※2022年10月16日 日刊ゲンダイ2面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※文字起こし
どこまでこの円安は進むのか。さすがに、この値動きは異常だ。
10月12日に1ドル=146円台に突入し「24年ぶりの円安」と騒がれたのも束の間、13日も1ドル=147円台後半まで下落して「32年ぶりの円安」を記録。さらに、14日は148円台に下落してしまった。
円相場は今年初め、1ドル=115円前後で推移していたのに、米FRBが利上げを開始した3月から急激に円安が進行。対ドルの年間下落率は1973年の変動相場制導入後、過去最大となっている。
深刻なのは、もはや日本政府には円安にブレーキをかける手だてがないことだ。政府と日銀は9月22日、円安に歯止めをかけるために2兆8000億円の「円買い・ドル売り」の為替介入を実施したが、効果は4日間で消え、あの時より2円以上も円安が進んでいる。結局、2兆8000億円は無駄金に終わってしまった。
円安にブレーキがかからない限り、足元の物価高も止まらないだろう。日銀によると、円換算の9月の輸入物価は前年同月比48%上昇しているが、上昇分の5割超は円安によるものだった。
当面、円安はどこまで進むのか。金融ジャーナリストの小林佳樹氏はこう言う。
「日本政府は、145円、146円、147円……と円安の防衛ラインを次々に突破されています。次の防衛ラインは150円でしょう。円安が急ピッチで進んでいる直接の原因は、日米金利差の拡大です。米FRBはインフレを抑えるために、通常の3倍となる0.75%の利上げを3会合連続で決定している。次回11月の会合でも0.75%幅の利上げを決めると見込まれている。FRBはインフレが落ち着くまで来年も利上げを続ける可能性が高い。日米の金利差拡大という構造的な要因が変わらない限り、この円安は止まらないでしょう」
このままでは輸入物価も上がり続けることになる。
「日本売り」の原因は国力低下
円安進行に打つ手がない日本政府は、「円安はFRBの利上げが原因」とアメリカに責任を押し付けているが、本当にこの円安はアメリカの利上げだけが原因なのか。
鈴木俊一財務相は11日の会見で「まさにドルの独歩高だ」と不満げな表情で語り、12日のG7財務相・中央銀行総裁会議では、日本が主導する形で共同声明に「多くの通貨が変動率を高めて大きく動いたことを認識」との一文を盛り込み、アメリカの急激な利上げを牽制してみせている。
しかし、もし日本経済が強ければ、ここまで日本円が売られることはなかったのではないか。財務省元財務官の渡辺博史氏も、東京新聞(9月24日付)のインタビューで〈日米の金利差だけでここまで下落しない〉〈産業力低下など日本の国力が弱くなっていることが基礎にある〉と語っている。
実際、日本の国力はガタ落ちしている。国民1人当たりGDPは、かつてトップ争いをしていたのに、現在は27位に低迷。世界全体のGDPに占める日本のシェアも2000年は14.6%だったが、21年は5.1%に落ち込んでいる。
ここまで国力が低下した原因がアベノミクスにあることは、もはや明らかだ。
10年間も欠陥政策を続けてきたために、日本は借金漬けになり財政が逼迫、利上げすらできない状況に陥っている。立教大大学院特任教授の金子勝氏(財政学)はこう言う。
「もはや、日本政府は身動きが取れない状態です。赤字国債を発行しては、日銀に無尽蔵に引き取らせてきた結果、国債残高は1000兆円を超えてしまった。金利を1%引き上げたら、国債費は数年で約10兆円も増加してしまう危険な状況です。それに景気が回復していない日本は、他の主要各国と違って、たとえインフレが進んでも簡単に利上げできる状況ではありません。1ドル=148円というのは、90年のバブル崩壊で投資家が『日本売り』に転じた時と同じ水準。マーケットは政府・日銀の限界を見透かし『日本売り』に走っているのです」
日本では「GAFA」は生まれない
そもそも、アベノミクスは自国通貨を弱くする「円安誘導」を目的にしていたのだから、国力が低下するのは当然だ。
経済学者の野口悠紀雄・一橋大名誉教授は、本紙「注目の人直撃インタビュー」(9月30日付)でこう指摘している。
〈円安によって自動的に輸出企業は儲かるため、企業は技術開発したり、新しいビジネスモデルを構築してこなかった。だから、日本経済の体力が衰えたのです〉〈(日本と違って)高付加価値品化を実現したのが、米国であり、韓国です。日本は円安が進行したため、企業があぐらをかき、努力を怠ったのです〉
アベノミクスによる国力の低下は必然だったわけだ。経済評論家の斎藤満氏が言う。
「長らく低金利と円安という“ぬるま湯”につかってきた日本企業はこの間、技術開発や基礎研究、設備投資を怠ってしまった。これでは新しい産業を生み出せるはずがありません。最大の問題は、産業界にとって一番大切な基礎研究を10年近くもおろそかにしてきたことです。基礎研究は10年後、20年後に花が開き、実を結ぶ。この先、日本経済は、しばらく技術革新が起きない可能性がある。アベノミクスを継続している限り、アメリカで生まれた『GAFA』のような新興企業をつくるのは難しいでしょう」
なぜ欠陥政策を続けるのか
アベノミクスが、ここまで日本を弱体化させたのに、岸田自民党はアベノミクスをやめようとしないのだから信じられない。
しかも、いまや日本は自己破産同然なのに、効果不明の30兆円規模の補正予算を組もうとしているのだから、完全にトチ狂っている。
カネもないのに、防衛費を2倍に増やすというのも狂気の沙汰だ。
「アベノミクスの本質は、富める者をさらに富ませ、貧しい者をさらに貧しくする“貧富の格差”拡大政策です。実際、大企業はボロ儲けして内部留保を膨らませ、労働者の実質賃金は減ってしまった。分かりやすいのは、法人税を減税し、その穴を埋めるために、大衆課税である消費税増税を2度も強行したことです。労働者を安く酷使できるように、労働規制も次々に緩和してしまった。その結果、日本は中間層が崩壊し、国家としての国力を失ってしまった。“新しい資本主義”を掲げていた岸田首相は、総理になる前、分配を強調し、中間層の再構築を目指していたはずです。なのに、なぜアベノミクスを否定しないのか理解不能です」(政治評論家・本澤二郎氏)
岸田政権は、電気料金の高騰を口実にして、安倍政権が目指していた「原発の再稼働」まで強行しようとしている。本来、岸田政権が目指していたのは、原発依存ではなく、自然エネルギーの拡充だったのではないか。
亡国政策をやめようとしない亡国政権は、一刻も早く退陣させないとダメだ。
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