まるで一周忌ビジネスの様相 玉石混交な「保守政治家安倍晋三」関連本の大きな誤解 適菜収「それでもバカとは戦え」
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2023/07/14 日刊ゲンダイ ※後段文字起こし
安倍元首相の一周忌に行われた「安倍晋三元総理の志を継承する集い」/(C)日刊ゲンダイ
安倍晋三の一周忌ということで、関連の雑誌特集や書籍がいくつか出てきたが、中には安倍を「偉大な保守政治家」として礼賛するものもあった。もちろん、言論は自由だが、大事なことは事実を議論の前提にすることである。
先日、私は「安倍晋三の正体」(祥伝社)という新書を上梓したが、たくさんの肯定的なメッセージをいただいた一方で、「安倍さんを批判する適菜は極左活動家」といったツイートもあった。
私が極左活動家だったら、一部から右翼寄りと言われる「月刊日本」で保守思想の解説を何年間も連載しないとは思うが、こうした現象がなぜ発生するのか考えてみた。
おそらく、そのツイートをした人は、安倍を保守政治家だと思っているのだろう。そして「保守の反対は左翼」という感覚で、「適菜は左翼」と結論を出したのだと思う。つまり、前提がおかしいから、すべてを間違う。
前掲書でも詳しく述べたが、安倍は保守どころか、その対極にある人物だった。安倍の発言を検証しても、保守思想を理解していた形跡はない。マイケル・オークショット、ジョン・アクトン、シャルル=ルイ・ド・モンテスキュー、エドマンド・バーク……。保守思想の歴史は、権力の集中・私物化を図ってきた安倍のようなものを全否定してきたのである。
成蹊大学の元学長で国際政治学者の宇野重昭は「彼の保守主義は、本当の保守主義ではない」と言った。にもかかわらず「保守政治家安倍晋三」という虚像がつくられたのは、偏向メディアがデタラメな報道を続けてきたからだろう。
三島由紀夫は日本語の「極度の混乱」を嘆いた。
〈歴史的概念はゆがめられ、変形され、一つの言葉が正反対の意味を含んでいる〉〈長崎カステーラの本舗がいくつもあるようなもので、これでは民衆の頭は混乱する。政治が今日ほど日本語の混乱を有効に利用したことはない〉(「一つの政治的意見」)
安倍政権においては、徹底的に言葉の破壊が行われた。それだけにとどまらず、都合が悪くなると「反社会的勢力」という言葉の定義まで変えてしまった。公文書という国家の記憶も攻撃された。
戦後の無責任体質、知性の劣化、言葉の混乱、メディアの腐敗が、安倍というパチモンを支えていたのである。
適菜収 作家
近著に「安倍晋三の正体」「ニッポンを蝕む全体主義」「思想の免疫力」(評論家・中野剛志氏との対談)など、著書50冊以上。「適菜収のメールマガジン」も発行。本紙連載を書籍化した「それでもバカとは戦え」も好評発売中
http://www.asyura2.com/23/senkyo291/msg/170.html