ぎる。国民の信頼を回復するために何をすべきなのか。クリアすべきハードルをキッチリと示し、まずは岸田首相に実行を迫る。やはりできないのであれば、実現が見込める『ポスト岸田』を擁立する。そうした手順を踏まず、刷新感だけで押し通そうとすれば、それこそ意趣返しに映る。日本一の『言うだけ番長』になってしまいますよ」
問うに落ちず語るに落ちる。前首相の妄言、妄動の核心はシャッポを挿げ替え、目くらましをしようということなのだろう。これぞ自民の伝統芸だが、キングメーカー気取りの元ボスたちが裏で暗躍の「いつものパターン」にも有権者は辟易している。
「金権腐敗政治は自民党が下野しない限り、根絶できません。菅前首相の言動に関する針小棒大な報道は、自民党の思うツボです。永田町は夏休みに入り、総裁選は政界の夏枯れにもってこいの話題。『ポスト岸田』をめぐってお祭り騒ぎ、ショーアップして窮地を脱しようという魂胆がミエミエです。裏金議員、統一教会ずぶずぶ議員は次の選挙で必ず落とす。そうでなければ、世論をナメ切った自民党は米国や財界におもねった政治を延々と続ける。国民は置き去り。主権者国民が政治をコントロールできるかの分水嶺に立っているのです」(金子勝氏=前出)
解散を封じられた岸田の退場まで総選挙は遠のく。最短でも今秋だ。となれば、手っ取り早く「自民NO」を意思表示できるのは東京都知事選(7月7日投開票)。自公与党は3選を狙う疑惑の女帝・小池百合子知事をステルス支援している。岸田自民は4月の衆院3補選をはじめ、選挙の大小を問わず連敗続き。首都決戦の黒星は、政権交代へ向けた決定打になり得る。
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