※2023年10月14日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※文字起こし
選挙戦略の一環か(C)日刊ゲンダイ
これで幕引きというわけにはいかない。ここからが、本当の始まりだろう。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)をめぐる問題で、13日、宗教法人法に基づき文科省が教団に対する解散命令を東京地方裁判所に請求した。
文化庁が約1年にわたって7回の質問権行使などを通じ証拠を集めた結果、「法令に違反して著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」などがあったと判断。岸田首相が昨年10月の参院予算委員会で、宗教法人の解散命令を裁判所に請求する要件に「民法の不法行為も入りうる」という法解釈を披露し、民法上の違法行為でも「組織性、悪質性、継続性」の3要件を満たせば解散命令を請求できるという政府見解を示したことが、現実になった。
それにしても、なぜこのタイミングだったのか。
文化庁が7回目の質問権を行使したのは今年7月だ。組織運営や信者からの献金、収支など600以上の項目について教団側に報告を求めてきたが、少なくとも100項目について回答拒否があったとして、文科省は教団に過料を求める通知を9月に東京地裁に出している。その時点で証拠の精査は済んでいるはずで、同時に解散命令を請求することも可能だったのに、10月中旬にズレ込んだ。
「岸田首相にとっては、旧統一教会への解散命令請求は、自身の衆院解散戦略の一環なのでしょう。解散・総選挙が年内にもあると言われている中で、教団と自民党がズブズブの関係だというイメージを選挙前に払拭し、少しでも支持率を上げたい。そのためのアリバイづくりという政治パフォーマンスの側面があることは否めません。解散命令の決定までには今後、何年もかかるとみられている。請求を出したことで、この問題にケリをつけたように見せかけ、長期の裁判の間に国民が忘れるのを待つ意図が感じられます」(政治評論家・本澤二郎氏)
岸田は13日、六本木の高級ステーキハウスでの会食に向かう前に取材に応じ、「自民党の国会議員の多くが社会的に問題のある旧統一教会、関連団体と接点を有していたことが明らかになったことについては、国民の皆さまに政治の信頼を傷つけたということで改めておわびを申し上げたい」と神妙な顔で言い、「自民党として、旧統一教会との関係遮断を徹底したい」と強調したが、自民党の国会議員と旧統一教会は本当に関係を断ち切れるのか?
教団側の反撃に怯えるのはこれまでズブズブだった証し
旧統一教会との親密な関係が疑われながらかたくなに説明を拒んできた細田衆院議長が13日会見を開き、体調不良で議長を辞任すると表明した。質疑応答では、かねて指摘されてきた旧統一教会との関係や週刊誌で報じられた女性記者らへのセクハラ疑惑についての質問が飛んだが、細田は何ひとつ認めなかった。
安倍元首相が殺されたことと旧統一教会の問題は「全く関係がない」。教団の票の差配には「私は一切関わっていない」。さらに「いろんな噂があるとは聞いた」「実質は何もない」「特別な関係はない」と全否定だ。
旧統一教会関連の会合に判明しているだけで8回も出席した細田は、2019年には旧統一教会系の天宙平和連合(UPF)が名古屋市内で開いた国際会議で「韓鶴子総裁の提唱によって実現したこの国際会議の場はたいへん意義深い」「今日の盛会、そして会議の内容を安倍総理にさっそく報告したいと考えております」などと大演説をぶつ映像まで残っているのに、スットボケ続けるのである。
同じく旧統一教会と昵懇だったとされる自民党の萩生田政調会長も12日、解散命令請求の決定を受けて、「当該宗教法人と関係を断ち、適切な政治活動を心がける。今後もコンプライアンスに努める」とのコメントを発表したが、「今後も」なんて、よく言う。まるで以前から何の問題もなく、コンプライアンスを順守してきたような言い草だ。
「これまで教団から秘書を派遣されたり、選挙で支援を受けてきた自民党議員はたくさんいる。無報酬でフル稼働してくれる旧統一教会の信者なくして選挙を戦えない議員もいます。即座に関係を断ち切ることができるとは、とても思えません。こんな形だけの解散命令請求でお茶を濁して、問題にフタをできると思ったら大間違いですよ。それに、ずっと二人三脚でやってきたのに、世論の反発に恐れをなした岸田政権に解散命令請求を出され、一方的に悪者にされた旧統一教会だって面白くないでしょう」(本澤二郎氏=前出)
自民党内からは、「捨て身になった教団が、まだ知られていない自民党議員との関係を次々と暴露するのではないか」と怯える声も聞こえてくるが、それだけ蜜月だったということであり、ほとんど総汚染と言っていいような状況が続いていた。解散命令請求を出したことで劇的に変われるものなのか。
総理大臣として仕事をしたが自民党総裁としては…
しかも、実際に解散命令が出るかどうか、決定まで何年かかるかも分からないのだ。過去の例でいえば、オウム真理教の場合は幹部がこぞって逮捕されていたこともあり、約7カ月で解散命令請求が確定した。一方、霊視商法の明覚寺は、刑事事件で有罪になっていたにもかかわらず約3年かかっている。旧統一教会への解散命令請求は民法上の不法行為を根拠としており、教団側は徹底抗戦の構えだ。スンナリ決着するとは思えない。なにより、自民党が癒着を断ち切れなければ、解散命令請求も形骸化してしまう。教団は形を変えて存続し、協力関係が続いていくことも考えられる。
旧統一教会の問題を長年取材し続けてきたジャーナリストの鈴木エイト氏もこう言う。
「岸田首相が旧統一教会への解散命令請求に踏み込んだことは評価します。教団の規制や被害者救済は絶対に必要です。一方で、これだけの深刻な問題がなぜ何十年も放置され、多大な被害を生んできたのかということを考えると、自民党との関係を抜きには語れないでしょう。ところが、自民党内の調査は不十分で、政治家がどう関与してきたかが解明されていません。衆院議長に就任して形式的に党派を離脱したことや、亡くなったことを理由に細田氏や安倍氏を調査の対象外とした時点で、及び腰でした。岸田首相は旧統一教会の問題に関して、総理大臣としては解散命令請求を出すという大きな仕事をしましたが、自民党総裁としては何もできていない。今回の解散請求と、自民党と教団の癒着は別問題であり、岸田首相が本気で教団との関係を断ち切るというのなら、安倍氏に関する調査を含め、徹底して関係を清算する努力をすべきでしょう」
安倍や細田と旧統一教会の関係に触れられないのなら、やはり自民党に自浄作用は期待できないということになる。
臨時国会は20日召集が決まった。立憲民主党や日本維新の会は、旧統一教会が被害者の賠償に充てるべき資金の隠匿や散逸を防ぐ財産保全の議員立法を提出する方針だが、自民党は乗り気ではない。この一点をもってしても、教団との関係を断絶する気があるのか疑わしいのだ。
解散命令請求で問題にケリがつくわけではない。自民党がどう対応していくのか、選挙で支援を受けることは本当にないのか。メディアも国民も監視し続ける必要がある。
http://www.asyura2.com/23/senkyo292/msg/154.html