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※2024年5月8日 日刊ゲンダイ2面
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裏金集団が法改正とはまるでマンガ、解散すれば惨敗(ブラジル・サンパウロで会見する岸田首相)/(C)共同通信社
岸田首相が裏金事件を受けた政治改革の実現に向け、妙な“やる気”を見せている。
日本時間の5日朝、訪問先のブラジルで行われた記者会見で、岸田は「帰国当日にも自民党政治刷新本部メンバーと面会し、改革の方向性を確かなものにしていきたい」と発言。その言葉通り、6日午後3時前に羽田空港に到着するや、その足で公邸に直行し、午後4時には刷新本部で政治資金規正法改正案の実務を担う鈴木馨祐衆院議員らと約1時間にわたり協議した。
この協議で岸田は、政治家個人に支出し使途公開義務がない「政策活動費」の公開や、パーティー券購入者の公開基準引き下げ、国会議員に月100万円支給される旧文通費の使途公開を検討するよう指示した。政活費と言えば、二階元幹事長に5年間で50億円も渡っていた“掴みガネ”。事実上の裏金に岸田は本気で切り込むつもりなのか。
政活費と旧文通費の使途公開を巡り、岸田自民は今国会での見直しを見送る方針を固めていたはず。規正法改正案についても、常に消極的なスタンスをとり続けた。岸田が急に前向きな姿勢に転じた理由には「衆院3補欠選挙の全敗を受け、国民に改革姿勢をアピールせざるを得なくなった」(永田町関係者)との見方がある。
どうやら、岸田は“やってるフリ”の政治改革で裏金事件にケリを付け、6月の会期末解散に突き進もうという腹積もりのようだ。
岸田が固執する「6月解散」シナリオに、自民党内の警戒感は強い。「今やられたらマズい」と悲鳴が上がるのも当然だ。それでも岸田は本当に解散するつもりなのか。
6月解散なら「自公過半数割れ」の予測
「総理はいまなお自公で過半数割れはないと高をくくっているフシがある。秋の総裁再選を目指し、6月解散に打って出る可能性がある」(官邸事情通)
衆院議員の任期満了は来年10月。今秋の総裁選前に解散を打たなければ、党内で「選挙の顔が岸田では戦えない」との声が高まり、総裁選で首をすげ替えられる恐れがある。岸田は総裁再選のために6月解散を模索しているわけだ。そんな自分本位な自己都合に巻き込まれる自民党議員はいい迷惑。悲鳴を上げたくなる気持ちも分かる。
さらに都合のいいことに、JNN(TBS系列)が4〜5日に実施した世論調査では支持率が29.8%と、前回調査から7ポイントも上昇した。
「連休中のフランス、ブラジル、パラグアイ訪問で『外交の岸田』をアピールしたことが奏功したのか。先月上旬の国賓訪米でも支持率が微増したので、総理は『解散の地ならしになった』とほくそ笑んでいるでしょう」(官邸事情通=前出)
支持率上昇に自民党議員は真っ青。「そんなはずはない」「困る。解散したらどうすんの」と不安を漏らすありさまだ。
自民党議員の反応はある意味、正しい。岸田のシナリオに従ったら、自民の惨敗は確実だからだ。選挙予測に定評のある政治評論家の野上忠興氏の分析によると、6月解散の場合、「自公で81議席減の過半数割れ」という結果が出た。
萩生田前政調会長や下村元文科相、丸川元五輪相ら裏金閣僚経験者も“討ち死に”必至の情勢で、完全なる「自爆解散」。やれるものならやってみろ、という話である。
「大手メディアの世論調査では、政権交代を望む声が高まっています。裏金事件のみならず、破廉恥スキャンダルが続出していますから、国民が怒るのは当然です。今すぐにでも鉄槌を下したい国民からしたら、6月解散は大歓迎でしょう」(政治評論家・本澤二郎氏)
改革姿勢は「裏金隠し」のポーズに過ぎない
国民の怒りは頂点(C)日刊ゲンダイ
よくよく考えれば、岸田の“やる気”を見て、自民党内が解散を警戒し、不安を感じること自体がバカげた話だ。未曽有の裏金事件を起こした以上、本来なら岸田が“改革”姿勢を打ち出す前に「総理、キチンと法改正を議論しましょう」といった意見が党内から続出しなければおかしい。なのに、落選危機に恐れおののき、「解散警戒論」が高まっているとは、まるでマンガ。いや、マンガにも失礼である。
要するに、自民党議員は揃いも揃って、本音では政治改革に“やる気”ナシ。野党4党は7日の国対委員長会談で、衆院政治倫理審査会で弁明していない自民党議員44人の審査を求め、申し立てを行う方針で一致。衆院では委員数が足りず申し立てができなかったが、衆院3補選で立憲民主党が全勝し、可能となった。それでも、自民党議員から政倫審出席に前向きな反応はない。
何度も言うが、自民党派閥の裏金づくりが、いつ、誰の意図で始まり、何に使われたのか、実態解明は1ミリたりとも進んじゃいない。政治活動に使わず、手元に残せば課税対象の雑所得に当たり得る。そんな脱税疑惑もウヤムヤのまま、岸田の「改革の方向性を確かなものにしたい」なんて勇ましい発言は、コトを覆い隠す単なるポーズ。いつもの“やってるフリ”の茶番劇に過ぎないのである。
政策活動費は「廃止」一択
そもそも、岸田が刷新本部に「検討」を指示した政活費の使途公開だって、真剣に取り組む気配はまるで見えない。これまで政活費の目的について岸田は「党勢拡大、政策立案、調査研究等に党役職の職責に応じて支出している」とし、「適正に処理されている」と強弁。党内からは「政治活動の自由を損なう」と、見直しに消極的な意見が噴出していた。
2019年の参院選の際には、選挙対策委員長だった甘利元経産相が「陣中見舞い」として全国の公認候補に100万円をバラマキ。甘利は、中国新聞の取材に「原資は党からの金」と答え、政活費だった可能性がある。随分と使い勝手のいい「政治活動の自由」があるものだ。
〈政治資金の収支の状況を国民の前に明らかにすること〉をうたう規正法の趣旨に沿うのなら、本来、政活費の使途は1円単位で公開すべきだ。それができなければ、全面廃止がスジだ。
パー券購入者の公開基準も、自公与党間で公明が現行の「20万円超」から「5万円超」への引き下げを提案しているのに対し、自民は「10万円超」を主張。この議論に、果たしてどこまで意味があるのか。裏金の原資となったのはパー券収入だ。「袖の下」の出どころを断つのなら、本来、政治資金パーティーを全面禁止すべきである。
裏金事件の端緒を開いた神戸学院大教授の上脇博之氏はこう言う。
「パー券収入の公開基準については、仮に5万円超、10万円超に引き下げたとしても、それ以下の収入は非公開でOKですから、裏金をつくり放題の現状と変わらない。裏金を根本から断つには政治資金パーティーそのものを禁止するしかありません。政治家個人に支出される政活費の使途公開に関しては、ハッキリ言って意味不明です。規正法は、政治家個人に使途報告義務を課していない。法的根拠がない以上、政治家個人は公開義務を免れる余地が残ります。岸田首相はそうした法の詳細をよく理解せずに『使途公開』と言っているのか、もしくは口先だけということなのか。政活費のあり方を見直すなら『廃止』以外の選択肢はないはずです」
この期に及んで、法の“抜け穴”づくりに励んでいるなら、度しがたい連中だ。こんな脱法集団に政治を語る資格などない。岸田に解散する気があるなら、サッサと国民に対し政権選択の機会を設けたらどうなのか。自爆解散の“蛮勇”に国民は拍手喝采、「待ってました!」と喜んで投票所に向かう。むろん、その先に待つのは政権交代に違いあるまい。
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