※2023年8月29日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※2023年8月29日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
あまりに身勝手な強引論法だ(岸田首相)/(C)共同通信社
24日に始まった福島第1原発の処理水放出後の週末に行われた各社の世論調査を見ると、内閣支持率は相変わらず低迷が続いている。
読売新聞が25〜27日に実施した全国世論調査では、岸田内閣の支持率は発足以来最低をマークした前回7月調査と同じ35%で横ばい。不支持率は2ポイント下がって50%だった。同期間に行われた日経新聞の調査は、他社と比べて支持率が高く出る傾向にあるが、それでも支持率は42%、不支持率は50%だ。
毎日新聞が26、27日に行った調査では、支持率は前回7月調査から2ポイント減の26%で、2カ月連続で「危険水域」の30%を下回った。不支持率は前回から3ポイント増の68%だった。
どの調査でも回答者の半数以上が不支持という時点でダメダメなのだが、岸田首相の周辺は「この程度の数字で済んでよかった」と胸をなでおろしているという。
「処理水の海洋放出を実施したことで、またガクンと支持率が下がるのではないかと心配されていた。むしろ、支持・不支持の数字はわずかながら改善していて、これは処理水は安全だという理解が進んでいる証拠でしょう。総理は、やるべきことをやれば国民に伝わり評価されると自信を深めていますよ」(官邸関係者)
たしかに、各社の世論調査でも処理水の海洋放出には「理解」を示す回答が多い。読売の調査では、海洋放出を「評価する」が57%と過半数に上った。「評価しない」は32%だ。
毎日の調査でも「評価する」が49%で、「評価しない」の29%を上回った。
もっとも、海洋放出に関して政府と東京電力の説明が十分かという設問に対しては、「不十分だ」が60%と圧倒的だ。「十分だ」は26%にとどまる。
なぜこのタイミングだったのか
「海洋放出に国民が理解を示しているのは、処理水は科学的に安全だとIAEAからお墨付きをもらったり、他に方法がないという政府の説明を大メディアが喧伝してきた啓蒙活動の成果でしょう。しかし、処理水放出にはいくつものゴマカシがある。政府・東電や大メディアは、ALPS処理水の問題をことさらトリチウムの濃度に矮小化して『安全だ』とアピールしていますが、ALPSではトリチウム以外にも除去しきれない核種が残ることが分かっています。他国が原発の冷却水を海洋放出していることと比較するのもミスリードでしょう。通常運転の原発で発生するトリチウム水と、原発事故で溶け落ちた核燃料デブリに触れた水を同等に扱うことは本当に科学的なのか。岸田首相は地元漁業者と会おうともせずに放出を強行しましたが、なぜこのタイミングだったのかについても、納得いく説明はありません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
政府と東電は2015年に福島県漁連と「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」という約束を文書で交わしている。岸田が今回の海洋放出を決めた際、地元漁業者は反対の声を上げていたが、首相ご自慢の「聞く力」はいささかも発動しなかった。「一定の理解を得た」と都合のいいことを言って海洋放出を決めてしまった。
この件について、27日のNHK番組で問われた西村経産相は「今の時点で国は約束を果たし続けている。破られてはいないと理解している」とか言っていた。約束を反故にしておいて、「破っていない」と開き直る。盗人猛々しいとはこのことだ。
過剰反応の背景にあるのは日本政府に対する不信感
処理水の海への放出を受けて、さっそく中国は日本の水産物を全面禁輸。中国国内の日本人学校への投石や、日本国内への嫌がらせ電話なども相次いでいる。
「迷惑電話はやりすぎで筋違いですが、中国側の過剰反応の背景にあるのは日本政府に対する不信感です。これまで中国に対して、冷静な対応を求められるような関係を築く努力をまったくしてこなかった。それどころか、米国の尻馬に乗り、中国を仮想敵国とする安全保障文書まで作成して挑発してきたツケと言わざるを得ない。そもそも約束を守らない、破っても謝罪しない。そういう政府と東電をどうして信じられるのか。幾度となくデータ改ざんなどの不正も明らかになった東電は、柏崎刈羽原発では原子力規制委員会が事業者としての適格性がないとまで判断している。それなのに、処理水のデータだけは信用できるという根拠はどこにもないし、いくら『安全だ』と言われても信用できないのは当然です。説明不足というレベルではなく、嘘まがいのデタラメで処理水の海洋放出が強行された。風評被害をつくり出している一番の原因は、政府と東電の不誠実な態度なのです」(五十嵐仁氏=前出)
中国の対応に関し、岸田は28日、嫌がらせ電話などが相次いでいることは「遺憾だ」と表明。そのうえで水産事業者の支援策を検討し、週内に具体的な内容を整理して発表すると明らかにしたが、あまりに後手に過ぎないか。中国側がこうした反応をすることは分かっていたはずだ。漁業関係者の支援策にしても、事前に十分に検討して海洋放出への理解を求めるのが常識だろう。後先なーんも考えず海に流してしまったというなら、政権担当能力を疑わざるを得ない。
「まったく想定していなかった」
驚くのは、中国が日本産水産物を全面的に禁輸すると表明したことについて、野村農相も会見で「たいへん驚いた。まったく想定していなかった」と話したことだ。大丈夫か、この政府は?
「こうした被害の予測をしていなかったとすれば、楽観的過ぎる。政府は処理水をめぐる風評被害対策などに800億円の基金を設けていますが、とても足りそうにありません。すでに北海道から九州まで、水産物が値崩れするなどの打撃が出ています。岸田政権は原子力ムラの意向に沿って、処理水の海洋放出は福島の復興や廃炉のために必要だと言うのですが、事故から12年経っても溶け落ちたデブリがどこにどんな状態であるかも分からない。廃炉の見通しはまったく立っていない現状で、急いで海洋放出する必要はないはずなのです。福島第1原発周辺にはまだ汚染水タンクを置く余地があるし、処理水の海洋放出には経済合理性がまったくない。その被害ははかり知れず、国益を大きく損なうことになります。今からでも、海洋放出しないで済む方法を真剣に考えるべきです」(ジャーナリスト・横田一氏)
思い起こしてみれば、原発の「安全神話」からして嘘だったのだ。ひとたび事故が起きれば、とてつもない苦難が国民に降りかかる。しかも目に見えない放射能の影響は長い時間が経過しないと分かりづらく、判明した時には取り返しがつかない。
だからこそ、慎重にも慎重を期して対応する必要があるのだが、処理水の海洋放出リスクを指摘することが「風評被害」のように報じる大メディアの風潮は、原子力ムラにとって都合のいいものでしかない。
風評被害を招いているのは、海洋放出を批判する側ではなく、嘘ばかり言ってきた政府と東電の方だろう。日本の豊かな海と地球環境を守りたいという素朴な気持ちを非国民扱いされてはたまらない。こういう同調圧力が、日本を悲惨な戦争に向かわせたのではないのか。当局の言い分を垂れ流しにして、異論を封じる“共犯”の役割を演じる大メディアの罪は重い。
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