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※2023年9月29日 日刊ゲンダイ
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円の価値は国の価値、円安は歯止めナシ(運送会社視察する岸田首相ら=右)/(C)日刊ゲンダイ
「安いニッポン」がますます安くだ。「激安ニッポン」と呼ばれる日も遠くない──。
円安に歯止めがかからない。26日に1ドル=149円台に突入し、150円を突破するのは時間の問題だ。28日も鈴木財務相が「あらゆる手段を排除せず適切な対応を取る」と口先介入したが、為替相場はビクともしなかった。
もっとも、たとえ昨秋のようなドル売り・円買いの為替介入を実施したとしても一時しのぎに終わる。原油価格の高騰を受け、米FRB(連邦準備制度理事会)による金融引き締めが長期化するとの見方が出ているし、日銀は大規模金融緩和を継続する方針を維持している。日米の金利差がある限り、抜本的な円安対策にはならない。ゼロ金利を止めるなど、日銀が金融緩和をやめて利上げに転じない限り、どうにもならないのだ。
この超円安に、インバウンドの外国人は大喜びだろうが、輸入物価高に拍車がかかり、日本人は悲鳴を上げるしかない。東京商工リサーチが28日に公表した調査によれば、10月は4151品の飲食料品が値上げされる。来年1月以降の値上げも既に190品が判明しており、値上げラッシュに終わりが見えない。
訪日客がコロナ禍前(2019年)の85%まで回復する一方で、日本人にとって海外旅行はいまや夢物語だ。航空券や現地のホテル代・飲食代も1.5〜2倍に跳ね上がり、ランチは1食4000〜5000円なんて目が飛び出るような価格の都市もある。3泊5日のハワイ旅行は、オフシーズンならコロナ以前は5万〜6万円のツアーもあったが、いまは15万〜20万円を出さなきゃ行けなくなった。
寝ぼけた念仏と亡国の政策
しかし、それでも日銀の植田総裁は「2%の物価目標の持続的・安定的な実現を目指し、粘り強く金融緩和を継続していく」と、黒田前総裁ゆずりの寝ぼけた念仏を唱え続ける。物価高にあえぐ国民の悲鳴に耳を塞いでいるがごとくだ。
岸田首相が取りまとめを指示した総合経済対策も、企業減税や企業向け補助金などが柱で、消費税減税など家計を直接支援する物価高対策ではない。それに補助金だって税金だ。金融緩和をやめれば円安が止まり、同時に物価高対策になるのに、血税の無駄遣いで庶民を二重に苦しめるのだから許し難い。
金融緩和の継続は、個人の懐や家計を痛める一方で、国債をバンバン発行してバラマキ政策を続ける政府や大企業優遇の自民党にとっては都合がいい。経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「金融緩和が続けば、円安で物価高が続き、個人の実質賃金は増えない。物価高にともなって、消費税分も上がるのでインフレ増税もある。金融緩和による長引く低金利で預貯金などの金融資産も目減りします。一方で、企業は実質賃金の減少で人件費が減り、利益が上がる。企業と政府は実質金利がマイナスで潤う。つまり、個人の所得が企業・政府に移転しているということなのです。通貨の価値は国の価値です。円安を進め、国の価値を下げるのは亡国の政策でしかない。日銀の黒田前総裁は『円安は全体として見れば日本経済にプラス』と言っていましたが、自国通貨を安くしているのは世界中で日本ぐらいのものです」
50年間の日本の成長が全部吹っ飛んだ
「安いニッポン」の元凶は10年続くアベノミクスだ。安倍、菅、岸田の歴代自民党政権が、30年以上、浮上できずにもがき苦しむ日本経済にトドメを刺したのである。
民主党政権末期の12年11月、為替相場は1ドル=80円を割っていた。同年12月末に後を次いだ安倍政権は、経済停滞の原因を行きすぎた円高と物価の上がらないデフレだとして、「大胆な金融政策」の実施を表明。黒田日銀が翌13年4月、異次元のバズーカ砲をブッ放す。国債を大量に買い入れ、市場をお金でジャブジャブにし、金利を低く抑えて円安に誘導。輸出企業を儲けさせ、株高を演出した。
だが、円安による為替差益だけで利益を出せる輸出企業は、ぬるま湯に安住。イノベーションが生まれず、競争力を失った。そして、内向き経営となり、従業員の賃金を抑え、内部留保ばかりをため込んだのだ。
大企業や富裕層がより裕福になれば、富がしたたり落ちて、国民全体が豊かになるという「トリクルダウン」も起きず、国民は騙された。結局、10年続く超円安は、見せかけ利益の輸出企業にとっても、金融資産が目減りした個人にとっても、マイナスでしかなかったのではないか。
「ドルベースの1人あたりのGDP(国内総生産)は、民主党政権の頃は6兆ドルありました。ところが、円安が加速し、安倍政権で4兆ドル、岸田政権では3兆ドルまで縮んでいます。安倍氏は『悪夢の民主党政権』と批判していましたが、民主党政権当時の日本は頑張っていた。いまや日本は先進国とは言えず、中進国です。汗水たらして働いても、海外の物が買えなくなった日本人は幸せなのでしょうか。購買力平価やビッグマック指数、企業の実力から考えても、バランスが取れるのは1ドル=100円程度です。超円安の結果、実質実効レートは1970年ごろに戻っている。1ドル=360円の時代です。歴史を50年前に戻してしまった。50年間の日本の成長を全部吹っ飛ばしてしまいました」(斎藤満氏=前出)
円安“礼賛”で構造的なひずみ
岸田は28日、東京都内の運送会社を視察し、総合経済対策の10月中の取りまとめに向け、賃上げ推進をアピールした。運転手不足が指摘される「2024年問題」の対策や賃上げの原資となる適正運賃の確保など、法整備を進める意向だという。
運送業界に限ったことではなく、こうした問題の背景には、当たり前に賃金が上がり、人件費が上がる、マトモな経済になっていないことも要因にある。
つくづく日本は、円安“礼賛”で貧しい国に堕ちてしまったものだ。円の価値を下げ、国の価値を下げたことで、産業、物流、小売り、人材、あらゆる現場に構造的なひずみが生まれている。
それなのに、岸田は根本的な対策に手を付けることなく、相変わらずのバラマキ政策に邁進する。自民党内では15兆〜20兆円という数字が飛んでいる。バラマキでは効果がないことは長年やってきて分かっているだろうに、内閣支持率アップのための人気取り、解散戦略の一環という身勝手なのだ。さらには、来年度予算の概算要求段階で、一気に7.7兆円という防衛費を積み上げ、兵器爆買いを続ける始末である。
これほどの、国民生活そっちのけの亡国政権があっていいものか。普通の民主主義国家なら、パリなどのように大規模デモが起きてもおかしくない。なぜ日本では庶民の反乱が起きないのか。摩訶不思議だ。
経済アナリストの菊池英博氏が言う。
「アベノミクスの10年は本当に罪作りです。『3本の矢』と言いながら、結局、金融緩和だけだった。それが長期にわたる円安を招き、日本を貧しい国にした。アベクロ(安倍と黒田)が日本経済を弱体化させたのです。日銀総裁は交代したのに、なぜ金利を上げないのか。金利の付かない円預金を持っていても仕方ないと、最近の超ドル高・円安を受け、庶民までがドルを買う動きが出ています」
政治が、物価の番人が動いてくれないなら、自分で生活防衛に走るしかない、ということなのか。おとなしすぎる国民をシリ目に、やりたい放題の自民党政権。このままでいいのか。
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