※2024年2月26日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※2024年2月26日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
国民をなめている(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
自民党派閥の裏金問題をめぐって政治倫理審査会(政倫審)が開催されることになった。2009年以来、約15年ぶりの開催に浮き立っているのか、大メディアは「前半国会最大のヤマ場」などとあおるのだが、こんな緩みきった茶番がヤマ場では、どうしようもない。
政倫審は26日の幹事会で28、29両日の開催を正式に決定。安倍派の松野博一前官房長官、高木毅前国対委員長、西村康稔前経産相、塩谷立元文科相、そして二階派の武田良太元総務相の計5人が出席する予定だが、自民側は審査を非公開で行う方針だ。
まったく盗人猛々しいというか、政倫審の開催をもったいぶって引き延ばした挙げ句、出席はわずか5人で、しかも非公開だと? 野党側が求めていたのは、自民党の裏金議員85人のうち衆院側51人の出席だ。もちろん、フルオープンが前提である。ところが、過去5年間で政治資金収支報告書への不記載額が3526万円と裏金トッププレーヤーの二階俊博元幹事長は出てこない。いわゆる「安倍派5人衆」の中で最高額2728万円を叩き出した萩生田光一前政調会長も出てこない。それでいて、野党に最大限譲歩したような顔をして、非公開を要求する。どれだけ厚かましいのだ。
そもそも、政倫審の構成は与党議員が半数以上を占め、疑惑議員を厳しく詰問する可能性は低い。それ以前に、メンバーには安倍派の裏金議員も名を連ねているのだから噴飯モノだ。過去5年間で2954万円という安倍派の中でもトップクラスの裏金額を誇る三ツ林裕巳衆院議員も委員を務めている。
政倫審開催を日程の取引材料に
最大の問題点は、政倫審は「知らなかった」とスットボケようが、嘘をつこうが、何の罰則もないことだ。政倫審には安倍派の事務総長経験者が出席するが、どこまで口裏合わせをしているのか、これまで通り「会長案件だった」「何も知らない」と言い張るだろう。それでいて、政倫審出席は「国会で説明責任を果たした」という免罪符に使われかねない。
「嘘や言い訳、ゴマカシで逃げる姿を国民に見せたくないから非公開なのでしょう。しかし、せっかく説明の場を設けるのに非公開では筋が通らない。岸田首相自身が『しっかり説明する必要がある』と言ってきたのだから、疑惑議員が公開の場で国民に説明するよう、リーダーシップを発揮すべきなのです。非公開の政倫審では裏金問題の真相解明はできないし、逃げ切りのために小出しにして時間稼ぎをし、国会の日程闘争に利用しているようにしか見えない。与党側はギリギリのタイミングで政倫審の開催に応じ、来年度予算案の3月中の成立を確実にする取引材料にする思惑でしょう」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
憲法の衆院優越規定で、予算案は参院送付から30日で自然成立する。3月2日までに衆院を通過すれば、3月中の成立は確実になる。政倫審開催は、そのためのアリバイづくりということだ。
その証拠に、予算案の衆院通過のための下地は着々と進んでいる。26日、衆院予算委員会は能登半島地震や「政治とカネ」をテーマにした集中審議が行われるが、これで予算案の審議時間は約69時間に積み上がる。採決の目安とされるのが70時間だから、あとは中央公聴会さえ開けば、いつでも採決できる状況だ。今週中の仕上げに向けて、最終段階に入っているわけだ。
ウヤムヤで蓋すれば自分の首を締めることになる
政倫審開催のウラでは、衆院予算委の分科会が27、28日に行われることも決まっている。
各省庁ごとの政策課題などを審議する分科会は普通、中央公聴会の後に開かれるものだ。中央公聴会より先に開催されるのは異例中の異例で、1958年度予算の審議以来だという。
要するに、与野党が予算案の出口で「握って」いるということなのだが、政倫審開催を受けて、2月29日に中央公聴会、3月1日に予算委で締めくくり質疑と採決を行い、夕方の衆院本会議で予算案が成立というスケジュールが永田町では既定路線として語られている。
3月1日は金曜日で、普段は週末に地元に帰る国会議員は「1日夕方は禁足だから帰れないな」「2日にズレ込むかもしれないしね」なんて話しているのだ。2日までの参院送付を前提に政倫審も国会日程も動いているということだ。
政倫審で国民が納得するような説明がされるかも分からないのに、開催するだけで矛を収めて、年度内の予算案成立に協力するのは弱腰すぎるという批判もあるが、野党としても能登半島地震の対応を人質にされている以上、徹底抗戦はしづらい事情がある。
与党には潤沢なカネがある。裏金を使っているかは知らないが、「スキャンダル追及より能登対応」という世論を醸成するのはお手のものだからだ。
国会運営上、数の力で劣る野党が取れる手段は限られていて、予算案の審議拒否などは民主主義を守るうえで少ない手段のひとつなのだが、いつの間にか、予算案成立に抵抗する野党が悪者にされてしまうことが続いてきた。今回は、能登半島地震の対応が含まれているからなおさらだ。
補正予算を組まなかった不誠実
だが今回、仮に予算案の成立が遅れて震災対応にも支障があった場合、それは完全に政府・与党の責任だ。能登震災の対応を最優先に考えるなら、補正予算案を組んで、通常国会冒頭で成立させておくべきなのである。それを予備費で対応するとか言っている岸田政権が不誠実なのだ。最初から予備費を含んだ来年度予算案を人質にして裏金問題を乗り切る算段だったとすれば、あまりに浅ましいし、被災地のことも、国民も愚弄しているというほかない。
「予算が通ったからといって、裏金問題が終わるわけではありません。政倫審の開催を区切りにウヤムヤにされれば、国民は絶対に納得しない。野党は引き続き、参考人招致や証人喚問を徹底して求めていく必要があります。来年度予算が年度内に成立しなければ、それは真相究明にも説明責任にも後ろ向きな与党側の責任なのです」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
予算案が衆院を通過してしまえば、自民党は予算委の参考人招致にも証人喚問にも応じなくなるだろう。政倫審で幕引きし、世論が忘れるのを待っているのだ。こんな政倫審が茶番でなくて何なのか。
「政治とカネの問題に時間を取られ、予算案の審議が不十分なまま衆院を通過してしまうのは問題です。自民党は、のらりくらりと逃げ続けて予算案が通ってしまえば、そのうち国民は忘れると甘く考えているのかもしれませんが、今回ばかりはそう簡単な話ではない。本来なら、自民党の側から政治資金の透明化や特別委員会の設置を申し出るべき話です。政治とカネの問題は特別委でやれば、予算審議に影響を与えることもありません。疑惑についてさらさら説明する気もないのに、政倫審をアリバイ的に開いてお茶を濁すようなことをすれば、岸田政権は自らの首を絞めることになるのではないでしょうか。確定申告の期間は3月15日まで続く。形ばかりの政倫審開催でウヤムヤに蓋をしようとすれば、国民の怒りの火に油を注ぐだけでしょう。裏金、脱税の問題は、多くの国民にとっては予算案の衆院通過とは別の話です」(山田厚俊氏=前出)
政倫審がマトモな審査をできないのなら、次の選挙で有権者が裏金議員を審査する。自民党に鉄槌を下す。この確定申告の時期、全国各地に広がっている「税金一揆」は燎原の火のように広がって、4月の補選はもちろん、次期衆院選で自民党議員の大量落選が現実になりそうだ。
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