※2023年12月9日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大
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フザけた答弁(松野博一官房長官)/(C)日刊ゲンダイ
「通常、街頭インタビューをすると、どんなに批判が多くても、擁護する人が2割くらいはいるもの。放送では我々も意見のバランスを取る。ところが、今回の疑惑については、驚くほど批判一色で擁護がない。物価高やインボイス導入など、庶民にばかり大変な思いをさせて、政治家は裏金か、という憤りがあるのだろう」
民放テレビの情報番組のプロデューサーがこぼしていた。8日、衆参で行われた予算委員会での岸田内閣の態度は、そんな世論の怒りの火にさらなる油を注いだのは間違いない。
自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金疑惑。“本丸”は最大派閥・安倍派だ。所属議員へのキックバックなどで5年間で1億円超を裏金化していたと報じられ、東京地検が関係者の事情聴取を進めている。
13日に臨時国会が閉会したら、バッジ組の任意聴取も始まると言われるほどの「大疑獄」に発展しつつあり、国民の疑念も深まっているのだが、予算委の場で野党議員らがどんなにしつこく問いただしても、岸田内閣は一言も説明しないし、できなかった。首相は「捜査に影響を与える恐れがある。発言は控えなければならない」と繰り返すばかりだったのだ。
安倍派の事務総長経験者で、「政府の立場ではお答えは差し控える」というフザけた発言を記者会見で連発してきた松野官房長官は、「派閥において事実確認がなされている最中であり、精査して適切に対応してまいりたい」と曖昧な答弁を繰り返すも、伏し目がちで力のない表情。心なしか血色も悪く見えた。
岸田も松野も論理破綻
おそらく、8日の朝日新聞朝刊のスクープに震え上がったのだろう。松野は「直近5年間で派閥から1000万円を超える裏金のキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがある」という。派閥の資金の流れを知る事務総長という立場だけでなく、10人以上いるとみられるノルマ以上のパー券売り上げが還流された議員のひとりだというのである。内閣の要の官房長官が自らの懐に裏金を入れていたとすれば、岸田政権は持たない。
予算委では、安倍派所属の閣僚が順番に「キックバックを受け取ったことがあったかどうか」を問われ、鈴木淳司総務相は自身の還流について「ない」と答弁した。要は、政府の立場だろうが、何だろうが、キックバックがないなら「ない」と答えればいいだけのことだ。ところが、松野はくだんのように「精査して適切に対応してまいりたい」と逃げ、松野同様、過去に事務総長を務めた西村経産相も「改めて精査している」と具体的な説明を避けた。
こうなると、ますます怪しい。立憲民主党や共産党から、松野と西村の更迭や証人喚問を求める声が上がったのは当然だ。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏が言う。
「予算委での答弁は酷かった。岸田首相も松野官房長官も論理破綻している。民主党政権下で野党自民党の国対委員長だった岸田首相は『司法への影響を気にするあまり、立法府が説明責任を放棄したら、三権分立に影響を与える。立法府は国民の疑念に応え、政治の信頼回復に努力していかねばならない』と言っていたそうです。そのことを予算委で問われると、『これはその通り。ただ今回は捜査に影響を与えるから発言を控える』と答えた。松野官房長官も『政府の立場』を強調するが、今回のことは政府の問題です。政治資金収支報告書は総務省の所管ですしね。2人とも訳がわからない答弁をしています。政府として、総理総裁として今すべきことは、ザル法の政治資金規正法を見直したり、派閥パーティーのスキームを是正したり、第三者機関をつくって調査をすることでしょう。岸田政権は何もしていません」
30年前のリクルート事件から、自民党は何も変わっていない
巨額のキックバックを受けた疑いのある安倍派幹部は、やはり松野だけではないようだ。予算委終了後の昨夜、NHKなどが、「高木国対委員長や世耕参院幹事長側も5年間で1000万円超のキックバックを受け、収支報告書に記載されていない疑いがある」と伝えたのだ。さらには、複数のメディアが「西村経産相と萩生田政調会長側も収支報告書に記載のないキックバックを受けていたとみられる」と報じた。集団指導体制の安倍派「5人衆」総崩れである。
国会会期末に向け、検察の捜査とリークが加速度的に進んでいるようだ。特捜部は収支報告書の不記載・虚偽記載での立件を視野に入れているとされるが、それだけで済むはずがない。
組織的かつ常習的なスキームでつくり上げた裏金は一体、何に使われていたのか? きのうの産経新聞は、キックバック分を議員側が関連団体の支払いに流用したり、秘書の給与や奨励金に使われていたと報じていた。
収支報告書に不記載の裏金は、脱税にはならないのか? 派閥の政治団体から受け取ったキックバックが政治資金として処理されず“贈与”ならば、一般的には「雑所得」になる。1000万円もの雑所得を申告していなければ、脱税に問われてしかるべきだ。そして、問題は派閥のパーティーだけなのか? 年間5万円超で報告書に記載しなければならない通常の寄付と異なり、政治資金パーティーは1回につき20万円以下の支出なら個人・団体名を記載しなくてもいい。そうした緩い規制が裏金づくりの温床になっているのだ。実際、麻生派に所属していた薗浦健太郎前衆院議員は、5000万円近いパーティー収入の過少記載を裏金づくりと認定され、略式起訴されたではないか。
13日を機に阿鼻叫喚
なぜそうまでして裏金をつくる必要があるのか。自民党が長年慣習としてきたスキームには、メスを入れるべきことが山ほどあるのである。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)がこう言う。
「『政治にはカネがかかる』と言いますが、一晩何十万円もの店で飲食して政治資金から支出したりしているからです。あれは政治活動費じゃない。遊興費でしょう。派閥にしろ個人にしろ、パーティーで資金集めをするという政治資金規正法の“抜け穴”を利用して裏金をつくり、飲食に使ったり、税金をごまかしてきた。今回の裏金疑惑を『令和のリクルート事件』と呼ぶ人が出てきていますが、あれから30年。自民党は何も変わっていないどころか、ここまで腐ってしまったのかと愕然とします」
国民には1円の税金逃れも許さないとばかりにインボイス制度で網をかける一方で、巨額の裏金キックバックが報道されても、何も答えない答えられない内閣がこの先も続くものなのか。
13日の国会閉会を機に自民党内は阿鼻叫喚の地獄絵図と化す。パー券収入の不記載は、安倍派だけでなく二階派などでもあると疑われており、検察は数十人の自民党議員からの任意の事情聴取を検討しているという。既に、「松野官房長官や西村経産相ら閣僚は、検察から聴取された段階で辞任が避けられない。岸田首相は内閣改造に踏み切るだろう」という見方が自民党内で一気に広がっている。
キックバックの額によっては逮捕者が続出する可能性もある。岸田は派閥パーティーの自粛を党内に指示し、自身は宏池会を離脱したが、そんな程度で終わらない。腐敗しきった派閥政治は崩壊、自民党には解党の劇的運命が待ち構えている。
「自民党にとって大政局になる可能性がある。このまま岸田政権でいいのか、ということです。内閣支持率だけでなく、自民党の支持率もさらに下がるでしょう。年明け、通常国会が開けるのか。野党は審議拒否や証人喚問を要求し、国会審議が止まるでしょう」(鈴木哲夫氏=前出)
岸田政権はもう持たない。内閣改造だけでなく、年内総辞職もいよいよ現実味が増してきた。
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