※2023年10月13日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年10月13日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
何がやりたいのかもわからない政権(岸田首相)/(C)日刊ゲンダイ
こうなると、ほとんどオオカミ少年である。来週20日(金)に召集される国会を前に、政界では「あるぞ、あるぞ」と、また「解散風」が吹いている。火元は例によって岸田首相の周辺である。「12.10投開票」などと、具体的な衆院解散・総選挙のスケジュールまで飛び交っている。
しかし、これほど国民をバカにした話もないのではないか。本来、衆院解散は、国論を二分するような重大テーマを、時間をかけて国会で審議し、審議を尽くしても合意を得られない時、最後の手段として国民に判断を仰ぐために行うもののはずである。まだ国会も召集されず、まったく審議も行われていないのに、解散風が吹くのは、おかしなことだ。しかも、総理周辺が解散風を煽っているのだから異常である。
岸田周辺が解散風を煽っているのは、通常国会の時の「成功体験」があるからだ。
「岸田官邸が一番強く解散風を吹かせたのが、通常国会の会期末となった6月でした。その結果、浮足立った野党は国会審議に集中できず、防衛費増額のための財源確保法など、政府提出の61法案のうち59本があっさり成立しています。自民党内も右往左往し、もめるとみられた衆院小選挙区の選挙区調整も一気に進展した。岸田首相は『解散権の威力はすさまじい』と興奮気味に語っていたといいます。味をしめ、20日に召集する臨時国会でも解散風を吹かせ、野党を浮足立たせるつもりなのでしょう。解散が近いとなれば、自民党内の求心力も高まりますからね。ああ見えて岸田首相は政局に絶対の自信を持っている。らしい、やり方ですよ」(政界関係者)
解散権を弄び愉悦に
通常国会が終わった後、岸田首相は「解散カードを使わずに残すことができた。秋も、冬も、来年だってまた使える」と、口にしていたという。
解散権を弄んでいるのは明らかだ。
「岸田さんは、自分が解散をにおわすだけで国会議員が右往左往するのが、うれしくて仕方がないようです。コンプレックスの裏返しなのだと思う。首相就任後のインタビューで、読破した歴史小説『徳川家康』の読みどころについて『若い頃の家康は信長や秀吉にずいぶんといじめられ、苦労した。そこに共感した』と語っています。岸田さんも、安倍元首相や菅前首相にバカにされていましたからね。それだけに、自分の一挙手一投足に国会議員が振り回されている姿を見るのが楽しいのでしょう」(自民党関係者)
こんなチンケな男が解散権を振り回し、政界全体が右往左往しているのだから、安倍政権以降に加速した日本政治の劣化も、行き着くところまで行ってしまったのではないか。
岸田首相がふざけているのは、解散権を煽る一方で、国会をトコトン軽視していることだ。
法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。
「安倍政権以降、政府による国会軽視が急速に進んだのは間違いありません。一国のトップが国権の最高機関である国会を軽く扱い、なんでもかんでも閣議で決めることがまかり通るようになってしまった。岸田政権もまったく同じです。国論を二分するテーマだった安倍国葬を国会に諮ることなく閣議で決定しています。敵基地攻撃能力の保有を明記した『安保3文書』の改定も閣議で決定し、国会審議は後回しだった。しかも、敵基地攻撃について国会で聞かれても『手の内を明かすことになる』と説明しようともしない。その挙げ句、解散をにおわせて国会を揺さぶっている。行政権が肥大化し、国会から議論が消えてしまった状態です」
メディアも共犯
最悪なのは、この異常な状況に対して政治家からもメディアからも、まともな批判がほとんど出てこないことだ。
かつての自民党だったら「解散権を振り回すのは、やめるべきだ」との声が上がっていたはずだ。
大手メディアにいたっては「また吹く解散風」「秋解散 与野党警戒」などと、解散ムードを煽っている始末である。総理会見があると、決まったように「総理、解散の時期は?」などと聞いている。解散について総理が答えるはずがないだろう。恐らく質問された岸田本人は「これで解散風が強まる」とニンマリしているに違いない。大手メディアは、ほとんど「共犯」である。
そもそも、岸田首相に「解散権」が必要なのか疑問だ。やりたいことが何もないのに、どうやって国民に「信」を問うのか。福島県を視察した時、子どもから「どうして総理大臣になったのか」と問われ、「日本のなかで一番権限の大きい人なので総理を目指した」と、平然と答えたような男である。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「岸田首相が吹かしている解散風の大きな問題は、解散の大義がまったく見えないことです。はたして本気で解散するつもりがあるのでしょうか。もし解散するとしたら、何を争点にするのか。解散の大義がないから、自民党の総務会長が『減税も解散の大義になる』などと、慌てて大義をつくっているのでしょう。世論調査を見ても、国民は早期解散を求めていない。『2025年の任期満了まで解散すべきではない』がトップの27%です。国民の多くも、岸田首相が解散風を煽っているのは自身の延命のためだ、と見抜いているのだと思います」
この2年間にやったこと
いい加減、大新聞テレビは、岸田政権と一緒になって解散風を煽るのをやめたらどうだ。さすがに大手メディアだって、岸田首相が解散権を弄び、延命のために解散風を吹かせていることくらい分かっているはずである。
大手メディアが無責任なのは、解散風を煽りながら、「解散すべきか」「解散すべきではないのか」、ハッキリ主張しないことだ。
いま大マスコミが国民に伝えるべきことは、この2年間、岸田政権がなにをやってきたのか、国民生活がよくなったのか、その一点なのではないか。
大手メディアは、大義のない解散権を振り回す岸田政権をどう評価しているのか、国会を軽視し、野党の質問にも答えない政治をどう考えているのか。いたずらに解散風を煽っていたら、岸田政治の本質を見えづらくするだけである。
「政権発足直後、岸田首相が掲げていた『新しい資本主義』も『令和の所得倍増』も、いつのまにか消えてしまった。最近、口にしているのが『先送りできない課題に一つ一つ取り組む』です。その岸田首相が、この2年間やってきたことは、『安保3文書の改定』や、『原発の再稼働』など、安倍元首相がやり残したことばかりです。本人は『自分は安倍首相もできなかったことをやった』と、高揚しているともいいます。危険なのは、やりたいことがないトップは、国民生活よりも、歴史に名を残すことや延命だけが目的になることです」(金子勝氏=前出)
国会がはじまると解散風は、ますます強まる可能性が高い。大新聞テレビは、いつまで岸田政権と共犯関係をつづけるつもりなのか。
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