※2023年11月30日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※2023年11月30日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
数の力で逃げ切りはない(岸田首相)(C)日刊ゲンダイ
2023年度補正予算案が29日夜の参院本会議で、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立。立憲民主党や共産党は反対した。
政府の総合経済対策の財源の裏付けとなる補正予算案。一般会計の歳出総額は13兆1992億円に上り、7割近い8兆8750億円を新規国債の追加発行で賄う。
物価高対策としては、住民税非課税世帯への7万円給付、24年4月末まで期限延長を決めた電気やガス、ガソリン代の負担軽減策などを盛り込んだ。
今国会の会期末は12月13日。立民などは所得税減税の是非などについて追及を続ける方針で、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の被害者救済法案の行方も焦点となる。
岸田政権は例によって「数の力」で補正予算さえ通せば、あとは野となれ山となれ。岸田首相自身も、野党に何を追及されようが「真摯に受け止める」「謙虚に耳を傾ける」「丁寧に説明する」という言葉を呪文のように繰り返し、のらりくらりはぐらかしていれば逃げ切れる、国民の忘却を待てばいいと高をくくっているのだろうが、今回ばかりはそうは問屋が卸さない。政権が今すぐ吹き飛んでも不思議ではない火種をいくつも抱えているからだ。
パーティー券収入の見返りは企業活動の利益
何といっても最大の“爆弾”は、自民党5派閥の18〜21年の収支報告書で、計約4000万円もの不記載が見つかった「政治資金パーティーの収入過少記載問題」だろう。「週刊文春」(12月7日号)は<安倍派23億円裏金作りを暴く!>と題した記事を掲載。内容の詳述は省くが、大ざっぱに言うと、東京地検特捜部が、100人近い所属議員を抱える自民党最大派閥・安倍派(清和政策研究会)で行われてきた政治資金パーティーを使った“裏金作り”とも言える疑惑の解明について強い関心を示している──というものだ。
この問題を巡り、共産党の田村智子議員が28日の参院予算委員会で岸田に迫った質問は秀逸だった。
田村は、岸田の政治団体「新政治経済研究会」が開催した22年の政治資金パーティーを取り上げ、同研究会がこの年、1回の収入が1000万円を超えるパーティーを6回開催し、収入から支出を差し引いた利益率が約9割に上ることを指摘した。
すると岸田は「パーティーは参加の対価であり、寄付とは性質が違う」などと反論していたが、田村から「利益率9割のパーティーにどのような対価性があるのか」と問われるとタジタジに。さらに田村は政治家個人への献金が禁止された1994年の改正政治資金規正法当時、企業団体献金の4分の1だったパーティー券収入が、2019年にはパーティー券収入の方が企業団体献金の2倍に逆転したことを挙げ、「収入の内訳をより隠しやすいのが、パーティー券収入」「事実上の企業団体献金であり、その見返りは企業活動の利益」と切り込んだのだ。
まさに指摘通りで、岸田自民が目を向けているのはカネをくれる大企業であって、苦しい生活を強いられている庶民じゃない。どうりで、経団連の十倉雅和会長が支持率2割台の岸田内閣について「なぜ、これで支持率が上向かないのか不思議だ」などとトンチンカンなことを言うはずだ。
元参院議員の平野貞夫氏はこう言う。
「(94年に)政治資金規正法が改正された理由は、企業団体献金の禁止であり、(抜け穴と言われる)政治資金パーティーというのは、いわば暫定措置だった。今、明らかになっている『裏金問題』は、そもそもの趣旨が全く守られていないということ。第2次安倍政権以降、それが酷い状況になって常態化したと言ってもよく、いよいよ検察も本腰を入れて捜査する気になったのだろう。今後、何が出てくるのか注視したい」
まっとうな野党を応援して自民を下野させる
繰り返すが、岸田自民にとって、最も重要なことは「カネをどれだけくれるのか」「パーティー券をどれだけたくさん購入してくれるのか」だ。
近代民主主義の原則は「多数決」「少数意見の尊重」だが、そんなことは知ったこっちゃない。カネで政策を歪めることもへっちゃら。政治に不可欠な公平、公正、正義も知らんふり。
カネを握ることが権力の全てであり、カネをたくさん払った相手が求めていることが“政策”であり、それを実現することが“政治”だと勘違いしているのだ。
4月の東京・江東区長選をめぐる買収容疑事件で、自民党衆院議員の柿沢前副法相が関与していた疑惑が取りざたされているが、政治資金パーティーを隠れみのにした「巨額裏金作り」の方がよっぽど悪質極まりない。
《#大事な事なので5回言います 自民党は裏金作りのパーティー大好き政党》──。X(旧ツイッター)で、こんな言葉がトレンド入りしたのも当然で、この問題に対する国民の怒りはすさまじい。岸田は国会質疑で、「それぞれ独立した政治団体」「それぞれ説明せよと幹事長に指示」などと言って当事者意識のかけらも感じられなかったが、特捜部が動き始めた今、これまでのように収支報告書を適当に訂正してハイ、オシマイで済む話ではないのは言うまでもない。
財源がないと言いながら万博には税金を使う
それにしても、こんな自民にすり寄る一部の野党も情けない。
第2自民党を公言してはばからない維新はともかく、おめでたいのが国民民主(玉木代表)だ。
「大臣ポスト」など、どんな鼻薬をかがされたのか知らないが、ガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除を巡る協議と引き換えに補正予算案に賛成──なんてワケが分からないだろう。
実現の見込みだって不透明だ。29日午前の参院予算委でも、立民の杉尾議員から「トリガー条項」発動の可能性を問われた岸田は「(自公国の)3党での検討の行方を踏まえつつ、政府としても適切に対応したい」などとはぐらかしていた。
政府答弁でよくみられる「適切に対応」とは「やりません」ということ。財務官僚出身の玉木なら、よく分かっているのではないか。ましてや手を握った相手は「ミスター検討使」などと揶揄されている岸田なのだ。
今の自民にすり寄る必要は1%もない。パーティー券をワンサカ買ってくれる財界と財務省の言うことだけに耳を傾け、不適材・不適所の破廉恥議員を重用し、スキャンダルが起きても責任は取らず、軍拡大増税をごまかすために雀の涙の減税をチラつかせる。
「トリガー条項の凍結解除」や「少子化対策」には財源がないと言いながら、昭和の高度経済成長の夢をもう一度とばかりに大阪・関西万博にはアレヨアレヨと湯水のように税金をつぎ込む。
11月28日付の東京新聞朝刊1面は、<万博費用さらに837億円>と題したトップ記事の隣で<家賃・食費・学費払えない… 物価高 融資相談高止まり>という対照的な記事を掲載していたが、これを読んで怒らない国民は果たしているのか。
ジャーナリストの横田一氏がこう言う。
「万博関連の予算が盛り込まれたことを評して補正予算案に賛成した維新や国民民主はもはや野党ではありません。これだけ国民生活が厳しくなっている中で、歳出改革を訴えることもしないなんて、自民と同様、一体どこを向いて政治をしているのでしょうか。自民は権力の座にあぐらをかき、カネも権力も好き放題。国民がまっとうな野党を応援すれば、自民を必ず下野させることができると思います」