2021年5月3日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/102034
<連載「五輪リスク」B聖火リレー>
47都道府県で人口が最も少なく、県内総生産も最小の鳥取県。平井伸治知事(59)が、首都東京の五輪の聖火リレーを「アメリカナイズされた大騒ぎ」と評している。
「私も米国暮らしの経験があるが、皆で踊って大騒ぎする文化だと思う。日本でも、大都会には派手なパレードはあると思う。でも、鳥取にはないです」
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◆派手な車列に大音量の音楽 東京基準は非合理的
聖火リレーは、約30台の車列が約800メートル続く。ランナーを先導するのは、大会スポンサーとなった企業の大型宣伝車。大音量で曲を流し、車上のDJ(ディスクジョッキー)が興奮を盛り上げる。
新型コロナウイルスの感染拡大のさなか、有名人ランナー目当てに集まる人々に企業がグッズを配り、群集の「密」も生じた。
4月、本紙のインタビューに応じた平井知事の口調は穏やかだが辛口だった。東京・秋葉原で生まれ育ち「東京の感覚は分かる」とした上で、「全国のリレーを東京基準で作るというのは合理的ではないのではないか」「地域になじむやり方がある」「商業主義と五輪の理想の調和を保つべきだ」と説いた。
◆3500万円削減 「地味で良い」
財政が裕福でない鳥取県にとって、沿道警備や式典などリレーの費用9000万円の負担は重い。予算を少しでもコロナ対策に回し、沿道の密集を避けようと、見直しへ向けて組織委との交渉に入った。
リレーは5月21、22日。当初計画では県内の走行距離は31キロだったが、半分の16キロに短縮する。市町村ごとの走行区間を極端に短くすることで、長い車列が通過する余地がなくなり、大型宣伝車の登場場面が激減する。予算も、約3500万円削ることができた。
有名人ランナーは辞退した。「地味で良い」と平井知事は言う。
そもそもリレーの目的は平和や友愛など五輪の理想を体現し、大会への関心を高めるためだ。
「地方で皆が見たいのは同じ村のあの人、苦労してきたあの子が、聖火を持って堂々と走る姿ではないか。その体験を共有し、記憶に刻み込むことが、リレーの意義だと思う」
◆100億円の協賛金 リレー中止できない理由
企業に広告を認める代わりに、莫大な協賛金を負担してもらう―。そんな「商業五輪」の源流は、1984年のロサンゼルス大会にさかのぼる。背景には、その8年前のモントリオール大会が巨額赤字を残したことへの反省があった。
東京大会の聖火リレーがスポンサー優遇に見えるのはなぜなのか? 答えは単純である。リレーの財源が、約100億円のスポンサーの協賛金だからだ。
国からの支出はない。都も他の道府県と同様に、都内の沿道警備や式典の費用を負担するだけだ。
「世論の批判を浴びたからといって、リレーを途中で中止したら、スポンサーから『逸失利益を支払え』と言われかねない」。組織委の幹部は自嘲気味に続けた。「商業五輪の醜い姿を示してしまった」
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