※2024年6月1日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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ガッチリ握手(岸田首相と公明党の山口代表)/(C)共同通信社
自民党の裏金事件が引き金となった政治資金規正法の改正をめぐる攻防は、急転直下の展開だ。「今国会で改正を確実に実現しなければならない」と力んできた岸田首相が与ゆ党を抱き込んで強行突破し、ザル法の抜け穴を塞がずに押し通しそうな流れになってきた。
岸田は5月31日、連立を組む公明党の山口代表、「第2自民党」を自負する日本維新の会の馬場代表と相次いで会談。結果、政治資金パーティー券購入者の公開基準を「20万円超」から「5万円超」に引き下げる公明案を丸のみ。維新とは調査研究広報滞在費(旧文通費)の透明化を含む合意文書を取り交わした。政党から支出を受けた議員に使途報告義務がなく、ブラックボックス化した政策活動費について、10年後に領収書や明細書を公開する方針を確認。年間の使用上限も設定するとしている。政活費は二階元幹事長が5年間で約50億円も受け取っていた一種の裏金だ。
党首会談後、山口は「首相として大きな決断をされた」と岸田をベタ褒め。パー券公開基準を「10万円超」とする自民のゴリ押し案にいったんは乗ろうとし、支持母体の創価学会から突き上げられて板挟みとなった直後の朗報。今国会中の法改正実現に「道が開かれた」と事実上の太鼓判を押し、大衆ではなく自民とともにあることを鮮明にした。馬場にしても、「わが党の考えが100%通った」とえびす顔で、自民の規正法再修正案に「基本的に賛成する」と前のめりだ。
連座制も企業・団体献金も棚上げ
5月31日までの自民は四面楚歌だった。与党案をまとめられず、スカスカの単独案を提出。▽政治資金収支報告書の作成時の政治家本人による確認書を義務付ける「いわゆる連座制」の導入▽パー券購入者の公開基準を20万円超から10万円超へ引き下げ▽政活費の大まかな項目での使途公開──などを柱とするふざけた代物だった。
規正法改正を審議する衆院政治改革特別委員会を舞台にした与野党協議は、連日紛糾。それでも自民は微修正にしか応じず、政活費の公開に「年月」を追加するとしただけ。付則に、▽違反が発覚した場合に政党交付金の交付を停止する制度の創設▽個人献金を促進するための税制優遇措置の検討▽自身の選挙区支部への寄付に対する税制優遇措置の見直し▽外国人によるパー券購入の規制検討▽法施行後3年をめどとした見直し規定──の5点をぞろぞろ列記したが、これはやらないと言ったも同然。「平成の政治改革」の規正法改正では付則に企業・団体献金の5年後の禁止が盛り込まれたが、言うまでもなく、自民は死守し続けている。
そうして野党の猛反発は収まらず、23日の会期末が迫ってきた。5月中に改正案を衆院通過させる自民の青写真は崩壊。残り3週間あまりとなり、黄信号がともる中、党総裁でもある岸田のトップダウンで決着をつけたという絵を見せつけているのだが、何のことはない。「令和の政治改革」の本丸に位置付けられる公選法に準じた連座制の導入も、企業・団体献金の廃止も棚上げ。骨抜きのままなのだ。
歩み寄り切望した公明、すり寄り強化する維新
しっかりサイン(岸田首相と日本維新の会の馬場代表)/(C)共同通信社
政治ジャーナリストの山田厚俊氏はこう言う。
「自公協議がデキレースなのは明々白々。公明党は振り上げた拳を下ろせず、歩み寄りを切望していました。当初から主張しているパー券の公開基準『5万円超』ですら押し込めないようであれば、『政治とカネ』の問題に厳しい創価学会女性部が離れてしまう。連立離脱の覚悟を決めなければならないという状況で、どうにかこうにか体面を保った。自民党にしてみれば、この程度の譲歩で着地できたのですから、してやったり。岸田首相にしても〈オレがすべてやった〉と気分上々でしょう」
野党第1党を目指すと言いながら、何だかんだで自民にすり寄る維新の動きも当然、思惑含み。窮地の自民に恩を着せつつ、敵視する立憲民主党との違いを打ち出すハラだ。
この2カ月というもの、5万円だの、10万円だのでガチャガチャやっているが、つまるところ、全ては裏金議員の脱税疑惑をウヤムヤにする目眩まし。安倍派、二階派、岸田派は、「雑所得」として確定申告しなければならないカネを2022年までの5年間で計9.7億円もかすめ取っていた。組織的犯行なのは疑う余地がない。裏金事件の端緒を開いた神戸学院大教授の上脇博之氏は、「悪しき慣行は安倍派内で20年以上前から続いていたとされ、裏金の総額は40億円近くに達してもおかしくないのですが、原資の全容は誰も掴めていないのが実情です」と指摘していた。にもかかわらず、世論の怒りをよそに大半の裏金議員が立件を免れ、平然とバッジをつけ続けている。「盗人が法改正」なんて倒錯。ドロボーが厳罰化を求めるわけがないのである。
カネかかる政治を改革でリセット
自民党の金権腐敗はパー券収入の還流にとどまらない。政治団体間で多額の政治資金を移動させる使途隠蔽。裏金を原資に自身の党支部へ寄付し、所得税の一部控除を受ける税優遇。脱法手口のマネーロンダリングが横行している。内閣官房報償費(機密費)を選挙の陣中見舞いに流用していることも明るみに出た。裏金で高級シャンパンを買いまくっていた輩もいる。疑惑が底なしの中、規正法改正をめぐるエセ交渉の茶番劇を垂れ流し、公明や維新の浅ましさをてんで報じない大メディアも同罪だ。ありていに言えば、こんな猿芝居を「報じるバカ」も「演じる悪党」も常軌を逸している。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言った。
「公的権力や社会的権力の不正を追及し、主権者国民に正しい判断を促す。それが近代メディアの存在意義です。しかしながら、第2次安倍政権以降、景色は一変した。権力は権威を強め、大手メディアは喜々として政府審議会のメンバー入りし、その方針に賛同する。ちょっとした枝打ちで『やった、やった』と自画自賛する自民党政権に対し、一体化した大手メディアが批判的に報じられるわけがない。政権交代されたら、自分たちが干上がってしまうのですから。自民党は政治にはカネがかかると強調しますが、裏金をつくらなければ政治活動ができないような国会議員は辞職すればいい。国民はカネまみれの政治を嫌悪している。リセットするためには政治改革を断行し、裏金事件にオトシマエをつけなければなりません。民主主義の発展には不可欠です」
選挙で根底から覆す大掃除が必要だ。解散・総選挙が待ち遠しい。
http://www.asyura2.com/24/senkyo294/msg/505.html