※2024年4月2日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※2024年4月2日 日刊ゲンダイ2面
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自分にも甘い2人(岸田首相と茂木敏充幹事長=右)/(C)J M P A
「永田町の常識は世間の非常識」という使い古された表現を改めて実感する。いつ、誰が始め、何に使ってきたのか──。自民党派閥の裏金事件は、真相解明がちっとも進展しないのに、幕引きに向けたセレモニーだけは急ピッチだ。
茂木幹事長は1日、裏金議員を処分する党紀委員会の招集を要請。4日にも処分を決定する。対象は収支報告書に不記載があった安倍派と二階派の議員ら85人のうち、不記載額が5年間で「500万円以上」かつ派閥幹部の39人に絞り込み。いきなり半数以上が外れた。
裏金づくりは法令に反し、国会議員が法令を守るべき立場にあるのは言うまでもない。「裏金は犯罪と脱税」が国民の声で、先月16〜17日実施のANN(テレビ朝日系列)世論調査では、83%が不記載があった議員への処分を求めていた。
金額の多寡を問わず、全員処分が「世間の常識」だ。これだけでも甘すぎる処分だが、非幹部で不記載額「1000万円未満」は8段階ある処分のうち、下から2番目に軽い「戒告」で片づけるようだ。文書や口頭で注意されてオシマイで、現職16人が対象となる。無罪放免組と合わせて実に約7割の裏金議員を不問に付すも同然だ。
不記載額「1000万円以上」もしくは派閥幹部は下から3番目に軽い「党の役職停止」で調整。安倍派の事務総長経験者の高木毅前国対委員長や松野博一前官房長官、裏金2728万円と現職3位の萩生田光一前政調会長ら安倍派幹部「5人衆」らが該当するという。
裏金事件を受け、5人衆はすでに党の役職から離れており、こんなチンケな処分は今さら痛くもかゆくもない。これらを非常識と言わずして何と言えばいいのか。
「銀座3兄弟」はそろって復党
結局、比較的「厳しい」処分を受けそうなのは、岸田首相が自ら追加聴取に乗り出した安倍派幹部4人のみ。安倍元首相の死後、派閥の裏金キックバックを復活させる疑惑の謀議に参加した塩谷立、下村博文両元文科相と西村康稔前経産相、世耕弘成前参院幹事長の破廉恥4人衆である。
それでも2番目に重い「離党勧告」処分を科されるのは一部にとどまり、ほかは上から4番目の「選挙における非公認」を軸に調整。衆参トップの塩谷、世耕の責任が特に重いとの見方もある。
「世耕さんは昨年10月、参院本会議の代表質問で、岸田総理に『リーダーとしての姿が示せていない』と苦言を呈し、その後も月刊誌で『言葉に情熱を感じない』と“ダメ出し”。常に批判的な姿勢が総理の不興を買い、『離党勧告』を突きつけられるのではないか」(自民党関係者)
とはいえ、世耕1人に重い処分というわけにもいかず、党内からは「お飾り座長に過ぎなかった塩谷さんも、巻き込まれて気の毒」と妙な同情論が聞こえてくる。岸田は党幹部に「処分をきつくしないと国民は納得しない」と伝えたらしいが、単に世耕への私怨を晴らしたいだけではないか。
大山鳴動して、ようやく大きめのネズミ数匹--。それでも4人のうち誰が「離党勧告」や「非公認」をくらったところでタカが知れている。いざ選挙となれば自民の看板を失うのはシンドイだろうが、2005年の郵政選挙の「造反議員」のように刺客を立てられるわけではあるまい。
勧告に従って離党したって、決して重い処分とは言えない。ほとぼりが冷めたらシレッと復党が許されるのが「自民の常識」だ。21年、コロナ禍の緊急事態宣言中に東京・銀座のクラブでの“豪遊”が発覚。離党勧告処分を受けた田野瀬太道衆院議員、松本純元国家公安委員長、大塚高司前衆院議員の「銀座3兄弟」だって、今や兄弟そろって復党している。
「キックバック復活」以上に深い闇に斬り込め
銀座3兄弟は自発的に離党を表明。党は「それだけでは不十分」と判断し、離党勧告を突きつけた経緯がある。今年2月のBSフジの番組で、茂木は「今までの基準からすると厳しかった」と漏らしたが、自粛破りの銀座通いより、裏金の政治責任の方が重大なのは自明の理だ。
だったら、自ら「けじめ」をつけることなく、グズグズと責任逃れに終始した安倍派幹部には、最も重い「除名」処分を科すべきだが、恐らく次の選挙で「みそぎ」を済ませれば一件落着。身内にはとことん甘いのが、「自民の常識」だ。国民驚愕の大甘処分は、非常識にも程がある。
ここにきて岸田が処分を急いでいるのも、政権浮揚の足がかりにしたい国賓訪米までの逆算ゆえ。サッサと裏金事件にケリをつけ、来週に迫る晴れ舞台に臨めば、沈滞ムードは一掃と踏んでいるのだろう。自分にもとことん甘いのが「岸田の常識」なのである。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。
「派閥ぐるみの裏金づくりで誰がどんな役割を果たしたのか、真相究明はそっちのけ。ロクな調査もせず、裏金の多寡と役職の軽重のみで処分を急ぐから『罪なき罰』の適当な処分となり、後は頬かむり。いつもの『やってる感』の演出に大手メディアも手を貸しています。安倍派幹部4人の処分について自民党の言い分を垂れ流し、なれ合い関係で処分の相場観を勝手に醸し出す。それより重くなると一緒になって『厳しい処分』などと言い繕い、批判の逃げ道を用意する始末です」
そもそも安倍派のキックバック復活はそれほど重要か。大罪のように扱う大マスコミも「永田町の常識」に染まっている。安倍派の裏金づくりは1990年代後半ごろに始まった疑いがある。四半世紀に及ぶ長期間、悪しき慣習が継続した「非常識」に目を向け、その深い闇を暴く方が、よっぽど重要だろう。
しつこく本気で「裏金は脱税」と訴えるべき
開始を疑われる時期の派閥会長は森喜朗元首相だ。日本テレビの報道によると、追加聴取の場で安倍派幹部4人の一部は、“大罪”のキックバック復活に「森が関与した」と新たに証言。22年8月の謀議直後、内閣改造・党役員人事で森が5人衆を要職にねじ込むほど影響力を持っていたことを考えれば腑に落ちる。
岸田は国会で「森聴取」をにおわせたが、その実、本人に聞かずじまい。党関係者が水面下で森から話を聞き、開始や復活の経緯を把握していないとの説明を受け、〈高齢の森氏にこれ以上話を聞く必要はないとの判断に傾いた〉と共同通信は報じた。政界引退から10年以上が経った86歳が、今なお党内処分にまで隠然たる力を発揮しているなら、世間の常識との乖離が激しすぎる。
加えて二階俊博元幹事長の処分まで見送り。自派閥の裏金2億6460万円で派閥の会計責任者は在宅起訴、自身の裏金は現職最多3526万円で事務所の秘書が略式起訴されても、85歳が自ら「監督責任を取る」として次の選挙に出ないと表明すれば処分なしの非常識にはもう絶句だ。身勝手な理屈に国民はたまげるほかないのか。
「今の自民党はこの期に及んで特権意識から抜け出せず、国民を甘く見ています。組織ぐるみの裏金づくりは犯罪であり、脱税です。自民派閥の裏金は計9.7億円。国税や検察当局も世論を無視できず、脱税疑惑集団の摘発へと動かすほど、声を上げ続けるしかない。野党も次の選挙は本気で共闘し、『裏金は脱税』だとしつこく言い続ければ、必ず世論は味方しますよ」(立正大法制研究所特別研究員・浦野広明氏=税法)
前出のANN調査に続き、先月30〜31日に実施したJNN(TBS系列)の世論調査でも、次の衆院選で「政権交代をのぞむ」が42%に上り、「自公政権の継続をのぞむ」の32%を上回った。この機運を野党が生かしきれず、元のもくあみに終わることだけが絶対に避けたい「非常識」だ。
http://www.asyura2.com/24/senkyo293/msg/784.html