日銀はいつまで「利上げしない」と言い張るのか。物価上昇も見ないふり、迫る“ゼロ金利”政策の限界=吉田繁治
2022年2月13日
https://www.mag2.com/p/money/1157214
2022年の世界経済の最大の問題は、物価と金利の上昇です。これは日本にも確実に伝播され、その傾向も現れています。しかし、日銀は2%の物価目標には届かないと断言、これまでの政策を続ける予定です。日銀はいつ目を覚ますのでしょうか?(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
世界と日本を襲う「物価上昇」
2021年春まで想定されていなかったことが、消費者物価の上昇です。コロナによる外出規制から商品需要が減少し、約1年、物価は低下の傾向を示していたからです。
米国は、戦後の平均インフレ率が2.8%の国ですが、20年3月から21年3月の13か月は、1%台から0%台のCPI上昇でした。
※参考:マネー膨張が示唆する、ポスト・コロナの「資産バブル」リスク – ダイヤモンド・オンライン(2020年6月22日配信)
2021年8月のジャクソンホール会議でも、FRB議長のパウエルは、「CPIの上昇は短期的」としていました。21年秋には、物価は下がると見ていたということです。
ところが、資源・エネルギー価格は上がり、中国を含むアジアの生産国では、工場と港湾の操業停止から、サプライチェーン・ショックが起こり、米国の国内では、物流の停滞が起こっていました。
需要は、政府の5兆ドルの財政支出から増加していたのです。供給側のコストプッシュと、需要側のデマンドプル。この両方からのインフレでした。
賃金アップもインフレを後押し
米国では、21年夏から、賃金も5%から6%上がっていました(日本では0.1%上昇と低い)。
コロナにより休業した労働者の労働参加率が下がり、失業率(求職者数/雇用数)は2.9%に下がって、賃金が上がったからです。
賃金が上がると、米国企業は、日本よりは簡単に価格に転嫁するので、物価上昇は、国内要因からも構造的になります。
2021年11月にはFRBも、物価上昇が短期的ではないと認め、22年3月からのコロナ後、金融緩和の停止と利上げの予定を発表しました。
2021年12月のCPIの上昇は、FRBの事前予想を上回る7.0%と高く、22年1月も7%を超えると見られています(※編注:原稿執筆時点2022年2月9日)。
インフレ「7%」は第二次石油危機から40年ぶりの高さ
このため、2022年の利上げの回数は、最初3回(0.75%)とされていましたが、5回(1.25%)、7回(1.75%)、8回(2.00%)まで登場しています。
2022年3月の最初の利上げは、0.5%ではないかという観測も増えたのです。
7%のインフレは、第二次石油危機(1979〜1980)から40年ぶりの高さです。1980年には、FRBの議長ボルカーは短期金利を15%に上げ、約3年でインフレ退治を行いました。
米国の政策金利の長期変化
リーマン危機(2008年)からの米国金利は、歴史的に見て、FRBのマネー増発により、最低の水準だったことがわかります。
1980年代:15%〜8%
1990年代:8%〜5%
2000年代:7%〜4%
2010年代:2.5%〜2%
2020年〜:0.25%
※参考:40年の体験に基づく、米国金利上昇事例の回顧 -18回の金利上昇時の株価は14勝4敗【高田レポート】 – 岡三オンライン証券(2021年6月22日配信)
2021年まで、政策金利は0%から0.25%でした。それが40年ぶりに上がっていくのが、2022年3月からです。
インフレと金利
7%のインフレは、金融政策の介入と誘導がないときは、7%の金利と等価です。1年7%分の通貨価値(購買力)の低下を、マネーの側は回復しようとして、貸付金利を7%に上げるからです。
ただし、中央銀行は常に期待インフレ率より低く、金利を誘導します。中央銀行は、負債のある政府、銀行、企業の側に立つマネー政策を実行するからです。借りている側が、貸した側に払うものが金利です。
日銀は利上げをするのか?しないのか?
日銀の黒田総裁の発言は、次第に、意味不明になってきました。
国会で、3大メガバンク以外の金融機関の利益の低下と経営不振には、日銀のゼロ金利政策が影響しているのでないかと問われた際、色をなして興奮し「その影響はない」と強く答えました。
地方銀行は、国債の金利が重要な収入です。国債金利ゼロなら、利益が出ないのは当然です。
物価の上昇に対しては、「日本はCPIが上昇してない。2%の上昇まで、ゼロ金利政策を続ける」と黒田氏は答えています。
早く集計される東京都(区部)のCPIは、2021年12月が+0.8%、22年1月が+0.5%です(総合)。21年8月までのマイナス0.4%から、明らかな転換が見えます。
※参考:2020年基準 消費者物価指数 東京都区部 2022年(令和4年)1月分(中旬速報値)
さらにいえば、現在のCPIには、2021年の、菅首相による携帯電話料金の50%以下への低下が、-1.5%分の重みとして加わっています。22年3月から、この効果が、次第になくなっていきます。
携帯電話の料金値下げという、一度限りの特別の条件を除外すれば、物価はすでに「0.8%+1.5%=2.3%」上がっています。
ところが日銀は、2022年のCPIの上昇を0.5%から1%と予想し、金利ゼロを続けるとしています。3月、4月からCPIがまず2.0%に、次に2.3%に上がったら、日銀はどう答えるでしょう。
「異次元緩和が失敗に見えてきた日銀内には、政策を正当化するために混乱がある」としか思えません。
「ゼロ金利」を続ける日銀のインフレ認識の甘さ
日銀が作る「経済・物価情勢の展望(通称:展望リポート)」では、2022年のCPIを、1.0%(最低)〜1.2%(最高)としかしていません。
※参考:経済・物価上情勢の展望:2021年1月
そして、2022年はCPIの上昇は、異次元緩和の目標の2%に達しない。ゼロ金利を続けるとしているのです(※筆者注:国債を買い増しする量的緩和と、株ETFの買い増しは、21年3月に〈暫定的に〉停止しています)。
仮に、2022年の3月、または4月にCPIが2.0%〜2.3%に上がったとき、日銀はどう答え、何をするのか?疑問が残ります。
日銀は、21年12月に、年間84.5兆円の輸入物価が41.9%も上がり、企業物価が8.5%上がっていることに対して、以下のように述べています。
「…一方で、わが国では、物価は上がりにくいことを前提とした企業慣行や考え方が根強く残っている点を踏まえると、最終需要に近い川下・消費段階を中心に、コスト上昇の販売価格への転嫁が進まず、物価が下振れる可能性もある」
資源・コモディティ価格の上昇を、消費者物価に転嫁できない慣行があるとしています。
日銀が言っている「物価一般が上がっていない」ということは、実は正しくありません。
確実に上がっている日本の物価
部門と品目別のCPIを見ていきます。
部門 品目 CPI上昇
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食料 生鮮魚介 +15.8%
果物 +13.6%
調理食品 +2.4%
野菜 +2.4%
住居 修繕・維持 +2.6%
光熱水道 電気代 +19.3%
ガス代 +20.1%
衣服・履物 +2.8%
ガソリン +20.7%
教育 +1.6%
携帯電話 −53.6%
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※参考:2020年基準 消費者物価指数 東京都区部 2022年(令和4年)1月分(中旬速報値)
生活の基礎である食品は10%くらい、光熱費は約20%、ガソリンは20%も上がりました。全体を大きく引き下げたのは、1か月に家族2名でも、2台のスマホなら1万6,000円払っていた携帯電話だけです。
50%から30%に下げたのは、いつもむっつりしていた菅首相個人です。これがなかったら2021年夏からのCPIは、2%〜2.5%は上がっていたでしょう。
「日本は物価が上がりにくい」は間違った認識
「わが国では、物価は上がりにくいことを前提とした企業慣行や考え方が根強く残っている」というのは、エコノミストの通説です。
しかし実際は、輸入物価に現れる輸入商品である資源・コモディティの価格の上昇は、2021年の消費物価に相当部分が転嫁されています。
食品スーパーに行くと、「価格が高くなった」と誰でもわかります。米国(CPI+7%)や欧州(CPI+5%)ほどではなくても、「すでに2%から3%」のインフレでしょう。
この認識が「目が曇った日銀」には見えていない。あるいは意図して、見ていない。麻生元財務大臣は、カップ麺を500円と思っていたようなので、ムリですが…。
2022年の政策も、過去9年の日銀の金利ゼロ政策を正当化するために動いています。政府のコロナ対策を正当化するため、PCR検査を減らして「みなし陽性」を増やしている厚労省にも似ています。
政治家と官僚の全体が、「統計の操作も行って、現実のデータを捻じ曲げ、都合よく解釈する傾向」に陥っています。この病の根は、深い。2000年代初頭から始まり、安倍政権の8年では、内閣府の人事権を使って強化されたのです。
主流メディアは、米国のCNNやワシントン・ポストに似て、政権に加担しています。米国では民主党。「あったことも、なかった」とする中国に似ているのです。
岸田首相は、厚労省の医系技官幹部は首にし、日銀の政策委員と幹部は交替させるべきですが、その膂力(りょりょく)と意思は無い。
日本国民の立場では、困った事態です。当方は、国民の立場に立てるように心がけて、金融論・経済論・政策論を書いています。
http://www.asyura2.com/20/reki5/msg/1491.html