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二階「あんたしかいない」
— 冨永 格(たぬちん) (@tanutinn) September 3, 2020
菅「継続性ではそうですね」
安倍首相が退陣を表明した翌日(8月29日)夜、赤坂にある議員宿舎内の一室。菅官房長官は自民党の二階幹事長、森山国対委員長と話し込んでいた。
…朝日1面トップは、突然の「菅雪崩」を検証する内幕もの。https://t.co/DyNsYmL8KW
※紙面、一部文字起こし
二階氏「あんたしかいない」 菅氏と会談 一気に流れ生む 自民党総裁選
安倍晋三首相が退陣を表明した翌日の8月29日夜。菅義偉官房長官は東京・赤坂の議員宿舎内の一室で、自民党の二階俊博幹事長、森山裕国会対策委員長と話し込んでいた。二階氏が安倍政権の継続性を念頭に「あんたしかいない」と語りかけると菅氏はこう応じた。「継続性はそうですね」。二階氏はその言葉を立候補への意欲と受け止めた。
それから二階氏の動きは素早かった。翌30日午後、二階派(47人)の幹部が集まり総裁選の対応を話し合った。同派の河村建夫元官房長官は会議後、菅氏について記者団に「首相の残り任期についての責任があるのではないか」と話し、派として支持する姿勢を打ち出した。この時、すでにネット上やテレビで「菅氏、総裁選に立候補へ」との速報が流れ始めていた。
派閥に属さない菅氏が総裁選を勝ち抜くには、実力者の後押しと「数の力」が欠かせない。二階派が早々に支持を打ち出したこの日の夜、菅氏は周囲にこう意欲を口にしたという。「俺がやらざるを得ない。これで出なかったら、逃げたと言われちゃうよ」
長期政権で黒衣役に徹してきた菅氏だが、昨年4月に新元号「令和」を発表すると、「令和おじさん」として知名度が上昇。「ポスト安倍」の一人に数えられるようになった。一方で、首相への意欲を問われると「全く考えていない」と否定し続けた。
そんな菅氏が一転して有力候補に浮上したのは、安倍首相が後継含みで目をかけてきた岸田文雄政調会長の評価が上がらないことが理由だった。昨秋、岸田氏の幹事長への「昇格」を見送った首相は今年に入って以降、「岸田さんは化けないんだよね」と漏らすようになっていた。
これを好機とみたのが、二階氏と森山氏だった。菅氏と同じ地方議員出身で、党と国会の運営を仕切る両氏。官邸の要にいる菅氏とは、かねて情報交換を重ね連携してきた。
菅氏は4年前、総務会長だった二階氏を幹事長に推し、昨年秋の党役員人事でも「二階さんでないと党を抑えられない」と、岸田氏への交代を見送るよう首相に進言した。一方の二階氏は「菅氏は土のにおいがする政治家だ」とたたえる。森山氏は石原派(11人)に属しながら二階氏の信頼が厚い。3年以上にわたって「1強国会」を差配し、予算委員会で野党の質問時間削減に動いたり、首相出席の審議を「必要ない」と一蹴したりしてきた。
二階、森山両氏が主導し菅氏がトップに就けば、両氏の権勢がさらに増すのは確実だった。「官房長官だから、引き継ぐのは当然でしょう」。安倍首相が8月17日に病院で投薬治療を受けた後、森山氏はそんな考えを周囲に口にするようになった。その後、二階氏とたびたび会談を重ねた。
9月1日、岸田、石破両派を除く5派閥が「菅氏支持」で固まり、国会議員票の大勢は決した。「流れをうまく作りましたね」。その日夕刻、二階派幹部は二階氏にそう伝えた。同派関係者は党内で起きた「菅雪崩」現象をこう振り返った。「緞帳(どんちょう)が上がった時には、もう舞台は終わっていたということだ」
2面に続く |
▼4面=3陣営本格始動、12面=社説
“菅氏は最近、自身に近い若手議員を集め、石破、岸田両氏のどちらが後継首相にふさわしいか聞いたところ、大半が石破氏の名を挙げたと説明。「出なければいけないと決意しました」”https://t.co/gukQLDxwhI
— Take-1 (@take1_zama) September 4, 2020
というエピソードはともかく、権力者の力の源泉を認識しておくことは大事。 pic.twitter.com/IdPB0ENm2D
「菅人事」 求心力の源
官房長官7年超 若手にポスト 従わぬ官僚は交代 |
8月31日に菅氏の国会事務所を訪れたのは十数人の無派閥の若手議員だった。当選4回以下でつくる「ガネーシャの会」のメンバー。世襲でもなく、選挙基盤が弱い議員も多い。坂井学元総務副大臣は「ご恩返しの機会をください」と菅氏に伝え、立候補を求めたという。山本朋広防衛副大臣は記者団に「非力で一匹おおかみだった自分たちの政治活動をふびんに思った菅氏が支えてくれた」と強調した。
菅氏はこの10年余り無派閥を続ける。党内基盤は弱いはずだが、逆に求心力は高まってきている。その源泉が7年8カ月に及ぶ官房長官としての立場を使った人事だった。
第2次安倍政権では、菅氏に近い無派閥議員が次々と政務三役に起用された。派閥の推薦も一定の影響力を持つなかで、「菅人事」は目に付いた。
2017年の内閣改造では、初入閣の地方創生相・梶山弘志氏と国家公安委員長・小此木八郎氏が菅氏「枠」とされた。2人は元々、石破氏が13年に立ち上げた「無派閥連絡会」のメンバーだったが、石破派結成の際に石破氏と距離を置き、菅氏と連携を深めた経緯があった。
疑惑の浮上で辞任に追い込まれた無派閥の菅原一秀・前経済産業相と河井克行・前法相の初入閣も、菅氏の強い後押しがあった。菅原氏は当時、自らのブログに「政治の師である菅義偉官房長官のご指導の賜物(たまもの)」とつづった。
菅氏が中心となって差配していた副大臣・政務官人事でも、山本、坂井両氏のような無派閥の若手を抜擢(ばってき)した。無派閥議員の間で、「ガネーシャの会」のほかにも複数の側近グループが発足し、事実上の「菅派」を形作った。
2日の立候補表明会見の司会は坂井氏だった。菅氏は「支えてくれる当選4回以下の国会議員のみなさんは、誰ひとり派閥に所属していない。その人たちのエネルギーが私を押し上げてくれている」と語った。
霞が関の人事でも、自身が進める政策に後ろ向きな官僚を外すという「剛腕」をふるい、自身の影響力アップにつなげてきた。
「ふるさと納税」をめぐって、寄付の限度額の引き上げを主張する菅氏に、高所得者の寄付額を制限するよう提案した担当局長が、「出世コース」から外された。菅氏の持論だった農協改革に絡む協力依頼を断った金融庁長官は、1年で交代。後任には自身が信頼を寄せる森信親氏を起用し、森氏の在任は異例とも言える3年間に及んだ。
出身派閥が基盤となる総裁選で、無派閥議員が立つのは簡単ではない。にもかかわらず、派閥がこぞって支援に回る「菅雪崩」現象が加速する。菅氏を支持する派閥の閣僚経験者は、その背景をこう解説する。
「人事が怖くてまとまったのだろう」