※2023年12月25日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年12月25日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
二階派強制捜査を受けて慌てて離脱の自見はなこ地方再生相(左)に二階俊博会長は「怒髪天」/(C)日刊ゲンダイ
自民党の最大派閥・安倍派などが政治資金パーティー収入を裏金化していた事件は悪質性はもとより、醜悪さも際立ってきた。
東京地検特捜部が政治資金規正法違反(不記載・虚偽記載)の疑いで安倍派と二階派の事務所を強制捜査したことを受け、慌てて派閥離脱を表明した自見万博担当相に二階会長は「恩知らず」とカンカンらしいが、これぞ、お笑い自民党派閥政治の正体を浮き彫りにしている。
特捜部がガサ入れしたのは、臨時国会閉会から6日後の19日。派閥の実務を取り仕切る事務総長経験者の松野官房長官や西村経産相、鈴木総務相、宮下農相ら安倍派の政務三役10人が更迭された5日後だった。
この流れで、検事総長に指揮権を持つ法相が渦中の派閥メンバーであることへの批判が噴出し、小泉法相が20日に二階派を退会。二階と2日間にわたって面会して了承を得たという。中野法務政務官も「大臣と行動を共にさせていただく」と二階派を抜けた。派閥離脱の波に乗り、「ワタクシも」と続こうとしたのが自見だった。
22日に退会届を提出し、記者を集めて「先ほど、二階会長にもしっかりお話もできておりますので、(受理の)プロセスは先方がどのような事務的手続きを取るかまでは存じておりませんが、受け取っていただいたものと認識しております」と発表。
その後の大臣会見でも、「幹部の先生方にしかるべくご相談をし、私なりの退会したいという旨を丁寧にお伝え致しました。私の判断を本当にありがたいことに、尊重していただけたというふうに思ってございます」などと、品良くカタをつけようとしたが、そうは問屋が卸さなかった。
事務総長を務める武田元総務相がすぐさま、「自見大臣の派閥退会届は受理しておりません。派閥幹部への相談もありません」とコメントを発表。メンツを潰された格好の領袖は怒髪天をついたらしい。
大臣になりたいワン
朝日新聞(23日付朝刊)によると、自見の派閥離脱の意向が報じられると、二階は「大臣になりたい時は『ワンワン』と言っておいて。礼儀を知らない」と周囲に言い放ったという。わずか4文字で自見の行状を言い表すとは、さすが老練家だ。
自見は日本医師連盟の組織内候補として2016年の参院選(全国比例)で初当選。日本医師会の中川俊男前会長の仲介で20年に二階派入りした。当選2回で初入閣したのは「女性枠」でゲタを履かせてもらったのに加え、「与党の大阪・関西万博推進本部長、超党派議連会長を務める二階さんの顔を立てるため」(二階派関係者)とも言われるが、岸田首相の後ろ盾の麻生副総裁の推しもあったという。
「自見さんが育ったのは福岡県北九州市で、13年に政界引退した父親の自見庄三郎元郵政相の地盤。その関係で福岡で幅を利かせる麻生副総裁とは縁があり、目をかけられている。麻生派入りを視野に入れているのでしょう」(与党関係者)
要は、二階派からの足抜けする頃合いを見計らっていたのだ。
もっとも、自見自身も「政治とカネ」の疑惑を抱えている。舞台は資金管理団体「ひまわり会」だ。二階派の政治資金パーティーの「会費」として政治資金規正法の上限150万円を超える金額を支出したなどの疑いが浮上。裏金疑獄の端緒をつくった神戸学院大教授の上脇博之氏が、規正法違反の疑いで会計責任者らに対する告発状を東京地検に送付している。
「ひまわり会」は賃料収入や寄付の不記載で政治資金収支報告書を訂正しているほか、父親が代表を務める政治団体「庄政会」に対し、16年に500万円、21年に400万円、22年に450万円を寄付。政治団体同士の寄付名目での資金移動は非課税になる抜け穴をつき、“仕送り”を続けている疑いもある。ついでに言えば、コロナ禍に厚労政務官として対応にあたったダイヤモンド・プリンセス号をめぐる醜聞も消えない。
機能不全に陥り「刺し合い」始まる
笑うに笑えない“不倫”セスとドンの内ゲバ。犬も食わない泥仕合で派閥の人事とカネの汚さを一層露呈させている。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「旧田中派の『一致団結、箱弁当』の系譜を継ぐ二階会長からすれば、郵政民営化に反対して自民党を飛び出した父親の復党がかなわなかった経緯も知るだけに、さまざま温情をかけてきたのでしょう。『数は力』の論理から言えば、どんな理由にせよ、一挙に何人も出て行くのは受け入れがたい。一方、二階派の力で守ってもらった自覚が自見大臣に少なからずあれば、こうはこじれなかった。
とはいえ、平たく言えばどっちもどっち。政権中枢から追い出された安倍派幹部が『もう岸田政権が潰れようが、倒れようがどうでもいい』と言っているようですが、安倍派にも二階派にも言えることは、派閥が瓦解しつつある一番の要因は岸田政権ではない。派閥内のカネの運用に問題があったからです。とりわけ機能不全に陥った安倍派では遠からず、刺し合いが始まるでしょう。自民党がかつて下野に追い込まれた時とは異なる崩壊の序章が始まっている印象です」
裏金事件に対し、一貫して他人事のように振る舞う岸田は「派閥均衡」で重用してきた安倍派をパージすると、第2派閥会長の麻生にますますベッタリ。人事構想をまず相談し、ほぼ意向通りに動き、19閣僚のうち麻生派は1人増えて単独トップに。萩生田前政調会長の後任に就いた無派閥の渡海元文科相は、麻生派の甘利前幹事長の推薦だという。岸田が「派閥どうこうではない」と言っていたのが余計にうすら寒い。
死票生む選挙改革を
リクルート事件を受けて1989年に党議決定した「政治改革大綱」の精神に立ち返るべきとの声も上がるが、馬耳東風。「派閥解消の第一歩」として、党幹部や閣僚の在任中は派閥を離脱することなどを盛り込んでいるのだが、この期に及んでも派閥単位でしかモノが考えられない岸田にしてみれば、目を背けたくなる代物だろう。
政治評論家の本澤二郎氏はこう言った。
「派閥の悪しき本質を覆い隠すために岸田首相や自民党は『政策集団』なんてカッコつけていますが、どう偽っても実態は利権漁りの集団です。親分が権力を握るほど、子分にはカネとポストが振る舞われる。自民党というのは、利権のにおいに敏感でなければ出世できない情けない世界なのです。
ポストを手にしてカネを儲け、箔を付けたら、さらに上の箔付けを狙う。与党にマトモな政治家がいなくなったのは、大政党あるいは組織政党に極めて有利な小選挙区制が導入された影響が大きい。トンデモない人物でも党本部の公認を得ればバッジをつけられ、かたや大量の死票を生み出してしまう。
ザル法と揶揄される政治資金規正法を改正し、厳罰化するのは当たり前。選挙制度改革まで進まなければ、国民は腐敗した自民党政治の食い物にされ続ける。かつての中選挙区制は派閥の力が強くなる弊害はあったものの、候補者は政党ではなく人物で評価され、無所属でも勝ち抜ける環境だったのです」
キックバックのカネとポストで浅ましい無能政治家を操り、国政を腐らせた派閥政治。そんな派閥の支えがなければ、立ち行かない岸田政権の口だけ改革の欺瞞にはもう誰もだまされない。
関連記事
裏金問題で自見大臣が派閥退会届、二階俊博会長が激怒!《派閥という名のヤクザ組織》とSNS震撼(日刊ゲンダイ)
http://www.asyura2.com/23/senkyo292/msg/725.html
http://www.asyura2.com/23/senkyo292/msg/734.html