※2022年5月20日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2022年5月20日 日刊ゲンダイ2面
【欧州の戦争に前のめりの愚】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) May 20, 2022
岸田首相も自民党もこの戦争ではしゃいでいる
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/xm7D3DmYR9
※文字起こし
一体どこまで首を突っ込む気なのか。わざわざ「戦争の火種」をつくりに行くとしか思えない。心ある日本国民にとっては、まさに驚天動地の展開だろう。ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、岸田首相が日本の総理大臣として、初めてNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議に出席する見通し、と報じられたことだ。
NATO首脳会議は来月下旬にドイツで行われるG7(主要7カ国)の首脳会議に続き、スペインのマドリードで開かれ、ウクライナ侵攻への対応があらためて議論される見通し。NATO首脳会議で、岸田は、インド太平洋地域と欧州の安全保障は切り離して考えられず、NATOとの連携を強化すべき──などと訴えるという。
だが、NATOの実体は加盟国の集団的自衛権に基づく「軍事同盟」だ。ロシアがウクライナに侵攻した理由の一つは「NATOの東方拡大に対する脅威」だったはず。その軍事同盟の首脳会議の場に、なぜ、加盟すらしていないアジアの日本の首相が出席する必要があるのか。そこで「NATOと日本は連携する」などと拳を振り上げれば、戦果が上がらず、いら立つプーチン大統領をより刺激することになるのは子どもでも予想できるだろう。
米国のブリンケン国務長官は「非加盟のパートナーと協力を進めていく」などと言っているが、本音はロシア包囲網の「仲間」に日本を引っ張り込みたいだけ。岸田は世界のリーダーのふりをしている場合ではないのだ。
岸田の動きは中国を挑発するだけ
「力による現状変更を許すとアジアにも影響が及ぶ」「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」
ロシアのウクライナ侵攻以降、会見などでこう繰り返してきた岸田。日本と何ら関係ないNATO首脳会議へノコノコ出張っていくのも、その不可解で怪しげな理屈の延長線上にあるのは間違いないだろう。だが、「欧州の戦争」に前のめりになっている岸田の姿勢は百害あって一利なしと言わざるを得ない。
元外務省国際情報局長の孫崎享氏はこう言う。
「G7が対ロシア制裁を強め、各国に結束を呼び掛ける中、来年、G7サミット議長国になる日本としても、岸田首相がNATO首脳会議に出席することは必然的な流れだったのでしょう。ただ、岸田首相がNATO首脳会議に出席したからといって、ウクライナ侵攻の問題は平和解決しないし、ますますロシアを刺激する。さらに言えば、こうした日本の動きが中国に対する挑発にもなりかねません」
その通りだ。中国を「唯一の競争相手」と位置付ける米国にとって、欧州と東アジアの二正面作戦が続くことは避けたい。そのためには「防波堤」として日本の存在は欠かせないのだ。日米両政府は昨年4月の首脳共同声明で、半世紀ぶりに「台湾海峡」の平和と安定の重要性を訴えたが、今月23日の岸田とバイデン大統領の会談では「一方的な現状変更を抑止し、必要に応じ対処する」として、昨年の「一方的な現状変更に反対する」よりも踏み込む考えだ。
対中包囲網を強める日米の結束を示し、中国を牽制したいのだろうが、当然、中国は猛反発。「ウクライナ危機を口実に米国の覇権主義を守ろうとしている」として、米主導の「アジア版NATO構築」を強く警戒している。そんな状況下で、岸田が「ウクライナは明日の東アジアかも」なんて言えばどうなるか。中国と日本が一触即発の事態にもなりかねないだろう。
「集団的自衛権に基づく敵基地攻撃も可能」は最悪
バイデンにすり寄り、対中ロ包囲網にシャカリキになっている岸田は今度の日米首脳会談で、日本の防衛力を抜本的に強化する方針も表明するという。敵基地攻撃能力を含めた「必要なあらゆる選択肢」を検討する考えを伝える--とも報じられているが、何をトンチンカンなことを言っているのか。
その敵基地攻撃能力をめぐり、政府は17日の閣議で、他国を武力で守る「集団的自衛権としても行使は可能」とする答弁書を決定したが、冗談ではない。ウクライナ侵攻に当たり、「ドネツク、ルガンスク両共和国との集団的自衛権」「侵略に対する先制的反抗」を口実にしていたロシアと同じではないか。
そもそも、いつ、何を判断基準に攻撃するのか。
敵基地攻撃は先制攻撃との線引きが難しいとされ、さらに「集団的自衛権」の行使については、国会の安保法制をめぐる審議を振り返っても、「乱用が多く問題がある」と散々、指摘されていたはずだ。
そんなあやふや状態のまま「集団的自衛権に基づく敵基地攻撃も可能」となれば、どんな最悪な展開が起こるか分からない。ロシアのウクライナ侵攻を見ても分かるだろう。国民の生命と財産に直結する政策にもかかわらず、国会で十分な議論も審議もせずに決めていいワケがないし、何よりも戦後の日本政府が堅持してきた憲法9条に基づく「専守防衛」はどうなったのか。
最初から結論ありきだった安保戦略
今の岸田の言動を見ていると、今回のウクライナ戦争を改憲や軍事増強の理由にしようと考えているとしか思えず、それは「敵基地攻撃能力の保有」「防衛費のGDP比2%以上」……など、これまたイケイケの国家安全保障戦略(安保戦略)の改定提言をまとめた自民党も同じだろう。
19日の東京新聞によると、その安保戦略案に“お墨付き”を与えた政府の有識者会合は、多くが<敵基地攻撃能力の保有や防衛費の大幅増を持論にする元官僚、自衛隊の元幹部ら>だったというから、初めから「結論ありき」の「お手盛り」だったのは明らか。
おまけに議事録も議事概要も非公表というのだから、何でも好き勝手に決める独裁者プーチンと同じで、もはや民主主義国家でも何でもない。
岸田政権、自民党は「戦争国家」に向けて着々と準備を進めているのは疑いようがないが、恐ろしいのは、そんな独裁国家、軍事国家に突っ走る議論に「待った」をかけると「臆病者」のそしりを受ける今の風潮だろう。
ネット上でも<日本が攻められてもいいのか><平和ボケはすっこんでろ。核兵器を持つしかない>といった書き込みが見られるが、これらは政府を批判する国民を「くずどもと裏切り者」と罵っていたプーチンと何ら変わらないだろう。
こういう非常時こそ、感情論ではなく、冷静な視点、議論が必要ではないのか。
政治評論家の森田実氏がこう言う。
「英国の詩人スコットの言葉に『引っ込めることのできない所まで腕を伸ばすな』という名言があります。調子に乗り過ぎると取り返しがつかなくなる、という例えで、政治家に最も求められる姿勢ですが、今の岸田首相は米英におだてられ、イケイケドンドンと前のめり。NATO首脳会議に出席など、正気の沙汰ではない。大体、同じアジアの中国を軽視し、欧米偏重で日本が成り立つわけがありません。危機的な状況ですが、そんな岸田政権の危うさをメディアは全く批判しない。これは戦前よりもひどい状況だと思います」
岸田も自民党も、ウクライナ侵攻を「奇貨居くべし」のごとく、大ハシャギしているとしか思えない。
http://www.asyura2.com/22/senkyo286/msg/532.html