※2024年2月17日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※文字起こし
当然の支持率下落(岸田文雄首相)(C)日刊ゲンダイ
「裏金を何に使ったのかがうやむやで、ごまかしているように感じる」
「企業で同じことをしたら当然処罰される。野放しは許されない」
16日から始まった2023年分の所得税の確定申告。税務署を訪れた納税者が、共同通信の取材にこうした批判を口にしたという。この先も、自民党の派閥パーティー裏金事件に対する怨嗟の声が、全国の税務署で鳴り響くことだろう。
そりゃ、そうだ。昨年10月にインボイス制度が導入され、これまで以上に庶民はきっちり消費税分を申告しなければならない。煩雑な手間がかかるうえ、免税事業者から課税事業者に転換した個人事業主や零細企業にとっては負担増だ。
一方、政治家はユルユル。一昨日、自民党が政治資金収支報告書に不記載があった議員らへの聞き取り調査の結果を公表したが、その内容は酷いものだった。
数百万、数千万円単位の裏金を事務所の金庫や鍵のかかった引き出しに保管しておきながら、「派閥事務局から記載不要との説明を受けた」「記載しないよう指示があった」など言い訳のオンパレード。使途も「会合費」「事務費」「小口現金」などと羅列してあるだけで具体的ではない。そのくせ、全て政治資金として使ったと強弁して「課税逃れ」に走る。そのうえ匿名だ。
堂々と表に出てきて説明責任を果たせない国会議員って一体、何なんだ。有権者の代表という「選良」の矜持はないのか。立憲民主党議員が「国民は増税、政治家は脱税」と本会議場で訴えていたが、その通り。これほどふざけた国もない。
いびつすぎる日本の風景
16日の東京株式市場は、バブル経済最盛期の1989年末につけた終値の史上最高値(3万8915円)まであと50円に迫る場面があり、沸きに沸いた。週明けも史上最高値更新に注目が集まるのだろう。もっとも、刹那の株価上昇に浮かれている連中もいるが、フツーの庶民はシラケている。
日銀の最新(昨年12月調査)の「生活意識に関するアンケート調査」によれば、現在の暮らし向きについて「ゆとりがなくなってきた」が56.2%と半数を超えている。21カ月続く実質賃金のマイナスで分かるように、庶民は物価高に翻弄され、節約志向がクッキリだ。今月6日に総務省が発表した23年の家計調査によると消費支出は3年ぶりに前年を下回った。中でも、支出の3割を占める食料は前年比2.2%減。安い鶏肉の購入額が過去最高を記録しているというのだから、実に切ない。かたやバブル期超え間近の株高、こなた食費を切り詰める生活苦。日本の風景は、いびつすぎやしないか。
23年の名目GDP(国内総生産)で、日本の4位転落が内閣府から正式に発表され、国力低下を日本中が思い知らされた。数年後にはインドにも抜かれるとみられている。
ドル建て換算の結果だから、もちろん超円安の影響が大きいが、輸入物価高に庶民生活が蝕まれるほどの「安いニッポン」を招いたのは誰の責任か。いまだ続く、アベノミクスの異次元緩和のせいじゃないのか。
経済評論家の斎藤満氏が言う。
「名目GDPで4位転落という日本経済沈滞が、アベクロ(安倍元首相と黒田前日銀総裁)の金融政策の結果だというのは間違いない。見せかけだけの成果を求め、ごまかしの金融政策で円安に誘導し、それにあぐらをかいた輸出企業は競争力が落ちていった。一方で、日本株は割安だと株や不動産だけがどんどん高騰し、日本経済の実態と乖離した状況になっています。国内消費がこれほど弱いのなら、普通は株価が下がるものです。史上最高値をうかがうとは、歪んだ形の株高としか言いようがありません」
自民党と経団連の癒着が招いた日本沈滞
この国の衰退と庶民の不安、懐の苦しさはすべて政治が原因ではないのか。日本の国力低下は、自民党の裏金蓄財の歴史とともにある。
安倍派(清和政策研究会)で、政治資金パーティー券の販売ノルマ超過分をキックバックして裏金化するスキームについて、「遅くとも十数年前から行われていた可能性が高い。場合によっては20年以上前から行われていたこともうかがわれる」と報告書に記されている。当時の清和会は森喜朗会長。そして小泉純一郎首相の頃にあたる。
「構造改革」の名の下、小泉・竹中政権が今に続く「格差社会」の元凶なのは衆目の一致するところだ。「強い者はより強く、弱い者はより弱く」という新自由主義路線で、日本の雇用はメタメタにされた。正社員はどんどん非正規に置き換えられ、派遣労働が製造現場を含むあらゆる分野に拡大。企業が労働者を資産ではなくコストと考えるようになった。
給料の安い非正規を増やせば、企業は人件費を抑えられ、見せかけの利益は増える。その結果、日本が誇ってきた「分厚い中間層」は破壊されたと言っていい。その背景で経団連は、90年代の政治改革によりいったんやめた企業献金の斡旋を復活させ、自民党との癒着を深めたのである。
その後、自民党は09年に下野したが、3年3カ月で政権復帰すると、安倍政権が大企業優遇を加速させる。法人税減税を毎年のように繰り返し、実効税率を5%近くも引き下げた。「安倍1強」を前に経団連の献金額も増え、いまや年間24億円を自民党側に“献上”している。政治資金集めのパー券も大量購入し、ズブズブの関係だ。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)が言う。
「岸田首相は『コストカット経済からの脱却』と言いますが、まさに自民党が長年優遇してきた大企業が、労働者を顧みず、コストカットを続けてきた末の日本沈滞です。正社員を給料の安い非正規に置き換え、人件費を物件費にして、労働者をモノ扱いしてきた。しかし、大企業は労働者イコール消費者だということを忘れていた。個々の企業にとってコストカットは合理的選択だったものの、それが集団になれば全体として購買力の低下を招く。『合成の誤謬』です。そうした個々の間違いを全体として調整するのが政治や経団連の役割なのに、その責任をまったく果たせていません」
あまりに不公平
株高に浮かれる連中と物価高に苦しむ庶民──。この対比は、長年の自民党政権が招いた格差の象徴だ。30年以上賃金が上がらず、G7はおろか、OECD(経済協力開発機構)各国からも置き去りにされた今になって、岸田が「物価高を乗り越える賃上げ」の旗を振り、経団連会長が「賃上げは企業の責務」などと言っているのは笑止千万だ。
「賃上げと言っても、岸田政権は財界とつるんで税額控除を拡充した。『賃上げ促進税制』で大企業は最大35%の控除を受けられるが、その尻拭いで、社会保障削減など個人が犠牲になるのです。国民は貧しくなるばかりなのに、大企業と政治家は潤う。あまりにも不公平じゃないですか。裏金事件に国民の不満が爆発するのは当然です」(斎藤満氏=前出)
個別面接方式で実施され信頼度が高いとされる時事通信の最新世論調査(9〜12日実施)で、岸田内閣の支持率は16.9%とまたも過去最低を更新した。自民党の裏金疑獄への国民の怒りはハンパない。いつものように「そのうち忘れる」なんて思っていたら、自民党は痛い目に遭うだろう。
今年は500以上の地方選挙がある。保守王国・群馬で、自民系の現職が敗れた前橋市長選と同じことが、他でも起こるのではないか。いや、4月28日に予定される衆院の補欠選挙も、国会会期末の衆院解散などと噂される総選挙も、この先行われるあらゆる選挙で自民党に鉄槌を下すしかない。つまり、自民党政治を終わらせなければ、この国は真に浮上することはできないのだ。
http://www.asyura2.com/24/senkyo293/msg/395.html