※2023年10月25日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年10月25日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
なぜか薄笑い(所信演説の岸田首相=23日、国会)/(C)日刊ゲンダイ
これほど心に響かない演説ができるのは一種の才能なのかもしれない。23日、岸田首相が国会で行った所信表明演説は、あまりに空疎だった。
「日本国内閣総理大臣として私の頭に今あるもの、それは、『変化の流れを絶対に逃さない、つかみ取る』の一点です」と始まり、「変化をチャンスに」「変化を力に」と繰り返す。「変化の流れをつかみ取るための一丁目一番地は経済です」と言うのはいいが、何をどうするつもりなのか、具体策がさっぱり見えてこなかった。
「30年ぶりに新たな経済ステージに移行できる大きなチャンス」「過去に例のないような大胆な取り組みに踏み込む」などと抽象的なフレーズを並べ、しかも何がおかしいのか、薄ら笑いでニヤケながらの演説だった。真面目に仕事する気があるのかどうか。
もっとも、岸田の演説が空疎なのは今に始まったことではない。「異次元」だとか「過去に例がない」とか大仰な修飾語を多用するだけで具体性がないのは、いつものことだ。中身がないから、上っ面のレトリックでゴマカそうとする。意味不明な言葉の羅列に終始する。
「首相としてやりたいことが本当にない人なのでしょう。所信表明で経済を連呼していましたが、具体性は何もない。本人が経済を理解していないから、何をしていいのか分からないのではないか。どういう国にしたいというビジョンもない。首相を長く続けたいだけの人だから、演説もただ原稿を読んでいるだけで心がこもらないのです。物価高に苦しむ国民の実態を理解しているとは思えない演説内容でした」(経済評論家・斎藤満氏)
所信表明で岸田は「経済、経済、経済。何より経済に重点を置いてまいります」と連呼。すかさず「増税、増税、増税」とヤジが飛んでいた。
中身のなさにマーケットも困惑
物価高に対応する総合経済対策の「車の両輪」として、岸田が掲げたのが「変革を力強く進める『供給力の強化』」と「不安定な足元を固め、物価高を乗り越える『国民への還元』」だった。やはり意味不明だ。
「還元措置の具体化に向けて、近く政府与党政策懇談会を開催し、与党の税制調査会に早急な検討を指示する」というのだが、具体的な「減税」への言及もなかった。これほど国民に対するメッセージ性がない所信表明も珍しい。
常に買い材料を探しているマーケットも困惑したのか、午後1時から岸田の所信表明が始まると、株価はジリジリと下落。23日の東京株式市場の日経平均株価は、終値が前日比259円81銭安の3万999円55銭だった。微妙に3万1000円を割り込んだところが、煮え切らない岸田の政治姿勢を象徴するようだ。
「防衛費などを大幅に増やすための増税を決めながら、一方では減税を言い出すという場当たりでは、マーケットも国民も困惑するのは当たり前です。所得税の定額減税で数万円を“還元”したところで、物価高による家計負担増には焼け石に水だし、税収の上振れ分だけを国民に還元するのではなく、本来なら税の分配そのものを考え直すべきなのです。企業向けの減税にばかり熱心な岸田首相は、財政についても哲学が感じられない。『変化の流れをつかむ』と言う割に、日本経済や国民生活の変化がまったく分かっていないことも致命的です。物価高対策というのなら、元凶の円安をなんとかしなければいけないのに、期間限定のセコい所得税減税でゴマカそうとする。あまりに国民をバカにしています」(斎藤満氏=前出)
円安でGDPはドイツに抜かれて世界4位に転落
国際通貨基金(IMF)が公表した経済見通しによると、2023年の日本の名目国内総生産(GDP)はドルベースで世界3位から4位に転落し、ドイツに逆転される。150円前後と大幅に進行した円安の影響で、ドル換算で目減りしてしまうからだ。ドイツのユーロは、ドルに対してさほど弱くなっていない。
自国通貨が弱くなると、資源エネルギーや食料の輸入コストが上がる。海外旅行も高根の花。日本人は貧しくなり、国力の衰えが著しい。超円安で潤うのは輸出企業とインバウンド需要くらいなのだ。
岸田政権は3月に策定した観光立国推進基本計画で「年5兆円の訪日客消費額を目指す」とした。だが、「サービス輸出」に計上される訪日外国人の消費は、5兆円を達成したところでGDPの1%にも満たない。日本のGDPの6割を占めるのは国民の個人消費だ。物価高の影響で実質賃金が下落し、国内の個人消費が低迷していることが問題なのに、円安を放置したままで「変化の流れをつかむ」と力まれてもむなしいだけだ。
「岸田首相に対する国民の不信感は相当なものがあります。特に経済政策は不評で、小手先の減税アピールで挽回できる局面ではない。22日投開票の衆参2補選は、自民党が辛うじて1勝したとはいえ厳しい内容でしたし、同日の所沢市長選や宮城県議選でも自民党は苦杯をなめた。岸田首相に対する国民の不満が、自民党への逆風になっている状況です。与党内でも危機感が高まっていて、岸田首相はもはやレームダックと言っていい。それでも来年の自民党総裁選までは岸田政権が続くのかと思うと、国民の閉塞感は高まる一方です」(政治ジャーナリスト・山田厚俊氏)
所信表明は安っぽいポエムのノリ
岸田は21年の自民党総裁選に「所得倍増」を掲げて勝利し、念願の首相の座を手にした。ところが、国民が多少は期待した「所得倍増」が、いつの間にか「防衛費倍増」になり、現状は実質賃金が17カ月連続でマイナスだ。所得は倍増どころか減っているわけで、それでも経済無策でヘラヘラしている岸田の詐欺的口上に国民の怒りは爆発寸前なのだ。
岸田は所信表明をこう締めくくっていた。
「持続的な賃上げに加えて、人々のやる気、希望、社会の豊かさといったいわゆる『ウェルビーイング』を広げれば、この令和の時代において再び日本国民が『明日は今日より良くなる』と信じることができるようになる」
「日本国民が『明日は今日より良くなる』と信じられる時代を実現します」──。
この無神経さが反感を買うと分からないのだろうか。多くの国民は、明日はどうなってしまうのか、現状を維持できるだろうかと不安を抱えながら生きている。明日のことなど考える余裕もなく、今日を生きるので精いっぱいな人もいる。世襲3代目のボンボンで苦労知らずの岸田には、そういう庶民の生活不安が分からないだろうし、理解して共感するつもりもないのだろう。
長く首相を続けて権力のうまみを存分に享受し、その後は息子に家督を譲ればいい。そんな“個利個略”があからさまで、国民生活のことなど何も関心がないことが伝わってくるから、岸田の存在自体が「人々のやる気、希望」を失わせている。
それにしても、「明日は今日より良くなる」は最近、岸田のお気に入りフレーズのようで多用しているが、一国の首相が国民に呼びかけるにしては、あまりに浅薄すぎやしないか。「明けない夜はない」「夢を諦めないで」などの使い古された常套句と一緒で、安っぽいポエムや、月並みなJ-POPの歌詞みたいなノリだ。それを岸田に言われると、ますます明日が悪くなる気がしてめいってくる。
ウクライナ戦争からの物価高騰、中東情勢不安による石油危機のリスク、国連の機能不全に米議会の混乱、さらには世界的な気候変動、円安の弊害……。この激動の時代に「明日は良くなる」とか能天気に言ってる首相では本当に心配だ。
経済無策の岸田政権が続くのであれば、今日より明日の株価が良くなるとも思えない。東証株価も大暴落の予感しかない。
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