まるでエデンの園 改装したアフリカ随一のホテル モロッコ・マラケシュの「La Mamounia」
仲山 今日子 2021/01/11
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© Forbes JAPAN 提供窓を開けると、アフリカの空の匂いがする。明け方の茜色の空のグラデーションの先に砂漠やサバンナが広がっているのを感じさせるのは、朝の鳥のさえずりのせいなのか。
アフリカ随一のホテルとの呼び声も高い、モロッコ・マラケシュの「La Mamounia(ラ・マムーニア)」。18世紀にスルタン(イスラム教における君主)が息子の結婚祝いに贈った庭園が元となるホテルは、王室との関わりが深く、今も100%モロッコの地元資本であり、重要事項の決定には国王の認可が必要とされている。
別名「グラン・デーム(貴婦人)」と言われるこの宮殿は、97年の歴史を刻む中で、英国のチャーチル元首相など数々のVIPに愛されてきた。その魅力は、700年もの時を刻むオリーブの古樹の並木、オレンジやジャスミンの花々が香る庭園、エキゾティックなサボテン、そしてそこに集まる鳥たちなど、自然を抱えるホテルとしての生き生きとした姿だ。
スパイスロードの終着地であるモロッコは、古くから手工業品を輸出し、その技でも知られる。扉や天井には、地元のアルチザンたちによる繊細な手描きや石膏細工で華麗な草花模様が施されている。
「快適さ」というラグジュアリー
そんな生命の輝きをまとう貴婦人は、これまでにも4回、その時代を代表する建築家が化粧直しを手掛けてきた。前回のリノベーションから約10年の時を経て、2020年、建築&デザインユニット、ジュアン・マンクのサンジット・マンク氏がレストランやサロン・ド・テ、バーなど、飲食店部分を中心に改装を行った。
「自分の役目は、『今』を加えて未来へと提示していくこと。美術館のように、静かすぎて過去に生きているヘリテージではなく、祖父母世代の記憶を受け継ぎつつも、生き生きとした建築にしたい」というマンク氏は、昨今のラグジュアリーのキーワードは”快適さ”であると話す。
「肩の力を抜いて自然体でいられるのが今のトレンド。ハイヒールでなく、快適なスニーカーで歩き回るように。でも、10万円以上する高価なスニーカーがあるように、快適であることが、ラグジュアリーでないというわけではない。『人が生きたいように生きられる』というのが今のラグジュアリーだ」
マンク氏は、パリの「アラン・デュカス・オー・プラザ・アテネ」など、数々のレストランのデザインも手がけている。そのうえで、「同じことが食にも当てはまる。より軽く、小さなポーション、そしてもちろん、快適であるということが重要だ」という。
そのマンク氏の言葉通り、これまでホテル内のレストランはモロッコ料理レストランの他、ミシュラン二つ星シェフが手がけるイタリアンとフレンチだったが、これをNYを拠点に世界でインターナショナルな料理を提供するジャン-ジョルジュ・ヴォンゲリスティン氏が手がけるカジュアルなスタイルのイタリア料理とアジア料理に一新した。
リニューアルにあたり、「イタリアン・バー」の軽食を含むメニューと館内のスイーツ全般を、ピエール・エルメ氏が監修することになった。
バー「ル・チャーチル」は、30年前からこのホテルの顧客でもあり、歴史をよく知るジャック・ネボ氏が創業したキャビアブランド「キャビアリ」の最高級キャビアが楽しめるシャンパン&キャビアバーに変身を遂げ、フレンチラグジュアリーを体現する。
今回新しくジュアン・マンクのデザインで生まれ変わったキャビア&シャンパンバー「ル ・チャーチル」。
ホテルの庭園、地元で獲れる食材で
環境への意識の向上、そしてその土地のものを食べたいという嗜好に合わせ、レストランで使う食材の8割以上がモロッコ産だ。さらにイスラム教が多い地元客への配慮から、肉はモロッコ産のハラールのものに限られる。
食材の仕入れを担当するフランス・ブルターニュ出身のヨアン・ベルナルド総料理長によると、例えば、牛肉はフランスのシャローレ牛と和牛の交配種をフランスから生きたまま取り寄せ、モロッコで肥育したものを使用する。魚は地中海と大西洋、2つの海を持つ恵まれた立地を生かし、日中水揚げされた魚が夕方に届く。冷凍や養殖の魚は使わず、海辺育ちのシェフも満足するクオリティの素材が使われている。
70人もの庭師が、広大な果樹園のみならず、敷地内にあるオーガニックの自家農園を丹精こめて手入れしている。朝食のジュースやお菓子、カクテルなどに柑橘類が幅広く使われている他、料理には、庭で採れたオリーブを絞ったオリーブオイルが添えられる。
身近に新鮮で良質な食材が揃う今の環境に非常に満足している、と語るベルナルド総料理長
ピエール・ジョエムGMが「ラグジュアリーとは、スペースだ」と目を細めるように、7ヘクタールもの敷地には700本のオレンジの木、200本のオリーブの木、5000の薔薇、21種類のサボテン、6種類の椰子の木が生い茂る。オレンジの木の下にはプールサイドにあるようなデッキチェアが配置され、昼寝やピクニックなど、の庭園で楽しめるゆったりとした時間は、まさに「エデンの園」を思わせる。そして、それはコロナ禍がもたらした新しい価値観とも合致する。
いまだ猛威をふるうコロナ対策の衛生管理も徹底している。ロビーの共有施設などは、スタッフが一日に何度も消毒をおこなっている姿を目にした。
ホテル内のレストランを出る時にマスクを忘れた場合、すぐさま銀のトレイに乗った新しいマスクがトングで手渡され、チェックインの際は荷物も消毒、一度使用した部屋は3日間以上あけてから次のゲストを入れるなど、先進国での衛生基準がきちんと守られている「安心感」も、新しい時代のラグジュアリーであるとも言えるだろう。
そんな安心を担保しつつ、10月にモロッコの他のラグジュアリーホテルに先んじて再開を決めた理由は、100年近くこの場所に根を下ろしたホテルとしての思いがあった。旧市街と新市街の境の交通至便な場所にあるLa Mamouniaは、古くからランドマークとして親しまれ、地元の人々の誇りでもあった。
「2018年に世界一のホテルに選ばれた時には、地元の人たちが旧市街の街中で踊って祝っていた」とジョエムGMは振り返る。コロナ禍でモロッコの産業の柱の一つである観光業が危機的な状況にある中、万全な安全対策をした上でホテルを再度開くことが、「モロッコは観光客を受け入れる準備ができている」と世界に知らしめ、街全体を活気づけると判断したのだ。
コロナ禍でも、ブランドを落とさないため、客室料金は下げず、代わりに無料のスパ・トリートメントやギフトをつけることで価値を上げ、首都ラバトやカサブランカなど、国内客の支持を得ているという。
縁のあるモロッコからアフリカ開拓へ
それに拍車をかけたのが、10月に新しくオープンしたヴォンゲリスティン氏の2つのレストランで、「週末などは国内の宿泊客だけで満席で、地元客を断らざるを得ないほど」の人気だ。
世界で39店舗を経営するヴォンゲリスティン氏は、仏アルザス地方出身。実は「モロッコは19歳の時に初めて訪れた海外」なのだという。すでに見習いとして料理の仕事についていた当時、徴兵制があったフランス海軍のボートに乗り、上官の食事提供をしていた。
カサブランカに上陸し、鮮やかな色彩やスパイスの香り、エキゾティックな建物に魅了され、市場で買い込んだハリッサ(唐辛子ペースト)やレモンの皮の塩漬けなどを使って、帰り道に上官の料理を作り、とても喜ばれたという。後にエキゾティックな味をフランス料理に取り入れたスタイルで知られるようになるが、そんな自身の原点となった場所なのだ。
今回アフリカに初めての店舗を持つことで、モロッコからさらに深くアフリカを知り、開拓していければと考えているそうだ。イタリア料理もアジア料理も、野菜も多く使う栄養バランスの良い食事なのが共通点。「人生には何事もバランスが大切。新しいラグジュアリーとは、そんなバランスを取り戻すことなのではないか」と語る。
コブミカンの葉など、東南アジアの味を取り入れたフュージョンスタイルの「アジアティーク」
3年前からLa Mamounia内にスイーツショップを構えているピエール・エルメ氏は、ヴォンゲリスティン氏と同郷で25年来の親友。今回レストランを共に作り上げるにあたって会話を重ねたことが、エルメ氏にとっても新境地の開拓につながった。
1年半前、NYにあるヴォンゲリスティン氏のヴィーガンレストラン「ABCv」を訪れたエルメ氏は、「ヴィーガンでもおいしいものが作れる」と感じ、2020年冬に初めてヴィーガンのクリスマスケーキを発売した。
新たなクリエイティブな機会
「コロナ禍で、人々はより一層環境に配慮した選択をするようになり、ヴィーガンを試してみたいと思う人が増えるだろう。おいしいことが大前提だし、ヴィーガンがスイーツの未来であるとまでは思わないが、クリエイティブな機会だと思う」として、卵白の代わりにヒヨコ豆を使ったヴィーガンマカロンも開発中だ。
世界的な健康志向の高まりから、砂糖やクリーム、バターを減らしながらも、同じおいしさが楽しめる、よりヘルシーなレシピにも取り組んでいる。La Mamouniaのショップの定番「タルトインフィニティ」も、味を変えず同じテクスチャーでカロリーを40%減らすレシピに変えるなど、「内側の変革」を始めている。
また、モロッコの女性たちから菓子の作り方を学び、「ガゼルの角」と呼ばれる地元の味を再構築したデザートを提供するほか、La Mamouniaにインスピレーションを受け、オレンジ、オレンジの花、レモン、蜂蜜を使ったケーキをパリの本店でも売り出すなど、アフリカでの展開はエルメ氏の新たなクリエーションに大いに影響を与えている。
美食という意味では、まだ未開の地という印象が強かったアフリカだが、豊かなモロッコの大地から、それは徐々に変わってくるのかもしれない。
エルメ氏の「ガゼルの角」。「イタリアン・バー」では、果樹園の緑を眺めながらデザートやハンバーガーなどの軽食が楽しめる。
農業と漁業に恵まれているモロッコは、人々が穏やかで、他のアフリカ諸国と比べると格段に治安が良いのも魅力だ。日本から見たら、決して経済的に豊かな暮らしとは言えないかもしれない。しかし、タクシーの運転手は「上を見始めたらキリがない。幸せなのは、家族と過ごす時間。自分の暮らしに満足している」と話していた。
コロナ禍で生気を失ったように見える灰色の都会の景色、部屋に閉じこもりがちな生活とは正反対に、ここには自然があり、鮮やかな色彩と、鳥や植物の命の輝きがある。こんな時期だからこそ、「いきいきと生きている」命の輝きを身にしみて感じた。
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