※2023年9月12日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※2023年9月12日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
大好きな人事でご機嫌(岸田首相=中央)/(C)日刊ゲンダイ
自民党内がザワついている。震源は13日の内閣改造・党役員人事。早い話が、ポストをめぐるさや当てが各所で繰り広げられているのだ。衆院当選5回以上、参院当選3回以上で閣僚未経験の「待機組」と呼ばれる議員は党内に70人ほど。ポスト獲得が派閥の存在意義と化して久しいが、岸田首相を除いた大臣のイスは19と限られる。しかも、すべてがあくわけではない。規模に応じた人数を押し込むことができるかどうか。派閥領袖の腕の見せどころだ。
所属議員100人を数える最大派閥の安倍派は、待機組も最大の18人。お飾りトップの塩谷立座長は岸田に現在4人の閣僚ポストの増員を要求し、衆院当選6回の鈴木淳司、宮下一郎両議員の初入閣を要望している。第2派閥の麻生派は領袖の麻生副総裁が留任する一方、衆院当選7回の伊藤信太郎議員を推す。第3派閥の茂木派もまた会長の茂木幹事長は再任されるが、衆院当選5回の木原稔議員の処遇はどうなるか。総裁派閥の岸田派、非主流派の二階派、森山選対委員長が率いる森山派も複数の待機組を抱える。参院にも独自枠があり、汚染水発言などで適性が疑われる野村農相を外し、入れ替わり濃厚だ。
「ポスト岸田」封じ込め人事
青天井の物価高騰、問題山積なのに強制をやめないマイナンバーカード、水産業者を絶望の淵に突き落とした原発汚染水の海洋放出強行、再生可能エネルギーも食い物にしていた「政治とカネ」、エッフェル騒動などでまたも可視化された政治の私物化──。内閣支持率は当然つるべ落とし、引きずられて求心力も急低下。焦る岸田は人事をテコ入れにとことん利用。連立を組む公明党の山口代表に外遊先からわざわざ電話をかけ、「13日を目指して内閣改造と党人事をできるように準備を重ねている」と伝え、それをアナウンスさせることで引き締めを図った。
首相になったらやりたいことを「人事」と公言してきた岸田にとって、権限行使はこれで3回目。いよいよ「岸田カラー」を出すのかといえば、そんなことはない。第4派閥の領袖に過ぎない岸田は、「三頭政治」と揶揄されても延命を優先し、麻生と茂木を留任。麻生義弟の鈴木財務相や岸田派ナンバー2の林外相のほか、安倍派「5人衆」の松野官房長官と西村経産相、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相らも続投させる方針だ。
第2次安倍政権以降、公明の指定席化している国交相についても斉藤大臣を留任させる。
政権の「骨格維持」と言えば聞こえはいいが、1年後に迫った党総裁選での再選を最優先した結果、軽量級ポストしか動かせないのが実情だ。
政治ジャーナリストの角谷浩一氏はこう言う。
「今回の人事は“ポスト岸田”の面々を閣内あるいは党執行部に閉じ込め、かつ秋の解散・総選挙をにらんだものとみています。一昨年の総裁選で争った河野大臣と高市大臣を閣内に置き続けて力をそぎ、首相の座をあからさまに狙う茂木幹事長についても再任によって身動きを取れなくする。10.22衆参ダブル補選は、暴行辞職や世襲批判などで自民党は苦戦を強いられかねません。2戦2敗なんていう事態になれば、岸田首相の再選シナリオに黄信号がともる。そこで今月下旬に臨時国会を召集し、冒頭解散。補選に総選挙をブツけて失点をごまかす戦略でしょう」
補選を潰し再選成就「キシダ楽観シナリオ」
党4役は、これまた安倍派「5人衆」の萩生田政調会長が留任する見通し。森山を選対委員長から総務会長に横滑りさせ、空席に茂木派の総裁候補と期待される小渕組織運動本部長をあてがう。
「森山氏を4役に取り込んでおけば、近しい関係にある二階元幹事長や菅前首相らといった総理と険悪な非主流派を牽制できる。“ドリル優子”とあだ名される小渕氏は『政治とカネ』で2014年に経産相を辞任し、説明責任を果たしていない問題がくすぶり続けていますが、選対委員長就任会見で謝罪させて禊とすればいい。政治不信の要因となっている党と統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関係についても、文科省に解散命令を請求させ、司法にボールを投げてしまえば政府としてやれることはやったことにできる」(自民党関係者)
岸田の楽観シナリオ通りに世間が反応するのかどうか。この2年というもの、外交も内政もどん詰まりだ。
中国を敵視する米国への隷従を深める岸田は、その先兵となるべく防衛費を倍増させ、専守防衛を逸脱する敵基地攻撃能力保有に突き進み、防衛装備移転3原則も骨抜きにして戦争を助長する武器・弾薬を輸出しようとしている。日本の再軍国化に中国がピリピリする中、岸田は原発汚染水の海洋放出を強行。対抗措置として日本産水産物の全面禁輸を食らい、慌てふためく無定見をさらしている。米国と財界の言いなりになって日本の産業競争力を失わせ、経済はどんどん衰退。実質賃金は16カ月連続マイナスだ。円安物価高を招く異次元緩和は政府の財政ファイナンスと表裏一体のため、日銀はがんじがらめ。そうした現実には目もくれず、ひたすら保身でダラダラ失政を続けるのか。この難局に「内向きの保身改造」の無自覚。岸田には危機感すらないらしい。
悪性の根源でもある官房副長官
政治評論家の本澤二郎氏はこう言った。
「これほど自己保身を極めた人事は、自民党政権といえど初めてではないか。外遊先のインドで10日に行われた内外記者会見で、岸田首相は『新たな体制で思い切った経済政策をつくり、早急に実行していく』『発足直後からスタートダッシュしていきたい』と強調していましたが、物価対策を本気で打つ気があるのなら日銀の異次元緩和を軌道修正させ、出口に向かわせればいい。金利操作をやめれば、円相場は適正水準に向かい、物価高は一服する。予算編成する必要のない有効策なのに、アベノミクスを信奉する安倍派などの顔色をうかがい、実行しようとしない。岸田政権および官邸の最大の問題は、首相最側近の木原官房副長官の存在です。続投から一転して退任させるとのことですが、官邸内の別ポストで処遇する可能性はある。木原氏は夫人の前夫不審死事件をめぐる捜査を政治的圧力で止めた疑惑について一切説明しない上、異次元の少子化対策をはじめとする政権の重要政策すべてに関わっている。つまり、岸田悪政の根源は木原氏でもあるのです。野党もメディアもおとなしいと踏んで、うまいこと懐刀を官邸に残すというのであれば、非常にあくどい。前代未聞です」
腐った組織の党内事情の優先で、モラルはいよいよ崩壊し、この国は落ち目の三度笠へまっしぐらだ。
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