想像より遥かに深刻なグローバル海運危機
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2021年7月30日 マスコミに載らない海外記事
2021年7月21日
F. William Engdahl
New Eastern Outlook
過去数十年、市場経済のグローバル化到来で、アメリカとヨーロッパ企業の大規模な製造アウトソーシングが開花して以来、世界の海上貿易も指数関数的に膨張した。その結果、アジア、特に中国が、iPhoneから抗生物質や、その中間のあらゆる物のため、不可欠な製造拠点となった。貿易に関する新たな規則を制定するための世界貿易機関WTO創設が主な動因だった。それは、史上、一層脆弱な商品の輸送のため、グローバル・サプライチェーンも作りだした。海洋コンテナ輸送の経費上昇は、増大する危機を示している。危機を悪化させているのは、グローバルなCOVID対策に起因する巨大な労働力不足だ。
危機の起源
ドイツを本拠とするスタティスタの研究部門によれば、石油、石炭、穀物を含め世界の全商品の約80パーセントが海路で行われている。その合計で、価値上、世界の海上コンテナ貿易が、全ての海上輸送取り引きの約60パーセントを占め、2019年、約14兆USドルと評価されている。海運は、良かれ悪しかれ、世界経済の動脈になっている。
これは、1990年代にWTOを創設し、海上輸送が安い限り、生産が遥かに安い国への製造のアウトソーシングが有利にはたらく新たな規則の直接の結果だ。2001年、中国がWTOメンバーになった後、彼らは新たな規則の最大受益者になり、10年内に中国は「世界の工場」と呼ばれた。エレクトロニクス、薬、織物、合成樹脂や化学物質などの産業丸ごと、工場組み立てのため、世界最低賃金の中国に移転された。欧米市場への輸送費が比較的低かったがゆえに、それが機能したのだ。
中国の経済生産高が増大するにつれ、中国はアメリカのロングビーチやロサンゼルス、カリフォルニアや、ヨーロッパのロッテルダムなどに、彼らの商品を安く出荷し、世界の巨大輸出国になった。巨大小売店ウォルマートは中国製商品の約80%という、中国商品の莫大なシェアの輸出先だった。これは、テキサス表現のnot small beer(取るに足りないもの)ではない。ウォルマートは年間売り上げ5490億ドルで収入が世界最大の企業だ。このグローバリゼーションの結果、現在中国には輸出を扱うため、世界最大17港のうち8港がある。
中国からの出荷拡大と、日本と韓国の出荷をあわせると世界の主要コンテナ出荷だ。その肝要な経済の流れが、未曾有のストレス下にあり、世界商品サプライチェーンにとって、まもなく世界中で、壊滅的な経済影響をもたらしかねない。
WHOが新型コロナウイルスと命名したものが武漢に初めて現れ、2020年3月に世界的流行とWHOが宣言した際、各国が、平和時には前例がない経済を封鎖して、世界貿易に対する影響は、即座で、巨大だった。欧米バイヤーが、中国や他のアジア生産国製品の注文を凍結した。2020年、コンテナ船は、至るところでキャンセルされた。その後、アメリカとEU政府が未曾有の何兆ドルもの刺激策を公表すると、人々がこの刺激策を、特にアメリカで、大部分が「中国製品」のオンライン購入に使い始めたため、アジアから欧米へのコンテナ需要が供給と比較して相対的に爆発した。
それは、かつて低費用海上コンテナ輸送だったものに深刻な破壊的影響を与えている。近代的なコンテナ港、特に中国の港湾は最高水準で、コンピュータが自動化クレーンで、毎日何千個ものコンテナ積載作業を自動化した。ロングビーチやハンブルグのような仕向け港で、コンテナは、トラックや列車に積み替えられ、目的地に輸送され、返送のため、港にもどされる。今危機に瀕しているのは、この複雑なサプライチェーンだ。
2019年、コロナ流行危機前、海路で中国からヨーロッパまで、40フィート・コンテナの輸送経費は800-2,500ドルだった。織物、薬やスマートフォンのような製品の大部分で、鉄道の可能性にもかかわらず、海上コンテナは、明らかにアジア-ヨーロッパ貿易で最良の低コスト選択肢だった。アジア・北アメリカ貿易にとって、空輸は高価な代替案だったから、それは、ほぼ唯一の選択肢だった。現在コロナのおかげで、飛行機旅行は50%減少しており、コンテナ船は事実上、唯一の長距離の選択肢だ。
港から港への直物相場は、例えば、中国の最大コンテナ港上海からロサンゼルスまで、2020年早々のWHOコロナ流行直前、Drewry Supply Chain Advisorsによれば、40フィート・コンテナ一個約1,500ドルで、2020年9月の4,000ドル、2021年7月8日の週で、9,631ドルまで急騰した。これはコロナ流行前の2020年始めからすれば、600%以上の値上がりだ。これも今発生するのを目にしている世界インフレの一つの原因に過ぎない。
しかも、これは最悪ではない。Drewryによれば、「我々は中国から西海岸まで15,000ドルという報告を聞いており、遅い予約を優先して積み込むのに運輸会社が、標準FAK[品目無差別運賃]に追加プレミアムを徴収しているのを知っている」。二年で1,500ドルから15,000ドルへというのは、10倍の値上がりだ。上海からロッテルダムまでの運賃も、2020年始めの2,000ドル以下から、7月の12,000ドル以上へと、600%急騰した。
コロナ流行の始め、パニック買いが起きた商品を一つ挙げると、中国はグローバル供給の11%を占め、トイレットペーパー輸出で世界一位だ。海上運賃経費が600%も上がれば、トイレットペーパーのような普通商品の価格が、大幅にあがったり、世界的規模で、重要な場所で不足したりするのが避けられなくなる。このような圧力が、あらゆる商品にかかると、海上コンテナ料金が一般的インフレの重要な動因になる。
コンテナのボトルネック
2020年始め、世界中の国々がコロナウイルスの恐れから、前例がない封鎖をするにつれ、世界中の輸送が凍結した。至るところの工場が閉鎖された。2020年末、中国が封鎖を解除するにつれ、流れはゆっくり再開した。2020年末、様々な各国政府の膨大な経済刺激資金が、特に、アマゾンなどのインターネット商業プラットホーム経由で、アジア商品に対する需要回復をひき起こすことが明確になった際、利用可能なコンテナの劇的欠乏が進展した。2020年の初め※から、アメリカだけでも、合計9兆ドルの財政、貨幣刺激策が実施された。世界史的なものだ。
世界貿易の流れは、人体の血液循環システムに例えることができる。港湾の混雑で渋滞が起きたり、スエズ運河が閉鎖されたりするのは、人間の循環系における血栓に似ている。2021年3月、台湾のエバグリーン社の巨大コンテナ船Ever Givenによるスエズ運河の閉鎖は、中国・ヨーロッパ間の世界主要水路の一つで船舶航行をほぼ一週間止め、コンテナ輸送にボトルネックを起こし、まだ完全に解決されていない。更に、世界で4番目に大きいコンテナ港深センの一部である塩田区巨大コンテナ港での中国の新たなコロナ検査で輸送の深刻な途絶をもたらし、料金上昇を悪化させている。こうした途絶は続く可能性が高い。
2020年4月までに、封鎖が世界規模で広がった際、突然何百万というコンテナが中国に戻れず、様々な港町で立ち往生した。空箱が必要でない場所に置き残され、回送は計画されなかった。2020年と2021年の、コロナ封鎖による大規模な労働力途絶が、アメリカ中で、港町のみならず、国中の全てのコンテナ貨物基地や内陸輸送ラインに影響を与えた。中国が産業再開を始めた際、コンテナを中国に戻す方法がなかった。さらに運輸業者が「ブランク・セイリング」つまり寄港キャンセルを導入するにつれ、空箱が残され、中国港湾に回送され損ね、空コンテナの需要と供給間の不適切な組み合わせが悪化した。世界的「輸送凝固」が出現した。
デンマークのコンサルタントSea-Intelligenceは、約60%ものアジアのコンテナ不均衡は、今最悪の港湾混雑問題があるカリフォルニアや他の西海岸港への投資欠如に起因する北アメリカのためだと推定している。
日本のあるコンサルタント企業は、北米のコンテナ・ターミナルの生産性は、労働時間の短さと、組合員の仕事を奪う、それ以上のオートメーション化に対する組合の反対で、最高50%アジアのターミナルより劣っていると推定した。これまで8カ月にわたり、アメリカ港湾、小売業者や輸出業者に打撃を与えたサプライチェーン混乱の広範囲な調査の一環として、アメリカの規制当局、連邦海事委員会が利用可能な設備の問題を「調査する」という声明は心強いものからほど遠い。アメリカのコンテナ港湾のボトルネック問題は、少なくとも2015年以来、慢性的で深刻だった。海事委員会の仕事は、そうしたことが問題になる前に、これら渋滞箇所をモニターすることだ。彼らがそうしていないのは明白だ。
2020年末、中国製品に対する需要が回復した際、これら全てがコンテナ料金に影響を与えた。コンテナ欠乏を悪化させているのは、世界規模で膨大な量の世界貿易を凍結させた封鎖だった。必要な新コンテナの製造は、コロナ対策に起因する人的資源と同様、鉄鋼と用材の欠乏によって、厳しく限定されている。
近年の中国から出荷される商品に対する世界の圧倒的依存は、封鎖のさなか世界経済の目だつ弱点となった。スムート-ホーリー関税法にまつわる経済神話とは違って、このようなグローバルな相互依存は、1930年代の世界恐慌の主要原因ではなかった。当時、原因は、ニューヨーク銀行に集中した国際負債の構造だった。
船員労働力の危機
世界中の重要港湾でのコンテナ入手と港湾停滞の危機を悪化させているのは、船員の人的資源危機の増大だ。コンテナ輸送の一般船員の大半はアジアで採用されている。国際海運会議所によれば、フィリピンが、一般船員(熟練船員)の最大供給元で、続いて中国、インドネシア、ロシア連邦とウクライナだ。グローバルなコロナ封鎖と、最近の、いわゆるインドあるいは「デルタ」コロナ変異株を巡る警戒は、致死率データの欠如にもかかわらず、船員労働力上で大惨事を引き起こした。コロナ流行前の2020年、船員労働力は既に非常に逼迫していた。この労働力問題は、船荷料金にも影響する。
7月、コンテナや他の船で、推定9%、100,000人の船員が、コロナ感染に対する規制で、中国からアメリカに至る国々が上陸を禁止したため、法的雇用期間を過ぎて、船で立ち往生していた。それは乗組員が交代していないことを意味し、海で立ち往生させられた船員は、心理的、物理的ストレスが増大しており、自殺さえしかねない。さらに推定100,000人か、それ以上の船員が、コロナ封鎖のため、各国で陸に立ち往生している。国連の海上の労働に関する条約に明記されている通り、許可された最長契約期間は11カ月だ。通常約50,000人の船員が毎月船に乗り降りして回転している。今そのごく一部しかない。国際運輸労連によれば、船員は、コロナ流行前より約25%少ない。労連事務局長は「世界の大手業者に、これら疲労困憊した人々の一部は最終的に折れてしまう一部は最終的に折れてしまう時に覚悟しておく必要があると我々は警告している。」と述べた。
特にカリフォルニアのロサンゼルスやロングビーチがコロナ対策封鎖で、主要なアメリカ-アジア港の何千人もの労働者を陸上に留めたため、「魔法使いの弟子」の話のように、更に多く到着する前に、膨大に溜まったコンテナを回送できなかったのだ。北アメリカは現在60%のアンバランスに直面している。到着コンテナ100個のうち、わずか40しか輸出されないことを意味する。100個中60個のコンテナが溜まり続けているのだ。
Drewryは、これらの否定的要因が、今後数年、世界中の商船隊の高級船員や一般船員に、10年間で最大の不足をもたらすと推定している。この全てが、現在のグローバル化した世界サプライチェーン輸送システムが、いかに壊れやすく脆いかをはっきり示している。世界的なCOVID封鎖は、大半の人々が考えるより遥かに深刻な長期的影響を与えている。世界経済は、電灯のスイッチのように、カチッと消したり点けたりできない、ダイナミックで極めて複雑な、相互に結びついたクモの巣なのだ。
F. William Engdahlは戦略リスク・コンサルタント、講師。プリンストン大学の政治学位を持つ石油と地政学のベストセラー作家。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。
記事原文のurl:https://journal-neo.org/2021/07/21/global-shipping-crisis-far-worse-than-imagined/
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