2021年10月15日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/136830
<民なくしてくらし>
正社員に転職し初めての月給は18万円だった。「奴隷みたいに長時間働いたのに、正社員の給料ってこんなに安いんだ」。今年2月の夕刻、東京都内の洋菓子店で販売員として働き始めた渡辺美咲さん(25)=仮名=は、銀行ATMの残高表示にぼう然とした。
◆月の労働時間は230時間超え
失望しつつ「決まった給料が入る安心感はある。長く働こう」と思い直した。元は都内の焼き鳥店のアルバイトで4年半ほど生活していた。当時は安倍政権の経済政策「アベノミクス」への期待が薄れ、経済成長と賃上げの好循環の実現は難しいことが明らかになってきた時期。政権の力点は非正規労働者の処遇改善など、分配政策にシフトしていた。
だが新型コロナウイルスの流行で真っ先にしわ寄せを受けたのは非正規だった。渡辺さんも週5日だったシフト(勤務体制)がコロナ禍で2日まで激減。月20万円ほどの収入は半減し昨年末にバイトを辞めた。
転職先は「シフトが削られない正社員」を条件に選んだ。しかし正社員の職場は、朝9時から夜9時まで12時間の長時間労働が前提のシフトが組まれていた。月の労働時間は230時間を超えた。
◆どれだけ残業しても上限は月24万円
「たまには百貨店の総菜でぜいたくできる」と憧れていた正社員生活。現実は1食500円の社員食堂を利用するのも惜しく、クタクタになった夜、帰る途中にスーパーへ駆け込んで値引き品を買い、昼食用の弁当を作る毎日だった。
疑問が膨らみ月給を調べてみた。基本給18万円弱は1日8時間の所定労働時間で時給換算すると1019円。東京都の最低賃金(最賃)と6円しか変わらず、前のバイトの1270円に及ばない。残業代は一定時間で打ち切られ、どれだけ残業しても月給は24万円が上限だった。「正社員になれば安心」と思っていたが、現実は「安定があるだけで低賃金」だった。
◆「低賃金で搾取」の抜本見直しを
都留文科大の後藤道夫名誉教授の試算では「低賃金労働者」とされる最賃(全国平均)の1.3倍以下の正社員は、2007年に4.1%だったのが20年に11.7%に増えた。後藤氏はその理由を政府が最賃を引き上げたからだけでなく、「勤続年数とともに給料が上がる正社員の雇用が縮小しているため」と分析する。
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正社員で働いた会社を辞め、今月から労働組合職員になった渡辺さん。働く人を支援する側に回ると自分と同じ経験をしている人が多いと実感した。衆院選で「分配」を訴える各党には「低賃金で搾取されるような働き方を根本的に変える政策を」と願う。(山田晃史)
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