※2021年7月31日 日刊ゲンダイ1面 紙面クリック拡大
※紙面抜粋
※2021年7月31日 日刊ゲンダイ2面
【平然と私権制限、居酒屋いじめ】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) July 31, 2021
「TVで五輪を見てろ」という国民愚弄
日刊ゲンダイ pic.twitter.com/6GWTlSERSR
※文字起こし
何度繰り返されれば、国民は平穏な生活を取り戻すことができるのか。
政府は、30日夕、新型コロナウイルス感染症対策本部(本部長・菅首相)を開き、埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を緊急事態宣言の対象に加えることを決めた。北海道、石川、京都、兵庫、福岡の5道府県には宣言に準じる「まん延防止等重点措置」を適用する。いずれも期間は8月2日から同31日までで、東京都と沖縄県に発令中の宣言の期限も8月22日から同31日に延長する。
宣言下の飲食店には引き続き酒類提供の停止を求める。重点措置の区域でも、酒類提供の停止を要請するが、「感染が下降傾向にある場合」には知事の判断により、感染対策に関する一定の要件を店舗が満たせば午後7時まで提供を認めるという。
だが、すでに酒類提供の停止を呼び掛けている東京で、新型コロナの新規感染者数が3日連続で3000人を上回る状況を見れば、果たしてどこまで効果があるのか。もはや「私権制限による居酒屋いじめ」という言葉がピタリ当てはまるのではないか。
30日夜、首相官邸で記者会見した菅は「新型コロナとの闘いのゴールは国民の命と健康を守ることで、必要なことは地域で機能する医療体制の維持だ」「今回の宣言が最後となる覚悟で、全力で対策を講じていく」と語っていたが、「覚悟」「全力で対策」という菅の言葉はもう聞き飽きた――というのが国民の本音だろう。
今の状況は「カミカゼ・オリンピック」
<感染者が過去最多の東京でオリンピックのバブルは維持できるのか>
29日付の米NYタイムズは、日本国内の新型コロナ感染者数が過去最多となった状況を受け、<安心で安全な大会という約束が試されている>と報道。バブル方式が維持されず、アスリートらが感染する可能性があることも指摘した上で、日本政府の緊急事態宣言の延長や地域拡大に対しては、<もはや大きな効果をもたらすかどうか明らかではない>と疑問を呈していた。
陸上選手団が自主隔離となったオーストラリアのメディアも、<五輪コロナのカオス>と皮肉交じりに報じていたが、これが常識的な見方だろう。
ところが菅政権は違う。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長が29日の参院内閣委で「今の最大の危機は社会一般の中で危機感が共有されてないことだ」と強い懸念を示しても、政府の「新型コロナウイルス感染症対策本部長」である菅の危機感は乏しい。
連日のように更新しているツイッターを見ても、<金メダルおめでとうございます!>と日本勢のメダル獲得に反応するばかりで、コロナ対策の呼び掛けは21日以降、一度もなかったからだ。
揚げ句、過去最多の新規感染者数に対する受け止めを求める内閣記者会の取材要請を拒否していたから言語道断。コロナ禍で五輪強行という蛮行の果て、予想されていた以上の感染地獄絵を招きながら、責任を取らないどころか、まともな説明も謝罪すらない。いつもの官僚原稿が間に合わなかったのかもしれないが、それでいて緊急事態宣言の乱発なんて、許されると思っているのか。まったく冗談ではない。
福田赳夫元首相の秘書を務めた中原義正氏がこう言う。
「コロナ感染者は増え続け、誰が見てもバブルがはじけているのは明らか。それなのに政府の危機感はゼロに等しく、朝から晩まで五輪だ、メダルだと浮かれている。菅首相に至っては当事者意識がまるで感じられず、すべてが他人事。かつての大本営と同じで、NYタイムズが懸念を示すのも当然だろう。いずれ東京五輪は海外で『カミカゼ・オリンピック』と揶揄されるのではないか」
五輪選手の活躍を“人質”にコロナ無策の菅政権 |
「国民の命と健康を守り抜く」
首相就任来、幾度となくこう繰り返してきた菅。ところが、新型コロナの感染爆発と言ってもいい現状下で、国民に向けて発したメッセージは「不要不急の外出は避けていただいて、オリンピック・パラリンピックはテレビなどで観戦をしてほしい」だから呆れるばかり。国民を愚弄するにもホドがあるだろう。「パンとサーカス」の言葉じゃないが、おそらく菅は、サーカス(=五輪)という“娯楽”で国民の目をごまかせると考えているに違いない。
だが、国民が切望しているパン(=定額給付金・協力金・補償金)をケチり、コロナ禍で強行開催したことによるサーカスのツケも将来負担させられるかもしれない中、そんな菅の薄汚い思惑に騙される国民はどれほどいるのか。
しかも、東京五輪をめぐる一連の騒動で、国民は、IOC(国際オリンピック委員会)が仕切る五輪の正体にも気が付いた。「平和の祭典」「スポーツの力で世界をつなぐ」などと耳当たりのいい言葉を掲げてはいるものの、開催都市、開催国の新型コロナの感染状況などはお構いなし。一部の特権階級に牛耳られた利権とカネまみれの興行であり、その闇を「感動」や「勇気」という言葉で“ロンダリング”するのが五輪なのだ。
国民の生命も財産も守る気のない悪辣首相が、そんな興行を見てほしい、とはよくぞ言ったもの。まさに無能男の勘違いの極みと言っていい。
感染防止の切り札は「五輪中止」
「ワクチン接種者数が極めて順調に増えているため、その懸念は当たらないと思う」
菅は、五輪開催が新型コロナの感染拡大につながっているのではないか――との記者団の指摘に対してもこう反論していたが、なるほど、確かに過去最多の新規感染者数になった直接的な要因は「五輪」ではないだろう。では誰かと言えば“犯人”は決まっている。緊急事態宣言の発令中にもかかわらず、開催を強行し、社会に根拠なき楽観論をふりまいている無為無策の「政府」だ。
その政府内からは「感染拡大を止める切り札がない」なんて声も漏れているらしいが、何をとぼけているのか。切り札なら「五輪中止」という最高のカードがあるではないか。菅だって6月9日の党首討論で、「国民の命と安全を守るのは私の責務だ。そうでなければ(開催)できないということを私は申し上げている。守れなくなったら(五輪は)やらないのは当然」と断言していたはずだ。国立国際医療研究センターの大曲貴夫氏が「尋常じゃない増え方。爆発的な感染拡大に向かっている」と指摘していた通り、まさに今が「国民の命が守れなくなった時」なのであり、菅は国民の生命と財産を守るためにも、すぐに「五輪中止」の切り札を切るべきなのだ。
それなのに口を開けば「そこはない」「当たらない」とゴニョゴニョ繰り返す。それこそ菅自身が総理大臣の器に「当たらない」のは明々白々だろう。高千穂大教授の五野井郁夫氏(国際政治学)がこう言う。
「人流を抑えるため、国民に外出自粛などを求めるのであれば、休業補償などの手厚い対策が必要なのは言うまでもない。そこから地道に始めなければ今の感染拡大の状況は変わらないのです。ところが、今の政府、菅首相は何もしない。五輪選手の活躍を“人質”にする形で世論批判をはぐらかしている。まったく論外で、一刻も早く総退陣してほしいと思います。無策の極みが、今の状況を招いたことを忘れてはなりません」
まずは菅政権を終わらせることがコロナ感染対策の一歩目だ。