※2022年2月26日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2022年2月26日 日刊ゲンダイ2面
【日本はもちろん、欧米に打つ手なし】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) February 26, 2022
プーチンやりたい放題 世界恐慌という最悪シナリオ
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/8vEDHSN8Kl
※文字起こし
ウクライナ侵攻から、わずか2日。とうとう、ロシア軍が首都キエフに突入した。軍用車両が道を走り、無数の攻撃ヘリが上空を飛んでいる。このまま市街戦が始まってしまうのか。キエフは人口300万人の都市だ。市街戦となったら相当数の犠牲者が出るのは避けられないだろう。
キエフへの侵入を阻止するため、ウクライナ軍は近郊3つの橋を爆破したが、ロシア軍は進路を変更して突入したという。ウクライナのゼレンスキー大統領は、市民に徹底抗戦を呼びかける一方、ロシアに話し合いを求めている。ロシアとの軍事力の差は10倍だ。
キエフ在住の日本人とみられる複数のツイッターアカウントからは<窓の目の前を戦闘機が通った><キエフから出られない>といった声が上がっている。現地で取材を続けるジャーナリストの田中龍作氏は、本紙に「市民はシェルターに避難している。これからロシア軍による大統領府と国会議事堂の占拠が始まるのではないか」と語った。国連難民高等弁務官事務所は、ウクライナの避難民は10万人に達するだろうと推計している。
ロシア軍の動きは電光石火だった。入念に練られた計画だったのは間違いない。
プーチン大統領は、かなり以前からウクライナ侵攻を狙っていた節がある。すでに昨年7月には<ロシア人とウクライナ人の歴史的な一体性について>という論文を発表。
「我々の精神的、人間的、文化的な絆は一つの起源にさかのぼる」と説いている。さらに、トランプ前米大統領によると「プーチンはいつもウクライナを欲しがっていた」という。今回、満を持して長年の“野望”を形にした可能性がある。
この先、プーチンはどう動いてくるのか。
筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)はこう言う。
「プーチン大統領は、ウクライナのことを、同胞のロシアを裏切って、赤の他人の欧米につこうとしている“裏切り者”と見ていたはずです。彼はKGB出身です。KGBは裏切り者を許さない。ウクライナ侵攻は、発作的ではなく、計画的に行われたものだと思う。恐らく、ゼレンスキー政権を転覆させ、ウクライナに傀儡政権を樹立させるつもりでしょう。ウクライナ市民が次々に国外脱出していることについても、“ウクライナが親ロシア派だけになって好都合だ”と考えているのではないか」
“ならず者”の思い通りになろうとしている。
“ならず者”は外交力では止められない |
このままプーチンは“野望”実現に向けて突っ走っていくに違いない。もはや、日本はもちろん、欧米も止めることはできないのではないか。
矢継ぎ早にロシアへの経済制裁を打ち出しているが、プーチンは痛くもかゆくもないはずだ。実際、ロシア国内の経済界代表者らとの会合でも「制裁への準備はできている」と強気の姿勢を示していた。
「過去のどの制裁よりも大規模だ」と、バイデン米大統領が打ち出した金融制裁は、ロシア国内の大手銀行の“ドル建て取引”の制限だった。しかし、ロシアは2014年のクリミア併合による経済制裁を受けて、脱ドル化を進め、対中貿易を増やし、人民元建ての資産を増やしてきた。ドル建て取引を制限しても制裁効果は不透明だ。しかも、「最も厳しい制裁」といわれる世界の銀行決済取引網「SWIFT」からの排除は見送ってしまった。
それに、農業大国のロシアは、小麦の食料自給率も100%近くと、国民を飢えさせる心配もない。原油や天然ガスは、それこそ売るほどある。
これでは、プーチンにストップをかけられるはずがない。
“ならず者”を本気で止めるなら、軍事力で対抗するしかないのは明らかだ。しかし、バイデンは早々と「ウクライナには派兵しない」と宣言、NATOの事務総長も「軍を派兵する計画はない」と明言している。
軍事的な脅威がないと分かれば、プーチンがやりたい放題になるのは当たり前だ。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)はこう言う。
「プーチン大統領は外交力で抑えられるような相手ではありません。西側諸国は、実際に戦火を交えなくても、攻撃も辞さないという“ジェスチャー”を見せつけるべきでした。少なくとも、早期にウクライナのNATO加盟を認め、集団的自衛権を行使できる状況をつくっておけば、状況は違った可能性があります。ところが、欧米はウクライナのNATO加盟に消極的な姿勢を取り続けた。この時点で、プーチン大統領に『西側は本気で対抗する気はない』と見抜かれていたのだと思います」
核大国、エネルギー大国、農業国のロシアには、どの国も鈴をつけられなかったということだ。今回の一件では、「世界の警察」をやめたバイデン米国の威信の低下だけが鮮明になった。
もはやアメリカに秩序を守る力はない |
最悪なのは、これから世界経済が一気に悪化する可能性が高いことだ。「世界恐慌」に突入する恐れがある。
すでに足元では原材料の高騰に歯止めがきかない状態だ。
世界第3位の産油国であるロシアからのエネルギー供給がストップする可能性が高まり、原油先物は1バレル=100ドルを突破し、14年以来の高値を記録。さらに、農業国であるロシアとウクライナは、両国で世界の小麦輸出の25%を占めており、小麦相場も9年半ぶりの高水準になっている。半導体製造に使われる希少金属「パラジウム」も、世界の総産出量のうち4割をロシアが占めている。
世界中で進む“狂乱物価”が、各国経済に深刻なダメージを与える恐れがある。
経済評論家の斎藤満氏はこう言う。
「そもそも国際紛争は、人、物、カネの動きを止め、景気に悪影響を及ぼします。さらに、モノ不足によるインフレ圧力が急速に高まりやすい。そのため、各国は物価高を抑えるため、景気を冷やすことを覚悟して利上げに踏み切るケースが多い。実際、ウクライナ危機を受けて、米FRBは予定通り3月に利上げに踏み切るとみられています。急激に金融引き締めに動けば、当然、世界各国の景気に冷や水を浴びせることになるでしょう」
ロシアのウクライナ侵攻でハッキリ分かったことは、もはやアメリカには国際秩序を守る力はないということだ。
アメリカは国際社会の声を結集してロシアを孤立させ、軍事侵攻をストップさせる戦略だった。だが、シタタカなロシアは、中国、インド、イラン、さらに南米各国と手を結び、孤立化を回避している。
さながら世界地図は、欧米と中ロが対立する「新たな冷戦」のような状況になっている。このままでは、国際社会は戦後80年続いた平和と安定を維持するシステムを失い、混迷の時代に入る恐れがある。
「アメリカの力の低下を確信したプーチン大統領は、“非欧米同盟”を結成することも考えているはずです。核大国の中国とロシアが組んだら大きなパワーになる。中ロの2カ国は、経済大国と資源大国でもあるから、他国を支援して陣営につなぎとめることも可能でしょう」(中村逸郎氏=前出)
「新たな冷戦」が始まったら、経済は滞り、軍事緊張が高まることになる。世界は再び危うい時代に逆戻りしてしまうのか。
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