※2023年8月1日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
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※2023年8月1日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
もはや木原官房副長官(右)本人の疑惑ではない。岸田首相は知っていたのか(C)日刊ゲンダイ
「断言しますけど、事件性はアリですから」──。
2006年に東京都内の自宅で男性(享年28)の遺体が発見された不審死事件。亡くなった男性の当時の妻で、その後、木原誠二官房副長官と再婚した女性が重要参考人として警視庁の聴取を受けていたこと、そして18年に始まった再捜査が突如打ち切られた背景には権力の乱用があったのではないかという疑惑を「週刊文春」がこれまで4週にわたって報じてきた。
最新の8月3日号で「自殺ではなく殺人事件だ」と実名告発した元警視庁捜査1課の佐藤誠氏が先月28日に都内で会見。妻の取調官として事件の再捜査に関わった佐藤氏の証言は生々しかった。
「殺しの捜査を100件はしてきたが、経験したことのない異常な終わり方だった」
「殺人事件に時効はない。白か黒か。グレーだったら終わらない」
「一番大事なのは被害者。被害者の家族に何も伝えず終わるなんて、あり得ない」
「調べ官だった俺が一番、証拠を見ている。自殺だった証拠はひとつもないのに、なぜ警察庁長官は『事件性はない』なんてウソを言うのか」
すでに退職したとはいえ、刑事として捜査上知り得た事実を実名告発するのは異例中の異例だ。そのうえ会見にも応じたのは決死の覚悟だろう。当初は文春の取材にも応じなかった佐藤氏を突き動かしたのは、「被害者が可哀想」という一念だった。
警察庁の露木康浩長官が7月13日の会見で、この不審死事件に関し「警視庁において捜査等の結果、証拠上、事件性が認められない旨を明らかにしております」と発言したことに「カチンときた」というのだ。自殺とする証拠は何ひとつなかった。誰が見たって事件性があるのに、何を根拠に「事件性が認められない」などと言っているのか。遺族感情を逆なでするのは間違っている──。そういう憤りが実名告発につながった。
真犯人究明と政治介入は別の問題
佐藤氏ら現場の刑事が“ホシ”を挙げようと懸命になっていた再捜査が突然、中止になったのはなぜなのか。佐藤氏は文春の取材に対し、捜査の過程で木原から「おまえなんて、いつでもクビ飛ばせるぞ!」と怒髪天を衝く勢いで言われたことを明かしている。また、佐藤氏はタクシー車内で木原が妻の手を握り、「俺が手を回しておいたから心配すんな」と語りかける様子もドライブレコーダーの映像で確認したという。権力をカサにきた恫喝や捜査介入がもし事実なら大問題だ。
「事件の真相や、殺人事件だった場合に誰が犯人なのかという話は捜査当局に任せるしかない。ただし、政治的権力を持つ人が捜査に圧力をかけていたとしたら、これは別の話で、見過ごすわけにはいきません。その点に関して木原氏が清廉潔白だというのなら、正々堂々と記者会見でもすればいいのです。疑念を持たれるようなことがあれば、しっかり説明するのが政治家の務めでしょう。捜査にあたった元刑事が実名告発までして疑問を呈しているのに、このままフタをしたのでは、政治不信に加えて警察不信も高まりかねません」(法大名誉教授・五十嵐仁氏=政治学)
この事件に関して「週刊文春」が7月6日発売号で「岸田最側近・木原副長官 衝撃音声『俺がいないと妻がすぐ連行される』」という記事を最初に報じた際、木原サイドは即座に「事実無根」で「想像を絶する人権侵害」だとして、「刑事告訴を含め厳正に対応する」とした「御通知」を記者クラブメディア宛てに出した。それ以降、公の場には出てきていない。
首相外遊には衆参の副長官がほぼ交代で同行するが、7月に岸田首相が欧州と中東を訪問した際はいずれも参院の磯崎仁彦副長官が同行した。松野官房長官が沖縄出張で不在だった24日の定例会見も、午前・午後とも磯崎が代行。7月6日の文春報道以降、それまで日課だった記者の取材にも応じていないという。
警察官僚が跋扈した安部官邸では悪事が見過ごされた
佐藤氏の実名告発の後、松野は28日の会見で、木原から「捜査に圧力を加えたとの指摘は事実無根だ」との報告を受けたと言っていたが、それはぶら下がり取材でもいいから、木原本人の口から国民に話すべきではなかったか。「事実無根」の伝聞だけで済ませていいことなのか。
「木原副長官はいつまで雲隠れで逃げ切れると思っているのでしょうか。すでに副長官としての職務を果たせていないのだから、表に出てこられないなら潔く辞めるしかないでしょう。逃げれば逃げるほど、後ろ暗いところがあるように国民から思われてしまいます。その背景には、第2次安倍政権下で権力者の悪事が次々と見過ごされるのを目の当たりにしてきたことがある。安倍元首相と懇意だったジャーナリストが準強姦罪の容疑で逮捕される寸前に、逮捕状が握り潰されたこともありました。しかも、週刊誌の取材に対して自分が握り潰したと認めた当時の中村格警視庁刑事部長はその後、警察庁長官に出世しました。そういう不条理を見せつけられてきたから、木原副長官の妻についても捜査当局が忖度したか、政治側の圧力があったのではないかと国民が疑念を抱いてしまうのも当然なのです。木原氏の妻に関わる再捜査も安倍政権下でのことでした」(政治評論家・本澤二郎氏)
元刑事の佐藤氏は会見で、18年の再捜査で木原夫妻が当初は非協力的だったが、当時の二階幹事長が木原に対し「取り調べには素直に応じろ」と言ったという話を警視庁の上司から聞いた後、任意聴取がスムーズになったと話していた。
文春の直撃取材に対しても、二階は「覚えてないけど、疑いを持たれたら捜査に協力しろよっていうことは当然のことじゃないかな。それは言っただろうけどさ」と認めている。
少なくとも、18年の再捜査当時に二階は概要を知っていたわけだ。それは誰から聞いたのか。木原から泣きつかれて知ったのか、独自の警察ルートか、あるいは官邸から情報が入ってきたのか。
野党の公開質問状に答えられるか
「当時の安倍官邸は警察官僚の杉田副長官と北村内閣情報官が力を持ち、各方面に情報網を張り巡らせていました。自民党の現職議員の妻への捜査となれば、この2人に情報が上がらないはずがありません。その情報は当時の菅官房長官の耳にも入れていたでしょう。危機管理上、当然のことです。安倍元総理にまで上がっていたかは分かりませんが……」(自民党中堅議員)
今は非主流派の菅と二階が、岸田政権の中枢に鎮座する木原の“急所”を把握していたとなると、何やら政局めいたにおいがしないでもないが、18年の再捜査当時の木原に捜査を止めるほどの力があったとは考えにくい。今でこそ副長官として「陰の総理」と呼ばれるほどの権勢を誇っているが、当時はまだ岸田が首相になるかどうかも未知数だった。
「木原夫人への捜査を二階氏と菅氏が知っていたことは疑いようがないですが、宏池会に所属する木原氏の親分である岸田首相は果たして知っていたのか。知らされていなければ、機密情報の蚊帳の外に置かれるほど党内で無能扱いされていたということです。知っていて木原氏を副長官のポストに就けて軍師として重用してきたのなら、岸田首相にも説明責任はあるでしょう。再捜査が事実上、終了した時の警察庁長官が、岸田政権発足で事務方トップに就いた栗生俊一副長官という人事にも、恣意的な登用ではないかという疑問の声が上がっています」(本澤二郎氏=前出)
政府は7月31日、岸田が日米韓首脳会談のために8月17日から訪米してワシントン近郊の大統領山荘キャンプデービッドを訪問すると発表した。ウクライナ電撃訪問など岸田の重要な外交場面に付き添ってきた木原は同行するのか?
立憲民主党は木原に対し、警察関係者との接触や岸田への報告、記者会見の意向などについて公開質問状を提出。きょうは警察庁や内閣官房へのヒアリングも行われる。もはや木原個人の問題では済まなくなってきた。火種は広がっていく一方だ。
http://www.asyura2.com/23/senkyo291/msg/334.html