※2023年11月14日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※2023年11月14日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
新任の赤沢亮正財務副大臣(左)と認証式を終えて(岸田首相)/(C)共同通信社
坂を転がり落ち始めたら止まらない。辞任ドミノはこれで打ち止めになるのかどうか。岸田政権の政務三役が13日、また更迭された。税理士資格を持ちながら2013年から22年にかけて固定資産税を滞納し、4回にわたって差し押さえを食らった問題で火ダルマになっていた神田憲次財務副大臣だ。国民に納税を求める立場にありながら、納税逃れの確信犯だったことが明るみに出たのに、岸田首相の判断はまたも遅きに失した。政権はいよいよガタガタだ。
神田更迭を受けて昨晩、官邸で取材に応じた岸田は「人事は適材適所で行われなければならない。政治は結果責任であり、国民におわびを申し上げなければならない」「任命責任は重く受け止めている。政府一丸となって緊張感をもって職責を果たし、国民の信頼回復につなげていくことに尽きる」などと陳謝した。
形だけの謝罪はもう聞き飽きた。岸田が政権浮揚を狙った9月の内閣改造以降、2カ月の間に3人が不祥事で辞任した。ラブホ買春疑惑で山田太郎参院議員が文科政務官を辞めた時は、「任命責任を重く受け止めている。私自身先頭に立ち、緊張感をもって先送りできない課題に全力で取り組み、国民の信頼回復に努める」。公選法違反が浮上し、法務副大臣だった柿沢未途衆院議員が国会からトンズラした時は「任命権者としての責任を重く受け止めている。国民の信頼を回復できるよう内閣として与えられた課題に全力で取り組んでいく」。岸田が抱えている最大の課題は、政権にしがみついていることだ。国民の信頼回復はかなわない。来年の自民党総裁選で無風再選し、一日でも長く政権を維持する。そうした下心丸出しの派閥順送り人事で自分の首を絞めているのだから、世話がない。
菅政権末期と横並び
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「モラルや道徳を問われる文科政務官は不倫パパ活疑惑、法令を誰よりも順守しなければならない法務副大臣は選挙買収を疑われ、税の専門家でもある財務副大臣は納税逃れの常習犯。職務に関わるところで問題を抱えている人物をこれほど多く任命したのも、辞任ドミノを招いたのも前代未聞でしょう。よりによって、なぜそのポストに就けたのか。平然と引き受けた側もどうかしていますし、国会議員の資質があるのかも疑わしい。せめて不祥事発覚直後にスパッと切ればいいものを、世論の出方を見るまで判断ができないあたりが岸田首相の程度をよく表している。今の岸田政権は、橋本政権末期と麻生政権末期をドッキングしたような状態です。橋本元首相は恒久減税で右往左往し、参院選で惨敗して退陣した。麻生元首相は解散時期を逃し、みるみる求心力を失って政権交代を招いた。岸田首相も『増税メガネ』を打ち消そうと掲げた所得税などの減税でさらに疎まれ、年内解散を封じ込められた。この先、浮上の目があるとは思えません」
内閣支持率はつるべ落とし。大手メディアの世論調査では軒並み下落し、政権運営の危険水域である2割台沈没が大半だ。NHKの調査(10〜12日実施)でも、支持率は先月より7ポイント減の29%に下落。政権発足後初めて30%を割り込み、不支持率は8ポイント増の52%だった。いずれも死に体化していた菅前政権の末期と横並びだ。菅前首相はそれから1カ月足らずで退陣を表明。同じ光景を再び見ることになるのか。武田元総務相は先週収録のCS番組で「ビジョンと旗をきちっとあげないと、支持率は上がらない予感はしますね」と岸田に注文をつけ、「政権が弱く、支持率が下がった時は新たな候補者にアドバンテージが出やすいことがある」とチクリとやっていた。武田は岸田から自民党ナンバー2の座を追われた二階元幹事長の側近で、菅とも近い。
レームダックが強がれる人材払底
焦って人気取りに走るほど国民に嫌われる悪循環に陥り、党内から半ば嘲笑される岸田は、どう見てもレームダックだ。にもかかわらず、なぜ辞めないのかといえば、「ポスト岸田」にろくでもない連中しかいないからだそうだ。岸田自身、「他に誰かいるのか」とうそぶいているというからゾッとする。
実際、飛び交っている名前を見ると、どれもこれも決め手に欠ける。石破茂元幹事長は相変わらず世論人気は高いし、本人も総裁選について「準備しておくのは、国会議員たるもの当たり前」と言っているが、党内基盤が弱い。反主流派の二階-菅との接近が注目されているが、岸田おろしの起爆剤になるかは不透明だ。
「ポスト岸田に意欲満々の河野太郎デジタル相は人望がなく、所属する麻生派をまとめることすら難しいし、なにより麻生さんが首をタテに振らないでしょう。マイナンバー問題をめぐる対応で世論の反感を買ったダメージもネック。河野大臣と連携する小泉進次郎元環境相は若く、弁も立つし、行動力もある。待望論はあるものの、大臣時代のポエム発言で期待値を下げた」(自民関係者)
岸田が常に顔色をうかがう最大派閥の安倍派では、OBの森喜朗元首相が推す「5人衆」が牽制し合っている。
筆頭格の萩生田光一政調会長は、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)とズブズブ。横死した安倍元首相の例を引くまでもなく、反日カルト集団と握る男なんて絶対にダメだ。ライバルの西村康稔経産相は総裁選出馬経験アリで、変わらず野心をみなぎらせているが、秘書が次々に辞めるパワハラ体質は安倍が懸念するほどで、これまた人望なし。
「茂木敏充幹事長は方々で〈令和の明智光秀にはならない〉と口にし、岸田総理が再選を目指す限りは支えると触れ回っていますが、総裁選の顔ぶれ次第。有力候補が立てば、慌てて手を挙げるんじゃないか」(自民中堅議員)
目新しさで一点突破
岸田嫌いに比例して自民党の政党支持率も低迷する中、急浮上しているのが「女性初宰相」というカード。本命視されているのが、岸田派ナンバー2の林芳正前外相からポストを引き継いだ上川陽子外相だ。
政治評論家の野上忠興氏はこう言った。
「女性首相が誕生すれば世論は盛り上がるでしょうし、自民党への逆風が追い風に変わる可能性大。その間に解散・総選挙を打てば勝てるとの計算です。上川外相を推す声が広がっているのは、前回の総裁選に初出馬した野田聖子元少子化担当相や高市早苗経済安保担当相、表舞台に復帰した小渕優子選対委員長らよりも目新しさがあるから。一方で大臣経験豊富で実務能力が高く、法相時代にオウム真理教の死刑囚の執行を決めた度胸を買われてのこと。もっとも、岸田首相が簡単に引き下がるとは思えません。首相秘書官に抜擢した長男が醜聞続きで炎上する中、かばい通そうとしたあたりから保身が露骨になった印象です」
上川は岸田よりマトモかもしれないが、4歳年上。今年古希を迎えた。第1次安倍政権、福田政権、第2次安倍政権、菅政権、そして岸田政権と入閣し通しなのは、オッサン社会での立ち回りのうまさと表裏一体。ついでに言えば、米国のポチでもある。米ハーバード大ケネディスクールで政治行政学修士号を取得し、米上院議員の政策スタッフを務めた米国通の国際派との評価もあるが、深刻化するパレスチナ情勢をめぐる動きは米国隷従そのものだ。
「女性を前面に押し出せば危機を乗り越えられるなんていう発想は、女性蔑視の最たるもの。女性起用を人気取りの道具としか考えない自民らしい失礼千万ですよ」(五十嵐仁氏=前出)
「ポスト岸田」で飛び交う面々のアホらしさ。そうして迷走首相が粘り腰で居座るのは、国民にとって絶望しか生まない。
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