2021年8月15日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/124388?rct=world
中国の習近平しゅうきんぺい政権がIT大手など民間企業に対する統制を強めている。膨大な個人情報を扱うIT大手を「国家安全」のリスクとみなしているほか、政策の軸足が経済成長から格差是正に移ったためだ。改革・開放から約40年間、市場経済の道を歩んできた路線の転換点となる可能性もあり、中国経済の先行きを懸念する声も出ている。 (北京・中沢穣)
◆IT関連株は軒並み急落
「今は受難の時で中国への投資は様子見する」。ソフトバンクグループ孫正義会長兼社長の10日の発言は、中国メディアからも注目を集めた。孫氏はネット通販大手、アリババ集団はじめ中国のIT業界に積極的に投資してきただけに、中国当局による統制強化への警戒を隠さない。
そのアリババは昨年12月、独占禁止法違反で当局の調査を受け、今年4月に182億元(約3000億円)の罰金処分を受けた。また米国で上場したばかりの配車サービス最大手「滴滴出行(ディディ)」は7月、当局の調査を受けてアプリ配信が停止された。
急転直下の動きを受け、中国のIT関連株は軒並み急落した。中国紙、環球時報は社説で「ネット企業は無秩序な成長に別れを告げよ」と説いた上で、「社会主義における民間企業であると肝に銘じるべきだ」と警告した。
◆米国へのデータ流出を拒む狙いも
中国経済をけん引してきたIT大手などへの統制強化は、成長の足かせとなりかねない。それでも当局が統制に転じた理由の一つには中国共産党が重視する「国家安全」に対するリスクがある。
アプリ配信が停止された「滴滴出行(ディディ)」の北京本社=AP
アプリ配信が停止された「滴滴出行(ディディ)」の北京本社=AP
例えばディディは、配車アプリを通じて、顧客の移動経路など膨大なデータを掌握することが可能だ。当局は、民間企業が政府を上回る情報を蓄積すれば、共産党の統治にとってのリスクになると警戒したとみられる。対立が続く米国へのデータ流出を拒む狙いもある。
もうひとつの理由は広がる格差への危機感だ。中国で10億ドル(約1100億円)以上の資産を持つ人は世界最多の1058人。一方で「月収1000元(約1万7000円)の人が6億人いる」(李克強りこくきょう首相)。若者には固定化した格差への絶望が広がり、努力をあきらめる「寝そべり族」が流行語になった。
習政権は、格差を縮小させて国民全体で豊かになるという意味の「共同富裕」をスローガンに掲げる。5年に一度の党大会を来年に控え、IT大手をたたいて成果としてアピールしたい思惑が透ける。
◆改革・開放の歩みから逆流
しかし経済界では、IT企業の成長を促してきた自由な市場環境は過去のものとなり、「恣意的しいてきな統制強化におびえる時代」(北京の日本企業関係者)が到来したとの受け止めもある。
当局による締め付け対象は広がっており、深刻な少子化を背景に、多額の教育費負担が少子化の一因だとして、塾などの教育産業は営利活動に大幅な制限がかけられた。ゲーム産業も国営メディアから「ネットゲームは精神的アヘンだ」と批判を浴び、株下落で株価にして総額3000億元(約5兆1000億円)分が消えるなど市場の不安は広がる。
一方で経営効率の悪い国有企業などの既得権益は手つかずのままだ。改革・開放の歩みを逆流するような統制強化が、「公正と正義」(習氏)の実現につながるかは見通せない。
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