※2023年10月17日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年10月17日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
人道的危機だ(イスラエルの攻撃を受けたパレスチナ自治区ガザ南部)、スーパーマーケットの視察もものものしい(岸田首相=代表撮影)
パレスチナ自治区ガザの情勢が緊迫している。
ガザを実効支配するイスラム過激派組織ハマスとイスラエル軍の衝突は激化の一途だ。イスラエルのネタニヤフ首相は15日、戦時下の「挙国一致内閣」を初めて招集。閣議で「われわれを殺すために立ち上がった血に飢えた怪物を根絶やしにするために、いつでも行動する準備ができている」と発言した。
すでにイスラエルはガザ北部の住民に南部への退避を勧告。ガザへの大規模な地上侵攻は秒読み段階だ。いったん地上戦に突入すれば、停戦はさらに遠のく。今以上に多くの民間人が犠牲になることは避けられない。
世界中が固唾をのんで緊迫する事態を注視するなか、岸田首相が何をしていたかというと、スーパーマーケットで肉や野菜の売り場を見ていた。
週末は22日に投開票が行われる2補選の応援に奔走。岸田は14日に参院徳島・高知選挙区を訪れ、ラストサンデーの15日には衆院長崎4区で街頭演説をして回った。選挙モード全開だ。
そして、16日は東京・木場のイトーヨーカドーを視察。野菜売り場や肉売り場を見た岸田は「確かに高くなっている」と言い、店のスタッフから価格高騰の背景について説明を受けると、「エネルギー危機、食料危機、世界中で上がっている物価高と酷暑、野菜はそこが(価格に)加わってるんですね」とうなずいていた。まさか、そんなことも知らずに思い切った経済対策を行うとか言ってイキっていたのか?
月内に策定する総合経済対策では、ガソリンなどエネルギー価格の激変緩和についても「必要な措置を検討する」と言っていたが、原油輸入のほとんどを中東に頼っているのが日本だ。2022年度の中東依存度は95%を超え、過去最高水準になっている。
その中東情勢がいよいよ緊迫化しているというのに、岸田の動静はずいぶんノンキに見える。選挙と支持率アップのパフォーマンスしか頭にないようだ。
50年前の第4次中東戦争と石油危機の再来か
イスラエルが地上侵攻の準備を整えたことに対し、イラン外相は15日に国営メディアを通じて「ガザでの殺戮をイスラエルや同盟国が停止しなければ、われわれは傍観者で居続けることはできない」と、介入の可能性を示唆した。
「イスラエルの同盟国である米国は、ハマスを支援してきたイランへの牽制として空母2艦をイスラエル周辺に展開すると発表しました。中東はまさしく一触即発の状況にあります。イスラエルはメンツを重視する国ですから、ハマスに対して必ず報復する。ハマスも徹底抗戦で、地上戦になれば長期化、泥沼化は避けられません。米国のバイデン大統領も来年11月の大統領選を見据えて動き方が難しい。停戦合意に向けた動きが早期に進むとは思えず、すでに手詰まりに見えます」(国際ジャーナリスト・春名幹男氏)
バイデン大統領は15日放送の米CBS番組のインタビューで、イスラエルの地上侵攻を容認しつつも、「ハマスはすべてのパレスチナ人を代表していない」として、イスラエルがガザ地区を再占領することは「大きな過ちだ」とクギを刺した。
「パレスチナ自治政府とハマスは異なる組織ですが、イスラエルはハマスのテロ攻撃を最大限に利用して、ガザのパレスチナ人居住区を縮小しようとしています。今回の衝突で、ガザ地区の死者数は2750人を超えた。市民を巻き添えにする惨殺に、当初はイスラエル寄りだった国際世論も変化し始めています。パレスチナに連帯するデモも世界各地で行われ、さしもの米国も慌てているのかもしれませんが、イスラエル側も1400人以上の死者を出しているとされる。本格的な地上戦でハマスだけを排除することなんて不可能で、必ず民間人が巻き添えになるし、周辺国に飛び火する可能性は消えません」(高千穂大教授・五野井郁夫氏=国際政治学)
イスラエルのガザへの地上侵攻が周辺国も巻き込んだ本格的な戦争に発展すれば、1973年の第4次中東戦争以来の惨劇だ。ちょうど50年前、第4次中東戦争をきっかけに起きたのが「オイルショック」だった。73年10月16日にサウジアラビアなど湾岸産油国が原油価格を約70%引き上げ、17日はイスラエルを支援する国々への輸出制限を打ち出したためだ。原油をはじめとする急激な物価高で世界経済は大混乱。原油を中東に依存していた日本への影響はすさまじく、石油価格は4倍にハネ上がった。消費者物価指数も前年比25%上昇し、それでもさまざまな物資が品薄になった。
その反省から、日本は石油の備蓄や調達先の多様化を進めたのだが、80年代に7割を切った中東依存度が再び上昇して過去最高水準になっているのが現状だ。すでに石油価格が高騰している状況で、しかも、アベノミクスの異次元緩和で「円」は極端に弱くなっている。
国際社会で独自外交を生かせない存在感のなさ
いま中東発のオイルショックに再び見舞われたら日本はどうなってしまうのか、想像するだけで恐ろしい。
それ以前に、戦争でこれ以上の犠牲者が出ることを世界中の誰も望んではいないはずだ。全面戦争を回避し、なんとか停戦に持ち込むことはできないのか。国際社会の動きは慌ただしいが、岸田政権からは危機感が感じられない。他人事のように傍観しているだけなのである。
米国はブリンケン国務長官が12日に続いてイスラエルを訪れ、ネタニヤフ首相と会談した。バイデン大統領が週内にもイスラエルを訪問する可能性も取り沙汰されている。
ロシアのプーチン大統領もイスラエル、パレスチナ自治政府、イラン、エジプト、シリアの各トップと電話協議。国連のグリフィス事務次長(人道問題担当)も17日から中東を訪問する。
国連によれば、イスラエルが電力と燃料の供給を止めたため、ガザでは停電が続き、病院の非常用電源の燃料もまもなく尽きるという。薬も電気もネットも水もないガザ地区への援助物資搬入を可能にするため、グリフィス事務次長は数日かけてエジプトやその他の関係地を回るという。
こうした動きの中で際立つのが、国際社会における岸田の存在感のなさだ。何もしない、できない。米国隷従外交で主体的に動けず、様子見を決め込んでいる。
「G7のうち米英独仏伊の5カ国首脳が電話会談で『イスラエルへの揺るぎない支持』を確認しましたが、日本がここに名を連ねなかったことは賢明だと思います。もっとも、これは外務省の担当者が冷静な判断をしただけで、米国の顔色をうかがうしか能のない岸田首相には主体性がまったくない。本格的な戦争に突入し、米国がイスラエルの無差別攻撃を支持したら、どうするつもりなのか。本来なら、中東と独自のパイプを築き、アラブ諸国との信頼関係を積み重ねてきた日本ならではの外交があるはずです。非白人のG7議長国として、人命が何より大事との見地から、今こそ国際社会に戦争回避の声を伝える役割を担うこともできるのに、無定見な岸田首相では、せっかくの日本の強みを平和外交に生かせないのです」(五野井郁夫氏=前出)
中東戦争やオイルショック、場合によっては第3次世界大戦まで懸念される緊迫下にあって、ノホホンとスーパーを視察している岸田の存在こそが、わが国にとって安全保障上の最大の危機ではないのか。
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