※2024年5月9日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2024年5月9日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
これのどこが改革案か、大マスコミも無批判報道(法改正について会見する岸田首相)/(C)共同通信社
まったく、ようやるわ。また、岸田自民党が“やっている感”を演出している。突然「政治改革法案」の成立に前向きなポーズをみせているのだ。あれほど「政治とカネ」の規制強化や罰則強化に後ろ向きだったのが嘘のようである。
大手メディアも「政治改革 首相、前のめり」「自民 早期決着へ譲歩」──と、自民党が本気で政治改革に取り組みはじめたかのように報じている。
自民党が打ち出した改革案は「政治資金パーティー券の購入者の公開基準額の引き下げ」と、「政策活動費の透明化」の2つだ。
現在、パーティー券の公開基準額は20万円超となっている。購入額20万円以下の企業や個人については、社名や氏名を明らかにする必要がない。自民党内では10万円超まで引き下げるプランが浮上している。
一方、政党から政治家個人に支出される「政策活動費」は、現在、何に使ったか使途を公開する義務がない。自民党の二階元幹事長が5年間で50億円も受け取っていた例のカネだ。それを自民党は、「調査研究」など使い道を10項目程度に分けて、それぞれ支給額を公表する案を検討しているという。
しかし、これのどこが「改革」なのか。裏金の温床となった政治資金パーティーは「全面禁止」、政策活動費は「廃止」にするのが当たり前だろう。もちろん、野党は「全面禁止」と「廃止」を掲げている。公明党だって、パー券の公開基準額を5万円超とし、政策活動費については使途の全面公開を掲げているくらいだ。自民党が本気じゃないのは明らかだ。
ある自民党関係者がこう言う。
「さすがに自民党だって、自分たちが掲げた案が、そのまま通るとは思っていませんよ。すべては痛みを小さくするための戦略です。まず大甘な案を出し、妥協を重ね、議論の末にゴールにたどりつく。そうすれば、結果的に痛みの小さい法案に着地します。自民党には成功体験がある。裏金事件で追及された時、『証人喚問』を避けるために、あたかも『政倫審』が一大イベントかのように演出し、もったいぶって政倫審に出席することで、狙い通り、証人喚問を避けることができた。最初から厳しい案を出したら、どこまで話が進むか分からない。自民党は、なるべくいまの制度を維持したい。防衛ラインは『政治献金制度』の死守です。これだけは絶対に譲れない。政治献金の廃止まで議論をエスカレートさせないためにも、ファイアウオールは手前に敷いておく必要があります」
「政治とカネ」の肝は企業献金の廃止
カネまみれ(C)日刊ゲンダイ
それにしても、よくも大手メディアは自民党のバカバカしい政治改革案を「自民 早期決着へ譲歩」などと、まともに取り上げたものだ。
しかも「踏み込んだ対応を示さなければ、世論の理解は得られないと判断したためだ」などと、まるで自民党が踏み込んだ案を打ち出したかのように伝えているのだから、どうかしている。これでは、なにも知らない国民は勘違いしてしまうのではないか。
さすがに、大新聞テレビだって自民党案が箸にも棒にもかからない、論評に値しないシロモノだということは分かっているはずだ。なのに、自民党案に対する批判がほとんどないのだから信じられない。
大手メディアは「自民、公明の実務者協議がはじまった」とか、「首相が自民党の実務者に与党案とりまとめを指示した」などと、自民党の動きを追っているが、それだって“やっている感”を演出したい岸田自民党をニンマリさせているだけなのではないか。
自民党が裏金事件を追及された時、自民党と一緒になって、さも「政倫審」を一大イベントかのように仕立てた時とほとんど同じ構図である。
政治評論家の本澤二郎氏がこう言う。
「政治記者のレベルが低いのか、それとも分かっていて自民党をアシストしているのか不明ですが、『永田町新聞』のように自民党の動きを追っている大手メディアは、まんまと自民党の策略に乗せられている形です。いまメディアが報じるべきは、愚にもつかない永田町の動きではなく、どんな政治改革が必要なのか、国民に提示することのはずです。『政治とカネ』の問題は、企業献金を禁止するかどうかに尽きる。パー券の公開基準額の引き下げや、政策活動費の透明化も必要ですが、本丸は企業献金です。企業献金が禁止になれば『政治とカネ』の問題は、あらかたカタがつく。政官財の癒着もなくなるでしょう。大手メディアは、自民党のバカバカしい政治改革案をタレ流す暇があったら、企業献金の是非を国民に訴えるべきでしょう」
「政治とカネ」の本質を突こうとしない大手メディアに自民党はニンマリしているはずだ。
アベノミクスを礼賛した大罪
このままでは、裏金事件をキッカケに行われる「政治改革」も、デタラメな自民党案が軸になってしまうだろう。「政治とカネ」の問題は永遠につづくに違いない。結局、この国をここまで腐らせたのは、大マスコミと自民党ということだ。
大手メディアと自民党との癒着は、もう以前からのことだが、第2次安倍政権以降、深まったのは間違いない。
どんなに安倍政権が悪政をつづけても、正面から対峙する大手メディアは、ほとんどなかった。アベノミクスが日本経済を破壊することがわかっていたのに、それでも大新聞テレビは異を唱えようとしなかった。それどころか、いまだにアベノミクスの総括もしようとしない。
「アベノミクスが失敗に終わったことは、数字が証明しています。民主党政権の末期だった2012年、日本の名目GDPは6.2兆ドルと史上最高だった。ところが、安倍政権の末期である2019年は5.1兆ドルに落ち込んでいます。アベノミクスのせいで、日本は本当に貧しくなってしまった。円の価値は急速に下がり、高級ホテルや人気レストランは、外国人に席巻されている状況です。当時、アベノミクスを礼賛していた大手メディアは、どう責任を取るつもりなのでしょうか」(本澤二郎氏=前出)
安倍政権をヨイショしていた大手メディアが、いまは岸田自民党の「政治改革案」を批判もせずにタレ流している。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)が言う。
「政・官・財の癒着、トライアングルと指摘されますが、そこに大マスコミが組み込まれているのが実態なのだと思う。実際、大手メディアにとっては、政界も官界も財界も、取材対象ということもあり、近い関係なのは間違いない。大手メディアには、いまの体制のほうが好都合なのだと思う。だから、企業献金の全面廃止も訴えないのでしょう。もし、自民党が下野するような厳しい選挙となったら、大手メディアが『自民にも野党にも期待できない』などと、一見、野党批判に見えないような、巧妙な野党批判をしてくることもあるかも知れない。しかし、国民の信用を失ったら、メディアは存続できないのも事実です」
いったい、大手メディアはどこを向いて報道をしているのか。誰のために存在しているのか。
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