宇野功芳の音盤棚
unauの無能日記 @
https://www.kinginternational.co.jp/uno/000015.shtml
日本のクラシック・ファンはまずドイツ音楽が好きになる。とくにモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスなど、ウィーンに住んだ作曲家が大好きだ。
ぼくもご多分にもれず、その道をたどり、今でも好きな作曲家ベスト・スリーはモーツァルト、ベートーヴェン、ブルックナーである。初めてヨーロッパの土を踏んだのは1971年だが、もちろんドイツ、オーストリアが中心だった。そして人間も含め、ドイツとの親近感を持ちつづけて来たのだが、90年頃、ちょうど15年ぐらい前からフランス以外には行かなくなってしまった。自分は今までドイツ一辺倒だったが、日本のクラシック音楽家の常として、そのように刷込まれてしまったのではないか。ドイツ人気質に近いと思っていた自分が、実はラテン人気質(とくにフランス人)に近かったのではないか、と突然気がついたのである。
そのころからドイツ・ロマン派の音楽がうっとうしくなり(ブルックナーはドイツ・ロマン派ではない)、ラヴェルの「ピアノ協奏曲」や「マ・メール・ロワ」、ドビュッシーの「ノクチュルヌ」や「子供の領分」、その他プーランク、ミヨーなどの音楽に著しく魅かれるようになった。ヨーロッパの町でも、いちばん飽き飽きしたのがウィーン、ほとんど恋をするようになったのがパリ。第一、ドイツ、オーストリアの食事のまずさは、味覚がますます敏感になるにつれて受けつけなくなってしまった。
パリに通いつづけた15年間がなんと幸せだったことだろう。もちろん、フランス国内は移動する。コート・ダジュール、鷲の巣村、プロヴァンスのような南の地方にはとくに憧れた。昔はヨーロッパの北。ドイツはもちろんとして、ノルウェーにも足をのばしたというのに。フランスではとくにブルゴーニュ・ファンになり、その中心地ボーヌには毎年泊りがけで、あるいは日帰りで出かけた。
フランスを愛するのは、もちろんあの風景の明るさやフランス人気質のせいもあるが、最高の魅力はなんといっても料理とワインのすばらしさだ。このことについてはいずれ本シリーズのエッセイで詳述するつもりである。フランス好きが高じて、植民地のニュー・カレドニアやタヒチもしばしば訪れているのだから、このフランス病は本物というほかはない。
IMG_2258『unauの無能日記』宇野功芳氏直筆原稿
それを書き始めると切りがなくなるので他日にゆずることとし、今回は動物園について書いてみたい。ぼくはフランスのみならず、どこの町に行っても、まず足を運ぶのが動物園だ。動物を見ている時の幸せ感というものは、もう言葉には尽くせず、いつまで居ても飽きることがない。
今までに行った動物園のベストはウィーンのそれだ。例のシェーンブルン宮殿の奥にあるものである。最近は昔風の檻が並んだ動物園は珍しくなり、もっと広々とした動物公園が多くなった。日本では上野までそういうスタイルに変ってしまったが、ここははっきりいって最低。動物が木や石などの陰にかくれて見えないことが多いからだ。
その点、ウィーンは見る人のことがよく考えられており、とくにトラは最高! ガラス張りの檻だが、傍に近づいて写真をとろうとするとトラがわっと立上がって威嚇するので、思わず逃げてしまう。 我ながらだらしがないが、体が反応してしまうので仕方がない。ライオンも目の前、パンダも目の前、狼も実に見やすいし、しかも彼らは実にのびのびと広い場所を動きまわっている。ウィーンという町には飽きたが、動物園だけは何回でも行きたい。
日本では神戸がすばらしい。やはりトラとパンダが見ものだ。他国ではロンドンが最低、ベルリンもあまり感動しない。アントワープ、ベルンは素朴でまあまあ。それよりはブザンソン、フランクフルト、ミュンヘンが豊かで好きだ。スイスのバーゼルは水族館がことによるとベストかも知れない。
ではパリは、というと、これがひどい。動物園のはしりだが、見にくい上に、園自体にやる気がまったくなく、荒れ果てたまま。だからパリでは植物園の中にある小動物園に必ず行く。動物の数は少ないが、猛獣類も居るし、ダニの館もある。 いろいろな種類のダニがうようよいるのを顕微鏡でのぞくわけだが、フランス人たちが悲鳴をあげながら見ている。そのダニの気味の悪いこと!
ぼくは動物園ではトラやヒョウも好きだが(パンダはもちろん!)、オオカミ、タヌキ、キツネ、モモンガ、コウモリなどの小動物、そして水族館が好きだ。ヘビやワニはあまり好まない。面白くないのはナマケモノだ。なにしろ動かないのだから話にならない。ご面相も珍妙で、決して味があるという代物ではない。このナマケモノがそのパリの小動物園に居る。相変らず木につかまったまま微動だにしない。何が面白くて生きているのか。馬鹿にしながら通りすぎようとして、ふと名前を見た。いや、びっくりした。なんと"unau"と書いてあるではないか。ナマケモノはフランス語ではunauというのだ! フランス人はもちろんユノーと発音するが、われわれにはウノーとしか読めない。オレは怠け者なのか。一瞬シュンとしたが、考えてみればかなり当っている。それからは署名にunauと書くようになってしまったのである!
2007年1月
unau 記
2018年4月 4日
https://www.kinginternational.co.jp/uno/000015.shtml
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