※2023年8月8日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年8月8日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
虎の威を借る…(岸田首相、右は、汚染水海洋放出反対集会)/(C)日刊ゲンダイ
福島第1原発の処理水の海洋放出をめぐって、摩訶不思議なニュースが流れている。
17日から訪米する岸田首相が、18日にワシントン近郊で行われる日米韓首脳会談で処理水を海洋放出する計画について両首脳の理解を得た上で、帰国後の8月下旬に関係閣僚会議を開いて具体的な放出開始時期を決めるというのだ。複数の政府関係者の話として報じられた。
つい先日まで、日米韓首脳会談の開催目的は、安全保障や経済分野での結束を内外に示す狙いだと解説されていた。北朝鮮の核・ミサイル開発問題や、中国の覇権主義的行動を牽制し、抑止力強化につなげるための訪米ではなかったか?
そこに処理水の話が出てくることがわからない。処理水放出にもバイデン大統領のお墨付きが必要ということなのか。放出スケジュールはバイデンに決めてもらうとでもいうのか。
「処理水の海洋放出は、日米韓の安全保障の枠組みと関係ありません。わが国の食の安全安心をどう守るのか、地元の漁協など地域の人たちの理解をどう得ていくかという内政問題です。福島の漁協の人々は、『安全と安心では全然違う』と言って、風評被害が広まることに不安を抱いている。西村経産相が福島県を訪れて漁業関係者と面会し、廃炉が完了するまで風評対策に取り組む考えを示しましたが、廃炉完了なんていつになるのか。それまで風評被害に耐えろというのでしょうか。岸田首相は『地元との対話を重ねて信頼関係は深まっている』などと言っていますが、海洋放出を急ぐ政府と地元との溝はまったく埋まっていません。岸田首相が処理水について了承を得るべきなのは、バイデン大統領より先に地元漁協でしょう」(政治ジャーナリスト・角谷浩一氏)
「夏ごろの放出に変更はない」
岸田は7日、都内の視察先で記者団の取材に答え、処理水の放出について「現時点で具体的な時期やプロセスについて、スケジュールは何ら決まっていない」としつつ、「夏ごろを見込むと申し上げてきた。この点に変更はない。内外で丁寧に説明を続けているところだ」とも言っていた。早ければ今月末とされる放出開始時期を変更する気は毛頭ない。既定路線なのだ。
では、なぜわざわざ訪米してバイデンの理解を得る必要があるのかというと、“外圧”を利用して、放出に反対する地元を黙らせるためだろう。「米国様がOKした以上、四の五の言っても無駄だ」というコケオドシである。姑息なやり口だ。
「日米韓首脳会談を利用するのは、バイデン大統領のお墨付きがあれば韓国の尹大統領も黙って追認するという計算もあるのでしょう。虎の威を借るわけで、何でもかんでも米国頼みの情けない首相です。しかし、いくら尹大統領が文句を言えなくても、韓国民がすんなり受け入れるとは限りません。中国や香港も、処理水を海洋放出すれば水産物の輸入規制を強化すると言っている。猛毒のトリチウムを30年以上にわたって海に流すと言われれば、地元漁協や近隣国が不安を感じるのは当然でしょう。海洋放出について国際社会の理解を得たいのであれば、岸田首相は米国より先に中国や香港に行って膝詰めで直談判すべきだったのではないでしょうか」(政治評論家・本澤二郎氏)
農水省が4日に発表した2023年上半期(1〜6月)の農林水産物・食品の輸出額は、前年同期比9.6%増の7144億円で、上半期では過去最高となった。国・地域別ではトップの中国が16.2%増の1394億円で、2位の香港が25.8%増の1154億円で続く。その両国が輸入を規制するようになれば、ようやく原発事故の悲劇から立ち直ってきた福島の水産業には大打撃だ。
台湾と同じ対応をなぜ他の近隣国にできないのか
日本政府はこれまで、処理水放出の外堀を埋めるために国際原子力機関(IAEA)などの国際機関を中心に根回ししてきた。地元は二の次、近隣諸国への説明は三の次。IAEAが「国際的な安全基準に合致する」と結論付けた包括報告書を錦の御旗に、海洋放出を開始してしまおうという姑息な手口はあからさまだ。
もっとも、親日国の台湾に対する気遣いだけは別格だ。自民党の麻生副総裁が7日から台湾を訪問。蔡英文総統、頼清徳副総統らと会談し、処理水の海洋放出計画について理解を求めるという。
先日、来年1月の台湾総統選に出馬する最大野党・国民党の侯友宜・新北市長が来日した際も、1日に党本部で会談した萩生田政調会長は処理水の海洋放出について政治問題化しないよう要請。IAEAの判断を尊重して冷静に対応することで合意したという。
なぜ同じことが中国や韓国に対してできないのか。反発する国にこそ、直接の対話で丁寧に説明するべきではないのか。優しく接してくれる国だけ厚遇して、厳しいことを言う国は無視というのなら、それは外交ではない。ただの自己愛だ。国益も何もあったもんじゃない。
甘利前幹事長が処理水を飲む?
「トラブル続出のマイナンバーカード問題で右往左往しているのを見ればわかるように、自分では何一つ決められず、問題を先送りするしか能のないのが岸田首相です。処理水放出も、岸田政権を支える原発村の意向に従っているだけでしょう。そのために訪米してバイデン大統領の後ろ盾を得る。政権維持のためには、地元漁協の苦悩も、国民の不安も度外視なのです。処理水が本当に安全というのなら、農業用水や工業用水にでも利用すればいい。希釈して、30年もかけて海に流すという時点で安全ではない“汚染水”ということです。本来なら事故を起こした東京電力が自己責任で何とかするべきであるのに、汚染水の処理は政府にお任せで、負担は国民に押し付ける。それでいて電気料金も上げ、黒字決算というのだからフザケています。原子力マフィアのために国民や海を犠牲にする政権など、即刻お引き取り願いたいものです」(本澤二郎氏=前出)
経産相や経済再生相を歴任し、電力族のドンとも呼ばれる甘利前幹事長が6日の「日曜報道 THE PRIME」(フジテレビ系)に出演。処理水の海洋放出について、「問題ないように薄めるんです。世界で一番問題なく薄めていくわけですね」などと持論を展開した。原発推進派は、世界で一番とか、世界の真ん中で咲き誇るのがつくづく好きなようだ。穴だらけの規制基準も「世界で一番」とか言って胸を張っていた。
風評被害を抑えるためには、政治家が処理水を飲んで安全性を証明すべきだという意見は根強い。実際、東日本大震災の原発事故直後に東京の水道局で基準値を超える放射性物質が検出された際には、当時の石原慎太郎都知事が葛飾区の金町浄水場を視察し、コップ1杯の水道水を一気飲みして安全性をアピールしたことがある。石原はかなり嫌そうな顔をしてはいたが、世論のパニックを沈静するのに多少は貢献したはずだ。
処理水を飲んで安全性を証明することに関して、甘利は「海水を使って薄めますから、これはちょっと飲めないですよね」などと言葉を濁していたが、最後は「真水で薄めて、それから細菌とかの除去はしてませんから、それを除去してクリーンにしたら飲めますから」と明言した。ぜひとも実践してもらいたいものだ。処理水の放出を決めるのはそれからでいいだろう。
18日の日米韓首脳会談も、まずは処理水で乾杯することから始めてはどうか。
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