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大阪地検特捜部の検事による郵便不正事件の証拠改ざん発覚から、21日で10年。事件で冤罪に巻き込まれた元厚生労働次官の村木厚子さん(64)が本紙の取材に応じ、「事件のことはいつか忘れられる。でも検察は、権力は抑制的に使われなければいけないという自覚を持ち続けてほしい」と願った。
村木さんは郵便不正事件に絡み逮捕されたが、公判では共犯とされた部下らが「村木さんが関与したとする私の供述調書は、検事のでっち上げ」などと証言し、無罪に。直後の2010年9月21日、検察のストーリーに沿うよう証拠を改ざんしていた前田恒彦検事(当時)が逮捕された。
村木さんは「容疑者が話した内容をまとめたものが供述調書だと思っていた。実際は脅しや情報操作などありとあらゆる手で、検察のストーリーに沿うようにまとめられたものだった」と振り返る。(小沢慧一)
◆強大な権力、使う際は恐れをもってほしい
10年前に発覚した大阪地検特捜部検事による証拠改ざん事件は、郵便料金割引制度の適用を認める厚生労働省文書の偽造事件が舞台だった。冤罪に巻き込まれた村木さん(64)は「検察は人の人生を左右させる強大な権力を持っている。権力を使う際は恐れをもってほしい」と語った。
事件後に復職した厚労省を退職し、現在は津田塾大(東京)で客員教授を務める村木さん。「授業の準備で忙しいのよね」と笑顔で同大の会議室に現れ、164日間に及んだ大阪拘置所での日々を静かに振り返った。
◆供述調書、検事が勝手に作文
「私の仕事はあなたの供述を変えさせることです」
当初から一貫して無実を訴えていた村木さんに、担当検事は2009年6月14日の逮捕直後、そう言い放ったという。既に自身の疑惑が報じられており、出頭要請の際は「やっと検察に話を聞いてもらえる」と期待もしたが、「耳を傾けてくれる気はないんだ」と絶望した。
それでも「全く身に覚えがない」と容疑を否定し続けたが、検事はメモすら取らずに「なぜあなただけ記憶が違うのか」「否認していると刑が重くなる」と自白を迫った。
驚いたのは、起訴後に目を通した部下らの供述調書。「村木に指示されてやった」「村木に『よろしくお願いね』と頼まれた」などと、ありもしないことが書かれていた。
「なぜみんなうそをつくの」―。接見の際にそうこぼすと、弁護人は「誰もうそなんかついていない。検事が勝手に作文し、そこから作文を認めるかどうかの交渉が始まるんだ」と言った。
さらに裁判資料を読み進めると、検察のストーリーが破綻していることをうかがわせる文書が見つかった。フロッピーディスク(FD)データの捜査報告書だ。部下が偽造証明書を作成した日時が書かれていたが、村木さんが作成を指示したとされる起訴内容の時期よりも前だった。
大阪地裁の初公判で弁護人がこの矛盾を突きつけ、証人尋問では部下らが次々と「調書は検事の作文」「村木さんとのやりとりは全部でっち上げです」と告白。10年9月10日、村木さんは無罪となった。
◆本当の問題はうその調書を組織的に作成したこと
最高検が同月21日、FDを改ざんした証拠隠滅容疑で前田恒彦検事(当時)を逮捕。村木さんは「改ざんは個人がやったこと。本当の問題は、検察が見立て通りの事件をつくるために、事実と異なる調書を組織的に作成したことです」と語気を強める。
事件後、捜査手法の問題点がクローズアップされ、無理な取り調べをしていないかチェックする仕組みとして、一部事件での取り調べの録音・録画が法制化された。「適正な取り調べの第一歩になったとは思う。でも、まだまだ。すべての刑事事件にまで広げないと。弁護人の立ち会いも認めるべきです」と訴える。
「メディアも当局から流された情報だけに乗るのではなく、節度ある取材や公正な報道を心掛けてほしいですね」と苦言を呈しつつ、検察にこう注文した。
「人には必ず弱い面がある。弱いところを突かれれば、うその自白をしてしまうことはあると思う。検察は事件の教訓を忘れず、冤罪を生み出さない努力をしてほしい」
大阪地検特捜部検事の証拠改ざん事件
元厚生労働次官の村木厚子さんが郵便不正事件で無罪になった直後の2010年9月21日、大阪地検特捜部の検事(当時)が証拠品のフロッピーディスクを改ざんしたとして逮捕された。元検事は証拠隠滅罪で懲役1年6月の実刑が確定。元特捜部長と同副部長は、改ざんが故意と知りながら過失として処理したとして犯人隠避罪に問われ、執行猶予付きの有罪判決を受けた。最高検は同年12月の検証報告書で「村木氏を起訴すべきではなかった」と指摘した。
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