2023年10月12日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
2023年10月12日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
空爆を受けたパレスチナ自治区のガザ地区(左)、ウクライナのゼレンスキー大統領は内心複雑(右、=代表撮影・共同)
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマス。その奇襲攻撃で始まったイスラエルとの戦闘が、激しさを増している。
野外音楽イベントや集落で多くの死傷者が出たことから、イスラエルは「これは虐殺だ」と怒りの炎をたぎらせ、報復としてガザへの空爆を継続。イスラエルのガラント国防相は10日、「全面攻撃に移行する」と宣言した。ネタニヤフ首相は既にバイデン米大統領に「イスラエルはガザで地上作戦を開始する以外に選択肢はない」と伝えており、情勢のさらなる悪化は必至だ。
5日目に入り、双方の死者は計2300人を超えた。イスラエル側で1200人以上、パレスチナ側で少なくとも1100人が命を落としたという。
イスラエルの安全保障は米国の内政問題
イスラエルはガザへの電気、水道、ガスの供給停止を決めている。パレスチナのメディアによれば、ガザ唯一の発電所が11日、燃料切れのため停止した。パレスチナ当局は、空爆で2万2000戸以上の住居が失われたと発表。国連機関はガザで26万人以上が住居を追われたとみている。
これに、ハマスと協力関係にあり、イランが軍事支援するイスラム教シーア派組織ヒズボラが本格的に参戦でもすれば、中東は泥沼化する。
イスラエルと同盟関係にある米国は、もちろんイスラエルを全面支援だ。バイデンは9日、「テロに反対する米国民の決意が揺るぎないことを世界に示していく」との声明を出した。空母打撃群を東地中海のイスラエル沖に派遣、防空システムや弾薬などの供与も始めている。
ハマスの攻撃で米国民11人が犠牲となり、拉致された外国人に米国人が含まれている可能性が高いとされることも、米国を過激にさせている。
「米国内では『これはイスラエルの9.11(アルカイダによる同時多発テロ)だ』との声まで出ている。メディアも熱くなり、一時、イスラエルを支援して軍事介入か、第3次世界大戦勃発か、という空気さえありました」(上智大教授・前嶋和弘氏=現代米国政治)
しかし、である。米国はロシアと戦うウクライナも全面支援している。2つの戦争を抱えることになるが、中国との覇権争いもやっているのに、二正面、三正面が成り立つのか。
ただでさえ、米国内はウクライナ支援疲れが顕著となっている。バイデン政権は10月からの3カ月で240億ドル(約3.6兆円)の追加支援の予算を求めてきたものの、米議会は大混乱。つなぎ予算は通ったが、ウクライナ支援は除外された。さらには、つなぎ予算に絡んで下院議長が解任されるという前代未聞の事態まで起きている。
そこへ、イスラエルの戦闘だ。米国のウクライナ支援が弱まるのは間違いない。11日にブリュッセルのNATO(北大西洋条約機構)本部で開かれた関係国会合にゼレンスキー大統領が出席し、支援強化を訴えたのは、焦りの裏返しだろう。
「米国は今後、ウクライナよりイスラエルとなっていくでしょう。米国にとってイスラエルは特別であり、ウクライナより何倍も重要。誤解を恐れずに言えば、イスラエルの安全保障は米国の内政問題なのです。支援疲れから、夏ごろにはウクライナに対する米世論の関心が下がり『潮目が変わった』と言われました。今回のイスラエルの戦闘は、もうひとつの潮目が来たと言えます」(前嶋和弘氏=前出)
ついこの間まで「ウクライナが反転攻勢」という話だったが、あれはどうなったのか。米国べったりの岸田政権と足並み揃えて、日本の大メディアは米国発のプロパガンダしか流さないが、「弾薬不足」「兵士の士気が低下」とされたロシアは、いまも弾薬は枯渇せず、経済制裁下でも経済は原油高で潤っているという。
日本はNATOにとって「カネのなる木」
米国隷従の岸田首相は、X(旧ツイッター)でハマスによる攻撃を「強く非難する」と投稿しつつも、イスラエルとパレスチナの双方と対話する「バランス外交」を模索し、苦慮しているらしい。
米国との大きな違いは原油だ。9割以上を中東地域からの輸入に依存する。イスラエルとハマスの戦闘が激化すれば、中東諸国の原油の供給に影響するとの懸念から、このところ落ち着いていた原油相場は一時、1バレル=87ドル台前半まで上昇、不透明感を増している。事態の悪化で、イランなど周辺の産油国を巻き込んだ状況に発展していけば、懸念が増す恐れがある。
そんな日本に追い打ちをかけるのは、米国の膨大な軍事費の肩代わりを課せられる可能性だ。ウクライナの追加支援を議会に阻まれたバイデンは、同盟国に急きょ、支援の継続を呼びかけてもいる。
独の研究機関「キール世界経済研究所」によれば、昨年1月から今年7月までにEU(欧州連合)加盟国が約束したウクライナ支援額は、同じ期間の米国の支援額を上回っているというのだが、実は、独や英など欧米各国に交じって、支援額で日本は6位にランクインしているのだ。人道面や経済支援の形を取ってはいるが、「NATOはジャパンマネーに期待するようになっている」と経済評論家の斎藤満氏は言う。そして、こう続ける。
「岸田首相がNATOの会議に呼ばれているのは、ずばりジャパンマネーが欲しいからですよ。日本が金を出せば、オブザーバーに入れてやる、という関係性ができあがってしまいました。日本はNATOに『カネのなる木』とみられているのです。米国で予算が通らなくても、バイデン大統領はウクライナ支援をやめるわけにはいかない。バイデン大統領の抱えるウクライナ利権を暴露されてしまいますから。つまり、バイデン大統領にとって、ゼレンスキー大統領を守ることは自分自身を守ることでもある。そんなバイデン大統領に政権を支えてもらっている岸田首相は、米国の要求にNOとは言わないとみられているのです」
欧米の支配力が低下し、アジアにシフト
ウクライナにイスラエルの戦争も加わり、ますますジャパンマネーがむしり取られることになるのである。
だが、イスラエルとパレスチナの戦闘の根本原因は、両者が共存できるよう2国家をつくるという「和平」を、長年にわたって実現できていないことにある。イスラエルが武力で占領した土地にパレスチナ人の国家をつくる。米国を筆頭に関係国がそうした努力をせず、イスラエルは占領地への違法な入植を進め、ガザ住民の怒りが向かった先のハマスが暴発した。
欧米諸国はハマスの「テロ」で一致しているが、エジプトは双方に自制を求め、イスラエルとの国交樹立を模索するサウジアラビアもイスラエルを批判している。ロシアは「米国の中東政策の失敗」だと主張し、中国も欧米とは一線を画す。
世界の分断はますます加速していく。日本はただただ米国追従でいいのだろうか。
「世界の力関係は変わってきています。欧米の支配力が低下し、『グローバルサウス』やアジアの台頭が目立ってきた。国連ではロシアの非人道的行為を非難する決議に、グローバルサウスが棄権するなど大きな影響力を持つようになっている。『文明の800年周期説』があるように、世界の金融資本も、いよいよ長く続いた欧米支配からアジアにシフトしてきたとみている。『イスラエルを支援する欧米VSパレスチナと産油国』の構図になる可能性もある。日本は米国の金魚のフンでいいのか。自らの立ち位置を見直す必要があるのではないでしょうか」(斎藤満氏=前出)
このままでは、日本はアジアで孤立し、落ち目の米国の財布になるだけだ。国際的地位もますます落ちていくことになる。
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