※2023年7月10日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年7月10日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
故人を神格化(8日に明治記念館で行われた、安倍晋三元総理の志を継承する集い)/(C)日刊ゲンダイ
安倍元首相が演説中に銃撃され、死亡した事件から8日で1年。「安倍1強」支配の呪縛は今なお、永田町に色濃く根付いている。8日の一周忌法要後、岸田首相は生前の安倍と昵懇だったジャーナリストの櫻井よしこ氏らが呼びかけ人となり、明治記念館で開かれた保守色の強い会合に駆けつけ、あいさつ。臆面もなく、こう語っていた。
「安倍元首相の遺志は確実に受け継がれ、大きな花を咲かし続けている。憲法改正、安定的な皇位継承の方策をはじめ、拉致問題の解決に全力を挙げ、力強く次の時代を切り開いていく」
岸田内閣の支持率はマイナンバーを巡る相次ぐ問題で凋落。支持率下落に焦り、保守層の取り込みに必死なのか、もはや、岸田は安倍の「幻影」にすがることを隠そうともしない。
岸田も就任当初はアベノミクスと一線を画す「新しい資本主義」を掲げ、「成長と分配」で所得格差を是正すると息巻いていたが、今や当初の独自色は見る影もない。
日銀総裁としてアベノミクスの柱「異次元の金融緩和」を実に10年にわたって主導してきた黒田東彦氏が4月に退任。岸田は学者出身の植田和男氏を後任に選び、市場では緩和策修正の観測もあった。ところが、フタを開ければ従来通り緩和策の大枠を維持したまま。円相場は1ドル=140円台半ばへと再び円安・ドル高が進み、記録的な物価高も重なって実質賃金は14カ月連続のマイナスだ。
アベノミクスのもうひとつの柱「機動的な財政出動」にいたっては、岸田政権下でさらに加速。昨年末には新型コロナウイルスや物価高対策を中心に29兆円規模の巨額の補正予算を成立させ、今年度の当初予算は114兆円と過去最大まで膨らんだ。防衛費倍増や脱炭素、異次元の少子化対策と兆単位の予算を次々と積み上げ、今年度の債務残高対GDP比は224%と世界最悪の借金大国となる見通しだ。
故人の神格化は健全な民主主義国と言えない
憲政史上最長の8年8カ月に及んだ安倍政権の「負の遺産」を引き継ぎ、防衛費倍増に飽き足らず、敵基地攻撃能力の保有や防衛装備移転三原則の骨抜きなど、憲法破壊の軍拡と国民愚弄の安倍路線を加速させているのが、今の岸田である。
モーロクしているかはともかく、米国のバイデン大統領に一度は「私が(岸田首相を)説得し、日本は防衛費を飛躍的に増やした」と暴露されたように、安倍が取り組もうとした軍拡路線を次々と実現させることで、岸田は政権運営を安定させようとしている。そのためなら、もはや米国隷従を隠そうともしない。
「安倍元首相の魂は、まだこの世にとどまっている」──。安倍と近かった高市経済安保相は、一周忌を前にした4日の会見でそう語っていた。ある意味、「死せる安倍が生ける岸田を走らす」という今の政治状況を言い当てており、一笑に付すわけにもいかない。
自民党最大派閥として100人を擁する安倍派の次期会長も決まらないままだ。下村博文会長代理は「勢力を維持するために『安倍』の名を残している」と語っていた。凶弾に倒れてから1年が過ぎてもなお、安倍の「幻影」が支配する政治状況は、どう考えても健全ではない。法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言った。
「亡くなった安倍氏を美化し、故人の遺志だとして問答無用で対米追従の軍拡路線を正当化。改憲まで一気呵成に突っ走ろうとする今の岸田自民党の暴走は極めて危険です。首相自身が率いる岸田派が党内第4派閥に過ぎず、最大派閥の安倍派の力を借りて故人を権威付けに利用しているのでしょうが、『アベ路線』の正当性を吟味せず、故人を神格化するような動きは危うい。戦後日本の平和国家像をゆがめ、軍拡路線をひた走り、1強支配で忖度政治をはびこらせたのが、安倍政権の8年8カ月です。その検証すらロクに行わず、故人の遺志を金科玉条のごとく扱うのは、とても健全な民主主義国とは言えません」
いい加減「安倍カラー」にノーを突きつけろ
安倍が凶弾に倒れたことで噴出した自民党と統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の癒着の実態解明も、すっかり後景に退きつつある。選挙で教団が集票マシンの一端を担い、自民党が教団の活動にお墨付きを与える。両者の「ウィンウィン」の関係も放置されたままだ。
安倍の祖父・岸信介元首相と文鮮明教祖が握手して以来、半世紀以上に及ぶ癒着関係。教団との接点が確認された自民党所属の国会議員は実に179人に及び、最多の37人は安倍派の所属だった。ところが、安倍本人と教団との過去は棚上げされ、真相究明には程遠い。
事件から半年以上たった今年1月。安倍と教団の関係について、派閥最古参の細田博之衆院議長は与野党代表者らへの説明で、「安倍氏は大昔から教団と関係が深い」と語った。やりとりは非公開で、これ以降、細田は口をつぐんでいる。
安倍は韓鶴子総裁を称賛するビデオメッセージを送り、自ら進んで「広告塔」となって国政選挙で「教団票」を差配していたとされる。しかし、岸田は「本人が亡くなられた今、本人が何も釈明できないなど十分な調査ができない」として、安倍と教団との癒着関係を解明する気配はゼロだ。教団内部からも「長い関係」を指摘する声が上がった萩生田政調会長も沈黙を貫き通す。
教団との接点についてあやふやな説明を繰り返し、経済再生相を事実上更迭された山際大志郎も、関係を絶つとの自己申告だけで次期衆院選での党の公認候補に選任された。もはや教団側も余裕シャクシャク。韓鶴子総裁は韓国での集会で「岸田をここに呼びつけて教育を受けさせなさい」と発言したが、岸田政権はコメントを控えている。
教団との癒着解明に「終わったこと」に
教団との集団交渉を続ける被害対策弁護団のもとには、献金被害を訴える元信者や家族ら109人が集まり、賠償請求額は35億円を超える。問題は何ひとつ解決していないのに、岸田自民党はすっかり教団との癒着を「終わったこと」にして、幕引きを図ろうとしているのだ。
「岸田首相は『虎の威を借る狐』のようなもので、安倍元首相の“威光”を借りなければ政権運営が成り立たない。最大派閥の安倍派におもねって、安倍氏と教団との関係を不問に付すしかないのです。昨年11月以降、教団に対して宗教法人法に基づく質問権を6回にわたって行使。解散命令請求に踏み切る判断を先送りし続けているのも単なる“やっている感”の演出で、教団の温存策以外の何モノでもありません。亡くなった安倍氏の遺志を継ぐ格好を示し続けなければ、岸田首相の政権運営は成り立たない。岸田自民党に教団との癒着を絶つ考えなど、さらさらないと思います」(立正大名誉教授・金子勝氏=憲法)
いくら国民が「アベ政治」との決別を求めても、岸田にその気構えは皆無だ。
これ以上、「安倍の遺志に報いる」政治なんてまっぴらゴメンだというマトモな有権者は、その意思をしっかりと顕在化させていくしかない。
「まず改めて世論調査で安倍路線継続にノーを突きつけること。さらには地方選を含め、あらゆる選挙で議会を動かし、地方から中央に攻め上るような形で安倍路線に抵抗していくことが重要になってきます」(五十嵐仁氏=前出)
いい加減、今なお安倍カラーに染まる政治状況を変えなければいけない。
http://www.asyura2.com/23/senkyo291/msg/130.html