※2023年12月28日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年12月28日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
裏金化は20年前から行われていた(池田佳隆衆院議員の会館事務所に家宅捜索=右)/(C)日刊ゲンダイ
政治資金パーティーを利用した安倍派の「裏金づくり」──。最初に立件されるのは、この男なのか。ついに東京地検特捜部が安倍派議員の事務所に踏み込んだ。
地検特捜部は27日、自民党の池田佳隆衆院議員の議員会館事務所と、地元事務所、さらに議員宿舎を家宅捜索した。池田は、過去5年間に政治資金パーティーの売り上げ約4000万円を「裏金」にしていた嫌疑をかけられている。
特捜部は、すでに安倍派の派閥事務所を捜索しているが、議員側の強制捜査は初めてだ。
政治資金パーティーを使った「清和会」(安倍派)の裏金づくりは、20年前から行われていたという。各議員に販売ノルマがあり、ノルマ超過分を裏金としてキックバックしていた。所属議員(99人)の多くが手を染めていたようだ。安倍派の裏金は、直近5年間だけでも5億円におよぶとみられている。
日経新聞によると、議員は初当選した時、派閥側から裏金のつくり方を指南されるそうだ。キックバック分を増やそうと積極的にパー券を売る議員もいたという。家宅捜索を受けた池田は、まだ4回生だが、パー券を売りまくり「営業部長」と呼ばれていたという。キックバックされた収入を収支報告書に記載していなかった。
裏金づくりが、組織的、恒常的に行われていたのは間違いない。
動かぬ証拠が、2022年5月に開かれたパーティーである。派閥の中枢幹部が「キックバック中止」の方針を4月に決めたが、議員サイドから「なぜ、やめるんだ」と不満が噴出し、その後、中止方針を撤回しているのだ。多くの議員が裏金づくりのシステムを認識していたということだろう。地検特捜部も、この時の動きを重点的に捜査しているという。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏が言う。
「政治資金パーティーを利用した裏金づくりは、派閥にも、議員にもメリットがあるシステムだったのでしょう。派閥からしたら、キックバックを認めることで、議員は必死になってパー券を売ってくれる。議員サイドも、個人でパーティーを開くのは手間も暇もかかるが、派閥主催のパーティーなら面倒がなく政治資金を稼げる。安倍派議員にとって、パーティーを利用した裏金づくりは、まさに文化だったということです」
すでに地検特捜部は、松野前官房長官、萩生田前政調会長、世耕前参院幹事長、高木前国対委員長……など、安倍派の幹部を次々に聴取している。年の瀬の強制捜査は、大疑獄の幕開けなのか。
国会議員が知らないはずはない
特捜部は、裏金づくりに手を染めていた安倍派の議員を容赦なく立件すべきだ。少なくとも、裏金づくりの全容を把握していた安倍派の事務総長経験者と、巨額な裏金をつくっていた議員の刑事責任は問うべきだろう。
ところが、一部メディアや刑事司法の専門家からは「議員の立件は困難」といった指摘が上がっている。その指摘に納得がいかない国民も多いのではないか。
確かに、政治資金規正法の規定では「収支報告書」への記載義務があるのは会計責任者となっている。安倍派の裏金は「派閥側」の収支報告書にも、「議員側」の収支報告書にもキックバック分の記載がなかったが、いずれも刑事責任を問われるのは、議員ではなく、会計責任者という立て付けになっている。議員側の共謀の立証には、不記載を指示するなど具体的な関与を示す証拠が必要なのだ。
もちろん、国会議員は国民を代表する立場だけに、刑事責任を問うのは慎重に行われるべきだろう。
しかし、だからといって「秘書がやった」「会計責任者の責任だ」という言い訳で国会議員が無罪放免されるなど、許されないのではないか。
事務方の会計責任者や秘書が、国会議員に相談もせずに巨額の裏金づくりを判断できるはずがない。
国会議員の意図が働いたと考えるのが、どう見たって自然だろう。
パー券販売ノルマ超過分を派閥に入れず、中抜きした議員がいることも分かっている。まさか、中抜きも秘書が勝手にやったというのか。「秘書の判断」などという言い訳は通用しない。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)は、こう言う。
「キックバックの不記載について『記載義務のない政策活動費だと思った』などと説明している議員もいるようですが、往生際が悪すぎます。いつまで『秘書が、秘書が』『自分は知らなかった』と言い訳するつもりなのでしょうか。これまで、『政治とカネ』を巡っては、議員本人の責任を問えるよう、制度変更を求める声が何度も上がったのに、潰してきたのは自民党議員です。連座制の導入や、会計責任者を議員本人にするよう有識者や野党から指摘が上がったが、自民党が反対し、制度の“抜け道”が温存されてきた。今回も“抜け道”を利用して逃げる気なのでしょうか。そんな政治家を野放しにしてはいけません」
どこまで進むか検察捜査
実際のところ、地検の捜査はどう進むのか。
特捜部が立件を視野に入れているのは、受け取ったキックバックの金額が多い議員と、派閥の実務を仕切る事務総長経験者だとみられている。
安倍派の裏金は、「派閥」の収支報告書にも、「議員」の収支報告書にも記載がなかった。捜査も、「派閥側」と「議員側」それぞれで進められている。
高額なキックバックが疑われているのは、大野参院議員(5000万円)、谷川衆院議員(4000万円)、池田衆院議員(4000万円)の3人だ。さらに、派閥幹部でも松野、世耕、高木の3人は1000万円以上のキックバックを受けていた疑いがある。
霞が関関係者がこう言う。
「安倍派の事務局職員は、検察の調べに“完落ち”し、洗いざらい話しているといいます。地検特捜部は検事50人という異例の大規模態勢を敷いている。もし、大山鳴動して事務方の立件だけで終わったら、世論から猛批判されるのは間違いない。1992年の金丸事件の時のように、検察庁の看板にペンキをかけられかねない。なにしろ5億円の裏金ですからね。しかも、派閥ぐるみだった。検察の威信にかけてもバッジを立件しようとするでしょう。恐らく、キックバックの金額の多い議員を複数と、複数の派閥幹部の立件を考えているはずです」
もし、バッジ組が無罪放免となったら、この国はいよいよオシマイだ。反省もなく、またカネ集めに走るのは目に見えている。
岸田首相は、「火の玉になって国民の信頼回復に取り組む」などと口にしているが、捜査が不発に終われば、小手先の政治改革でお茶を濁すのは分かり切っている。
「『政治とカネ』を巡る最も重大な問題は、政界と財界の癒着により、日本の行政が歪められてきたことです。企業がパー券を買っているのも、利益誘導を期待しているからでしょう。自民党もスポンサーの方を向いて政治を行っているのが実情です。その結果、健全な競争が阻害され、日本経済は長期停滞してしまった。いい加減、利権屋政治を終わりにしなければ、この国は危機から脱することができないでしょう」(金子勝氏=前出)
穏やかな年末年始を過ごせる国会議員は果たしてどれだけいるだろうか。司直の手は確実にバッジに迫っている。
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