※2023年6月29日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2023年6月29日 日刊ゲンダイ2面
※文字起こし
国民を騙す政権(岸田首相=左)/(C)日刊ゲンダイ
〈マイナンバーカードを返納した。マイナカードは一度立ち止まり制度設計を見直さなければならない。しかし国は立ち止まらない。ならば返納運動を起こすしかない。ならば、まず私が返納しなければならない〉
28日発売の日刊ゲンダイの人気コラム「ラサール石井の東憤西笑」はこんな書き出しから始まる。「自民党は選挙のことしか考えず、支持率を心配しているから、少しずつでも声を上げれば、皆の力で譲歩を勝ち取れる」として、「あなたもいかがですか」と返納を呼びかけている。
コラムによれば、手続きは簡単だ。用紙1枚に記入するだけ。返納理由を口頭で伝え、それも記入する。ラサールは「情報の漏洩拒否」と書いたという。
こうした「自主返納」はいまや珍しくない。全国で静かに拡大しており、総務省も把握していると認めている。
例えば、中国新聞によれば、山口県の12市町で5月以降、少なくとも23件の自主返納があった。広島県内では今年度の返納が17市町で193件。北國新聞によれば、富山県内で今年度、8市町で28件、石川県内でも10市町で40件以上。南日本新聞によれば、鹿児島市では期限を迎えた更新分を含めて5月の返納が147件で、前年同月の2倍に上っている。いずれの自治体でも、返納理由は「不安があった」「制度が信頼できない」「トラブルが多すぎる」などが目立つという。
「私はマイナカードを作っていませんが、作った人は自公政権を支持している人が多いでしょう。マイナのメリットを信じていただけに、トラブル続出でリスクがあることが分かり、騙された気持ちになっているのではないですか。マイナ保険証が使えず、病院で10割負担という事態まで起きましたから」(法大名誉教授の五十嵐仁氏=政治学)
国民の「命」を盾にして「生存権」否定
ポンコツマイナカードへの国民の怒りは、岸田内閣の支持率を15ポイントも急落させるほどで、特に現行の健康保険証を来年秋に廃止し、「マイナ保険証」としてマイナカードに一本化することには猛反発。共同通信の世論調査で延期や撤回を求める声が計72.1%にも上った。
そりゃ「話が違う」という国民が圧倒的だ。コンビニで住民票が取れるなど「便利になる」と聞かされ、2万円分のポイント付与の“アメ”に釣られたら、突然、保険証の一体化でマイナカードが事実上、義務化されることになり、そして、トラブルが続出。別人の医療情報が誤って登録されたなんて聞けば「ちょっと待った」と言いたくなる。
岸田首相は慌てて「総点検」とか言い出したが、走りながらの総点検はあり得ない。いったん、マイナンバー関連のシステムはすべて運用を中止するのが当然だ。他人の医療情報をもとに診療や投薬をしてしまうミスが起きたら責任を取れるのか。
だが、聞く耳持たずの政権は、立ち止まるどころか、次々とマイナカードへの紐づけを進める横暴政治を加速させている。
今月2日に成立した改正マイナンバー法では、給付金を迅速に配るためとして、マイナンバーと銀行口座の紐づけを拡大する新制度もできた。年金の受取口座の情報を日本年金機構から政府に提供することを受給者に事前に通知し、「不同意」の連絡が1カ月程度なければ「同意」したと扱うという。
これも不安だ。同意を求める通知を見逃すことだってあるだろう。別人の口座に紐づけるトラブルが既に発生しているのに、“勝手に”同意とみなされて大丈夫なのか。
さらには、2026年の一体化が予定されている運転免許証。このままでは保険証同様、運転免許証まで廃止されてしまうのではないか。
というのも、政府は今月6日のデジタル社会推進会議で、非対面での銀行口座開設や携帯電話の契約の際、本人確認の手段をマイナカード一本とする方針を打ち出した。つまり、非対面に限るとはいえ、運転免許証が本人確認書類として使えなくなるということ。早晩、対面でも運転免許証が“身分証”扱いされなくなるんじゃないのか。こうして、あらゆるものがマイナに一元化されることになるのである。
立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)はこう言う。
「最も問題なのは、保険証という国民の『命』を盾にして、オレの言うことを聞けと迫るやり方です。憲法25条が定める国民の生存権を否定するようなもの。岸田内閣が国民のための内閣ではないことがよく分かります。マイナカードは任意だと、政府が決めた。一度リセットして、その時点に戻ることが政府の出発点のはずです」
ボイコットで政治を動かす。それが民主主義
だからこそ、マイナ普及の責任者である河野デジタル相が講演で、「マイナンバー制度は民主党政権がつくった。『おまえが始めたんだろ』と言い返したくなる」と漏らしたことにはア然だ。
民主党政権下で「マイナンバー制度関連法案」が国会に提出されていた経緯はあるが、失敗した「グリーンカード(納税者番号制度)」や「住民基本台帳ネットワーク」を導入しようとしたのは自民党政権だし、そもそも現状の「マイナンバー制度」が成立したのは、民主党政権の後の第2次安倍政権である。
保険証や銀行口座などどんどん紐づけを増やし、利用拡大を図ったことがトラブルを続出させているのに、河野は責任転嫁も甚だしい。
民主党政権時の厚労大臣だった立憲民主党の長妻衆院議員が、東京新聞の取材に当時の状況をこう明かしている。
「漏れたら取り返しがつかないから、医療情報の紐づけはやめてくれと大臣として言った。当時の政権全体でも、紐づけは相当限定しなければならない、なんでも紐づけるのはダメだという話で始まった」
つまり、危ないからやっちゃいけないことをガンガン進めているのが、岸田無責任政権だということなのだ。
諸外国では、大事な情報を同じカバンに入れないのは常識で、セキュリティーの概念から、分散化に動いている。この問題に詳しいジャーナリストの堤未果氏が本紙で語ったところによると、「米国にはソーシャルセキュリティー番号があるが、日本のようなマイナンバー制度はない。ドイツは納税者番号はあるが、何もかも一元化された共通番号制度は違憲とされている。イギリスは2006年にIDカード法が成立したが、政権交代時に廃止された」という。日本は、世界に逆行しているのである。
デジタル後進国の無能政治家が保身のために誤りを認めず、有無も言わさぬ手口で国民にマイナカード所持を強要するデタラメ。「秋までの総点検」を丸投げされた地方自治体も怒り心頭だ。
それでなくても、総務省はマイナ普及のために、カード交付率が高くなるほど地方交付税が上乗せされる、えげつない手法で自治体を競わせてきた。その結果、自治体が無理して、ミスやトラブルを多発させた側面もあるのだ。
岸田首相は「国民の不安払拭」だの「政府の最優先事項として取り組んでいく」だのと繰り返すが、何をいまさら。盗人猛々しいとはこのことだ。
「首相は『聞く耳』を持たない。国会は機能しない。選挙は当分ない。こうなったら、国民が声をあげ、カードをボイコットして政治を動かすしかありません。それが民主主義です。保険証は命に関わるものであり、カード返納は自分を守る行動です。返納運動が加速化したら、岸田政権も動かざるを得なくなる。マイナ問題は岸田政権の命取りになりますよ」(五十嵐仁氏=前出)
来月5日には、衆院の特別委員会で閉会中審査が行われる。河野デジタル、松本総務、加藤厚労の3大臣が出席する。野党は徹底追及して、岸田に「マイナは、いったん凍結」と言わせなきゃダメだ。
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