※2021年5月17日 日刊ゲンダイ1面 紙面クイック拡大
※紙面抜粋
※2021年5月17日 日刊ゲンダイ2面
【緊急事態の延長は必至】
— 笑い茸 (@gnXrZU3AtDTzsZo) May 17, 2021
誰もが意識し始めた 「五輪中止」で菅内閣は「総辞職」
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まん延防止等重点措置にとどめるはずが、一転、緊急事態宣言の対象地域拡大。政府の新型コロナ対策の方針が一夜にして変わった舞台裏を、この週末、メディア各社が報じていた。そこから透けて見えるのは菅政権の救いようのないポンコツぶりだ。専門家らが北海道などでの感染防止策の強化を迫っても、政権は危機感ゼロ。基本的対処方針分科会を、毎度のごとく政府方針の「追認機関」と見て、政治主導で押し切れると思っていた。
だが、変異株の猛威はこれまでとは次元が違う。政権にはその認識が決定的に欠けていた。
無策の政権を尻目に、専門家らは14日の分科会開催の前夜、非公式会合を開き、政府原案を覆す方向で動き出す。北海道、広島、岡山の3道県に緊急事態宣言を拡大することで一致し、分科会で西村経済再生相を追い詰めたのだった。
慌てた西村は分科会を中座し、菅首相、加藤官房長官、田村厚労相と4人で議論。わずか10分で、宣言拡大へ方針転換となった。「それが専門家の結論なんだろ。もう決めているんだろ」という菅の“白旗”が決め手となった。
このドタバタ劇で浮き彫りになったのは、経済優先に前のめりで科学を軽視してきた菅の完全な敗北だ。この国のコロナ対策において、もはやリーダーシップを発揮できない首相のみじめな姿である。
北海道が宣言発令を求めたことが政府の方針転換の「引き金を引いた」との見方もある。北海道の鈴木直道知事は、菅が擁立を主導した近しい関係。菅は、子飼いの知事にも専門家にも身内の閣僚にもサジを投げられた。
与党内からは、早速、「政府案が唐突に蹴られるなんてあり得ない」「首相の判断を誰も尊重しなくなる」という厳しい声が聞こえてくる。
ダンマリ小池知事は風向きを見極め
そんな無能首相が、東京五輪開催に固執して「安心・安全の大会を実現することは可能だ」と強がってみせても、誰も支持しない。すでに、永田町や都庁だけでなく、世論までもが「五輪中止Xデー」の話題で持ちきりだ。
「世論の空気に敏感な東京都の小池知事なら五輪中止を言い出しかねない」「7月4日投開票の都議選に向け、小池知事が顧問を務める『都民ファーストの会』の公約で五輪中止を打ち出す」――。こういった観測が国会周辺や都庁幹部らの間で囁かれ始めたのがきっかけだが、海外メディアだけでなく、日本の大手メディアも引用や現状分析の形ながら「五輪中止」に言及し始めている。
共同通信が15、16日に実施した世論調査では、五輪中止を求める意見が59・7%に達し、中止論が上昇。宇都宮健児弁護士が呼び掛けた、五輪中止を求めるオンライン署名は、歴代最速ペースで35万筆以上を集めた。ネット上では、「中止表明」のワードがトレンド入りし、いまや世論は、小池がいつ五輪中止を表明するのか、待ち構えているような状況なのである。
時事通信社解説委員の山田惠資氏が言う。
「『小池知事が五輪中止を言い出すのではないか』という観測が出すぎているので、小池氏はかなり慎重になっているようです。いまは自分から率先して中止の流れをつくろうとは思っていないでしょう。だから黙っている。ただし、五輪中止が現実味を帯びてくるようなことになれば話は別。その時に小池氏は動き、勝負に出るのではないか。都知事の主導権で五輪を返上したという流れをつくる可能性があるとみています。いまはダンマリを決め込んで、淡々と五輪準備を進める姿を見せ、風向きをじっと見極めているのでしょう」
感染拡大とワクチン接種遅れで五輪は狂気の沙汰 |
日本のコロナ感染拡大の現状を冷静に見つめれば、2カ月後に五輪が開けるとはとても思えない。それが、6割近くが中止を求める世論の率直な心情だろう。
すでに感染の9割が変異ウイルスに置き換わったとみられているが、インド株の猛威はこれからだ。ビジネス客の入国を維持したい自民党の失政で、水際対策はまたもや失敗した。14日、東京医科歯科大が、海外渡航歴がなく感染経路が不明の40代男性のインド型感染を発表、国内でインド株の市中感染が広がっている可能性があるという。
国立感染症研究所は英国株について、従来株より1・3倍感染力が強く、重症化リスクも1・4倍と推定。インド株は英国株よりさらに感染力が強いとされ、「英国株の感染スピードは従来株の1・5倍、インド株は英国株の1・6倍」というベルギーの大学教授の推定もある。国内でのインド株の市中感染が広がっているとしたら、今後を想像するのも恐ろしい。
当然、専門家の危機意識もそこにあるはずで、現状の緊急事態宣言は5月31日が期限だが、宣言解除には慎重だ。
分科会の尾身会長も、リバウンドを起こさない程度まで感染状況を抑えることが解除の要件だとして、現在のステージ4からステージ2相当にまで下がらなければ解除は難しいとの見方を示している。
菅が再び科学を無視して専門家を抑え込むようなことでもしない限り、どう考えても5月末での解除なんて無理。宣言延長は必至である。と同時に、5月31日に五輪中止表明との見立てもある。東京都のある局長は「緊急事態宣言が再び延長されることになれば、五輪開催は難しくなる」と漏らしているという。
もう首相は限界
米科学誌「サイエンス」(電子版)が13日、「国民のワクチン接種1% 五輪の準備はできているのか?」との記事を掲載していたが、ワクチン接種の進まない日本で五輪開催なんて正気の沙汰ではないことは誰の目にも明らかだ。主催都市の東京都や大会組織委員会だって、誰もが「五輪中止」を意識せざるを得ない状況下にあることは認識しているだろう。
政治評論家の森田実氏がこう話す。
「これだけの感染拡大とワクチン接種の遅れで、危機的な状態はまだ続く。いま政治がやるべきことは、コロナ対策に集中することしかないはずで、五輪なんてやっていられる状況ではありません。五輪開催は狂気の沙汰ですよ。政府はなぜ開催中止を堂々と議論しないのか。責任を取らなければならなくなるのが嫌なのでしょう。五輪が中止になれば当然、菅政権は総辞職、安倍前首相は政界を去らなければなりません」
五輪中止なら菅が描いている衆院解散や自民党総裁再選のシナリオがすべて狂う。五輪とパラリンピックで日本国中が感動の渦に包まれたまま、その勢いをテコに解散総選挙で勝利し、自民党総裁選を無投票で乗り切って再選を果たす。そんなバラ色の未来は雲散霧消だ。それでなくても、緊急事態宣言拡大のドタバタ劇に嫌気をさした世論の内閣不支持率急増に、自民党の若手からは「もう首相は限界ではないか。交代しないと厳しい」という声まで出てきている。
前出の山田惠資氏が言う。
「それこそが、菅首相が五輪開催にかたくなにこだわる理由です。五輪が中止となったら政権が持たなくなる。支持基盤の弱い菅首相にとって、五輪とワクチンが自らを支える最後の切り札。何としても五輪を成功させなければならないと思っているので、自治体のワクチン接種が進まないことにイラ立つわけです。感染防止対策で専門家らと認識がズレるのも、五輪開催を前提にした楽観論しか耳に入らず、嫌な話は切り捨てるからです」
現実が見えないポンコツ首相には、一日も早く退いてもらうしかない。それが国民のためだ。